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商人は意外にも陽気だった

いつもお読み頂きありがとうございます。

※※※


「う、う~ん。良く寝たわぁ~」


「ふわ~あ。凄く気持ち良かった~」


 ラミーとノライがスッキリした顔で同時にシュラフから現れ、そして揃って思い切り伸びをする。それから2人はふと目を合わすと、ダンジョン最下層での事を思い出したのか、一気に顔を真っ赤にし同時に俯いた。


「え、えーと……、おはよう?」


「あ、え、ええ。……お、おはよう、かしら?」


 照れながらお互いもじもじしている。少しして、2人揃って声をかける。


「「……あ、あの!」」


 だが、被ってしまい気不味くなって、またも2人俯くが、ノライが先んじた。


「……、な、なんだい? ラミー?」


「ノ、ノライこそ、どうしたのかしら?」


「あ、あの、あのさ……。ラミー」


「え、ええ。な、何……、かしら?」


「そ、その、さ。あの……。ダンジョンでの話、だけど……」


「え? あ、ああ、あれね……」


 そしてノライは意を決した表情でラミーの肩を力強く掴む。ラミーはビクっと反応するも、まるでトマトの様に顔を更に赤くさせノライを見つめる。


「ラ、ラミー!」


「ひゃ、ひゃはい!」


「あ、あの時の、僕の言葉、う、嘘じゃないから!」


 ノライの告白にラミーはビクっと体を震わせ頬が赤いままノライを見つめる。そして……。


「はいはい。茶番は後でなさい」


 突如しゃわがれた太い声の主が呆れながらパンパン、と手を叩き、2人の世界から現実に引き戻す。2人は揃ってビクッとその柏手に反応し、恥ずかしさを誤魔化す様にササっとそっぽを向いた。


「とりあえずここに置いてある荷物、さっさと片付けなさいよ。そもそもそういう事は店先でやるんじゃないわよ」


 呆れながら2人を急かすジャミーに気付いたラミーは、キョトンとしながら声をかける。


「叔母さん? なのかしら? って事は、ここは叔母さんのお店なのかしら?」


「こらラミー! その呼び方は止めなって言ったわよね!」


 怒りながら叫ぶジャミーをスルーし、ラミーは現実がどうか確認するかの様にキョロキョロする。ノライも同じ仕草。そして漸く、死んでおらず助かった事を実感し始める2人。


「……そうか僕達、ファリスに戻って来れたんだ。本当に助かったんだ。ハハ……。既に死んでて夢の世界に居たのかと思ったよ」


 どうやら先程のやり取り、ノライは夢の中だと思っていた模様。だが生きている事を実感し、ノライはへなへな、と脱力した。そしてラミーもほう、と大きな息を吐き安堵する。


「でもどうやって戻って来れたのかしら?」


「この不思議な寝袋? に急いで入ったとこまでは覚えているけど。そういやミークが居ないね」


 ノライの疑問にジャミーが「ミークは無事よ。さっき慌てて出ていったわよ」と答える。それを聞いた2人はホッと胸を撫で下ろす。


「そっか。ミークも無事か。良かった」


「本当ね。でもどうやってあそこから出てきたのかしら?」


 そう、ノライとラミーが共に首を傾げていると、ラミーとジャミーが揃って突然、ハッと何かを感じ取り、2人外に目を向けた。


「今のは?」「何かしら突然?」


 そして2人は確認しようと店の外に出る。ノライも何事かと一緒に外に出て「どうしたんだい?」と尋ねる。


「今、途轍もない魔素をギルドの大広場辺りに感じたのよ」


「そうね。これは尋常じゃないわ。多分ミークが向かった先よ」


 ジャミーがそう言うと直ぐ、ラミーは「ノライ! 私達も行くわよ!」と声をかける。ラミーの表情からきっと緊急事態だと判断したノライは「分かった!」と返事し、2人揃ってギルド前の大広場へ駆け出した。


 そうして2人は大広場に辿り着いたが、丁度その時、ミークはラミーとジャミーが感じ取った魔素の元、アラクネと戦闘している最中だった。


 ※※※


「「……」」


 この世界でも上位の魔物とされる強敵であるアラクネ。その強さはこの世界の最上種とされるドラゴンでさえ手を焼くと噂される程である。しかしギルドの大広場では、それに対し黒髪の超絶美女がたった1人で戦っている。


 2人は魔素の正体がアラクネだった事にも驚き一瞬たじろいだ。だがそれでも、ミーク1人に戦わせてはおけない、と助太刀に入ろうとする。だがほんの数分で、その気持ちは消え失せた。


 眼前で行われている攻防。それは途轍も無く凄まじく、ゴールドランク級のノライの動体視力でさえ目で追えないスピード。そして引っ切り無しにストーンバレットがミーク目掛けて飛んで行くも、それを躱し続けるその規格外の反射速度に、経験豊富なラミーは自分にはとても捌けない、と確信した。


 自分達には到底無理な戦い。寧ろ助太刀に入った方が邪魔になる。そう理解するには充分な攻防だった。


 そしてミークが圧倒的な力の差を見せつけ勝利すると、その場に居た人達同様、ラミーとノライは共に呆気に取られるしか無かった。


「……これが、ミークの戦いなのね」


「凄まじい……。それしか言い様が無いな……」


「私が見てきた冒険者の中でもきっと一番強いわ。プラチナランクと言っても良い位よ……。あら? バルバが居るわ」


 ラミーがそう言いながら見ている視線の先をノライも見てみる。そこには鎧が剥がされ項垂れ縛られているバルバの姿があった。


「バルバも無事だったみたいで良かったけど、何で鎧脱いで縛れてるんだろう?」


 ノライの疑問にラミーも「本当ね」と、同様に首を傾げた。


 ※※※


 ミークは左腕に戻って来る様指示をした後、「「ミーク!」」と、遠巻きに見ていた人達の中から声をかけられ振り返る。その声の主はラミーとノライだった。


「2人共気が付いたんだ。ね? 助かったでしょ?」


 ミークのリアクションに2人揃って苦笑いをする。


「いや普通、ダンジョン崩れてしかも最下層に居たら生き残れないからね」


「その通りよ。今あなたの戦いを初めて見たけれど、ミークって本当に強いのね。感服したわ。ところで何でバルバは縛られているのかしら?」


 ラミーの質問にミークはスッと表情を消し無機質な顔に変わる。その温度を感じない冷たい表情に、2人揃ってゾッとする。


「ど、どうしたんだ? ミーク?」


 ノライの疑問に答えず、ミークはつかつかとバルバの元に歩み寄り、そのままバルバの金髪をむんずと左手で掴み、ポイ、と2人の傍まで転がした。


「な! ミーク! 何をしてるのかしら?」


「そ、そうだよ! どうしてそんな事!」


 バルバに対するミークの容赦無い突然の行動に驚く2人。そして放り投げられたバルバはミークに文句を言う。


「い、痛ってぇーなぁ! 何すんだよ!」


 だがミークはその反論に意に介さず、ギロリとバルバを睨みながら見下ろす。


「何私に意見してるの? あんたにそんな権利があるとでも? 言っとくけど、ネミルに止められたから生かしてやってんだからね。2人に何でそうなってるか、自分の口から説明したら?」


「生かして、やってる?」


「一体、何があったのかしら……」


 明らかに怒りを含ませたミークの冷たい言い様に、2人共呆気にとられ益々首を傾げた。


 ※※※


「ほっほほ~う! ほほほ~う! うひょひょひょ~う!」


 警備隊員達が協力しながらアラクネの処置を行っている周りで、飛び跳ねながら大喜びしている中年男性。手伝いに来ているカイトとリケルは共に「「鬱陶しいなあ」」と呆れ顔。


 その呟きが聞こえた様で、中年男性は2人に近寄り「お2人共、どうやら分かっておいでではない~?」とテンション高めに声を掛けてきた。


「あなた達ぃ~、も~ぅしかして~、これがど~れだけ貴重で希少なのかご存知無いのですか~ぁ? ご存知であれば~ぁ? 私のこの喜び様が分かる筈ですよ~ぅ! ほっほほ~う!」


 奇妙なテンションで2人に話しかけた後、またもアラクネを中心に踊り周り始める中年男性。カイトとリケルは呆れるより気持ち悪い物を見ている様な視線を送り、そろって大きな溜息を吐いて作業に戻った。


 そしてその様子を同じ様な気持ちで見ている黒髪の美女。


「……あの人あんなキャラなんだ」


 ミークも歓喜の舞? を踊っている中年男性を見て呆気に取られている。そんな風に屍と化したアラクネを中心に周る様に、被っていたベレー帽を扇子みたくひらひらさせながら舞っているその中年男性、彼はバルバ達と共にファリスにやってきた商人イドリスだった。


 舞い踊りながら呆れ顔のミークを見つけた中年男性、もといイドリスは、突然ミークに近寄り、「ほっほ~ぅ! これはこれはミーク様!」とハイテンションのまま声をかける。


「勿論分かっておりますって! このアラクネの素材の所有権はあなた様にあると言う事を! あなたがたった1人で倒したのですからね! いやぁしかし圧倒的でしたなぁ! 私も行商人であるからして? 何度も冒険者の戦いは見てきましたが、いやはやミーク様はそれらと比べても最強と言っても過言では無い! ……まあそれはともかく? このアラクネの素材をですねぇ、ほんのすこぉーし融通して頂けますと有り難いのですよ! ほら私! 商人ですから!」


「あ、はい」


 イドリスのテンションの高さにミークは引きながらも、まあ不要な品なら別にあげても良いかな? と思っていたりする。そもそもファリスに来てからずっと冒険者稼業をしていてお金には困っていないし、特に素材が必要だとは思っていないので。


 そしてハイテンションなイドリスと会話していたミークから少し離れて、ラル、ノライ、ラミー、そして縛られ正座しているバルバが居た。


 ラミーとノライは先程バルバが何をしたかを聞いた。そしてその所業について当然ながら2人共相当腹を立てている。


「あなたのどうしようもない性格は知っていたつもりだし、何かしらやらかすとは思っていたわ。でも奴隷紋を悪用するだけでなく、魔族に協力していたですって? 同じゴールドランクとして恥ずかしいったらありゃしないわよ」


「面識が無かった、ってのもあるけど、流石にバルバがそこまでするなんて僕も想像出来なかった。ゴールドランク云々ってより、人として最低だね」


「……」


 2人から正論で責められ俯くバルバ。その様子を横で見ながら、ラルは大きな溜息を吐く。


「まあとにかく、ミークがバルバを縛ってるそのロープ? 絶対切れないらしいから、とりあえずバルバはそのままで一旦牢屋に入って貰う。で、処分ついては、町長から辺境伯に聞いて貰う事にする。ミーク、それで良いか?」


「……本当はぶっ殺してやりたいけど、ネミルが悲しむから我慢する」


「……そうか。我慢させてすまんな」


 ラルは未だバルバに冷たい視線を送るミークに謝罪したが「ギルド長は悪くないので」といつもの穏やかな表情に戻り、「こっちこそ気を使わせてごめんなさい」と謝罪する。


 ミークがここファリスに来てたった1ヶ月程度だが、それでもラルは、ミークがどんな性格かある程度分かっているつもりだった。無愛想だが心根は優しく穏やかな性格、それがラルのミークに対する印象。だからそんなミークが「ぶっ殺す」という強烈な怒りの言葉を発した事に、ラルは若干驚いたと同時に、それだけ言わせる事をこのバルバはやってしまったのだと思うと、改めてラルはまたも大きな溜息を吐いてしまう。


 そしてラルがバルバを連れて行く為「立て」と命令し、すっかり大人しくなったバルバが言う通りに立ち上がったのを見たラミーは、額を抑えはあ~、と呆れ顔で大きな溜息を吐いた。


「バルバ。あなたとはこれまで何度かパーティー組んだ事もあるし、大抵の事は目を瞑ってきたけれど、今回は流石に擁護出来ないわよ。私達まで死の危険に遭わせた訳だし。当然ゴールドランクは剥奪でしょうね。それどころか、それこそあなた自身、奴隷紋のお世話になるでしょうね」


 ラルに連れられギルドに歩いていく背中越しに、バルバはチッ、と舌打ちをする。


「こんな筈じゃなかったんだよ! 奴隷紋を解除出来るなんてあり得ねぇだろ! クソッ!」


 バルバが去り際そう悔しさを口にすると、ノライがスッと目を細め、スタスタとバルバの前に移動する。そしてその金髪をむんずと掴み、バルバを睨み付ける。


「いい加減にしろ。まだそんな態度を取るのか腐れ外道。僕も相当怒っているんだ。僕だってお前を殺してやりたいが我慢してやっているんだ。ラミーを危険な目に遭わせたその罪、一生許されると思うな。奴隷になってその生涯を終えれば良い」


「こらノライ、余計な事すんな」


 ラルに窘められたノライは「すみません、つい」と頭を下げる。そして「おら行くぞ」とラルはバルバを引っ張りギルドへ連れて行った。


「……馬鹿な奴」


 肩を落とし連れられて行くバルバの背中を見てミークがそう零すと、ラミーとノライは肯定するかの様に、共に無言でバルバを見送った。


「!」


 そこで急に、ミークが突如森の方角に視線を向ける。


「魔族が顕れた。今魔素を感知したよ。前盗賊が棲んでた洞窟の辺りだ」

感想等頂けたら幸いです。

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