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規格外の化け物

いつもお読み頂きありがとうございます。

とりあえず3話投稿します。

 ※※※


「「「「……」」」」


 遠巻きに見ていた町の人々だけではない。ラルもネミルも、そしてバルバまでもが皆呆然とし、辺りはシーンとなっている。亡骸と化したアラクネからドクドク溢れる緑色の血の音だけが、唯一その静けさを遮っていると思える程に、静寂に包まれた大広場。


 だがミークは皆の様子を気にする事なく、キッと迷いの森の方角を睨む。そして未だ空中に浮かんでいる左腕をドン、とそちらに飛ばした。その行動がきっかけになったか定かでは無いが、ラルがハッと我に返って叫ぶ。


「お、おい! 警備隊の連中呼んで来てくれ! アラクネの処理を手伝ってほしいって言う依頼だ! 冒険者達は出払って居ないからな!」


「「は、はい!」」


 ラルの声に受付嬢2人が反応し、彼女達は急ぎギルドから出て走って行った。


 そして未だミークのドローンから出された糸で縛られている、殆ど怪我から回復したバルバは、迷いの森方面を睨んでいる片腕の無いミークを、何か得体の知れない怪物の様に感じ、驚きというより恐怖のせいか、冷や汗が頬を伝い背中に悪寒が走る。 


「……ば、化け物」


「……」


 バルバがつい呟いてしまったその言葉、ラルの耳にも届いた様でふとバルバに視線を送る。ラルもミークが魔物と戦っているのを見るのが初めてだったが、心の中で同意してしまったのだろう、バルバのその失礼な物言いを否定出来なかった。


 そしてずっと固まっていたネミルがハッと気付き、未だ迷いの森方面を見ているミークに駆け寄りギュッと抱き締める。


「ミーク! ありがとう! 本当に強いのね!」


 だがミークはネミルの言葉に答えず、「……あれ? 消えた」と独り言を呟く。


「どうしたの?」


 そんなミークを不思議に思いネミルが質問するが、それには答えずミークはネミルに抱きしめられたまま、バルバに視線を変える。その冷めた目に怯えるバルバ。


「ねえ、魔族何処に隠れてんの? 知ってんじゃないの?」


「し、知らねぇ! 本当だ!」


「ふーん?」


 バルバは慌てて否定するも、その視線は冷ややかだ。一度裏切られているミークはやはりその言葉をそのまま鵜呑みには出来ない。現在片腕のみのミークは、無機質な左目をギラリ、と光らせバルバを睨む。その目にビクッと全身を震わせ慄きながらも慌てて否定するバルバ。


「ほ、本当だって! 見捨てられてまで魔族守る気なんてねーよ!」


「……そう」


 その必死な様子を見て、どうやら嘘では無いらしい、と、ミークは判断した模様。


「じゃああいつ、急に消えたけど何処行ったんだろ?」


 ※※※


「……な、何なんだ? 一体何なんだあれは!」


 アラクネの視界を利用し戦いの一部始終を見ていた魔族は、アラクネが死んでしまい視界を失った後、ミークの圧倒的な強さに驚愕し1人叫んでいた。


「何なんだあの雌は! 何なんだあの強さは! 何なんだあの不可思議な攻撃は! あれで魔素を持っていないだと? じゃあどうやってあの腕を動かしている! あの白い光の攻撃はどうやっているというのだ!」


 ダンジョン内であの雌が造り出したであろう、あの不思議な羽虫が次々とダンジョンの罠を壊していったのを子蜘蛛を使い見知っていた。子蜘蛛は魔素を感知出来ないので、あの羽虫も魔法で動かしている、そう思っていた。


 だから当初、あの雌は魔法使いだろうと思っていたのだが、バルバと言う人族は、魔素を持たない代わりにカガクと言う不思議な能力を持っていると言う。きっとそれがあの驚異的な強さの源なのだろうと、魔族は悟った。


「カガクなるものが何かは知らぬ。にしても規格外が過ぎる。アラクネだぞ? 我々魔族でも手を焼く程の強力な魔物なんだぞ? ダンジョンでボスをしていた程に。それなのに……、一方的だった、だと?」


 そもそもあの雌は奴隷になって居た筈。だが奴隷紋は解除されていた。そう簡単に解除されない代物なのに。魔族はそれも腑に落ちない。


「にしてもあの人族の雄、失敗しおって。……奴隷紋が解除される想定外があった事も原因だろうが、それでも失敗は失敗だ。……折角容易く生贄を得る事が出来ると思っておったのに」


 魔族が考えていた計画、それはバルバの耳元にアラクネを潜ませ、そしてバルバとミークがファリスの人々を外に誘い出した後、アラクネの糸で一斉に捕らえる、というものであった。当初はバルバの予想通り、ファリスに攻め入り力ずくで人間達を捕らえようとしていた魔族。だがその方法だと騒ぎに紛れ逃げてしまう人間が相当数出るだろう。より確実に、出来れば全ての住人を生贄にしたい。そう考え、バルバには住人を屋外へ出せ、という依頼をしたのである。


 ミークという雌を奴隷に出来た事もあり、容易く依頼は完了するだろう、そう思っていたのに、その計画は失敗してしまった。奴隷紋が解除されていた事、更にあの雌の途轍もない強さ。想定外も甚だしい。


 魔族は一体どうしたものか、と考え込む。


「しかしあの雌は強過ぎる。あの雄が最強の兵器、と比喩していたのも頷ける。……私でも倒せるかどうか。……そうかやはり、オルトロスやオーガキングも倒したのはあの雌に違いない、……ん?」


 魔族は遠目に、何かがこちらに飛んで来るのを見つけた。今魔族のいる場所は、以前盗賊達が塒にしていた洞窟。なのでファリスの町からは相当離れている。


「……ま、まさか!」


 徐々に就か付いてきて魔族は悟る。その遠い距離のファリスから飛んで来たのは、あの忌々しい雌の腕だった。


「ま、不味い!」


 魔族は驚き慌てながら急ぎ自身を子蜘蛛にボン、と変化させ、近くの木の葉の裏に隠れた。この魔族は魔物や自身をこうやって、小さな蜘蛛に変化させる事が出来る特殊なスキルを持っている。当にただの虫である子蜘蛛になるので、魔素も一切発散しなくなるのである。


 だがその代わり、魔法は使えず従来の強さも一切封じてしまう、と言う諸刃の剣でもあるのだが。


 とにかく魔族は見つからない様に、と子蜘蛛に変身し身を潜める。すると近くまでやってきたその左腕が、ターゲットの痕跡が突然消えた為か、子蜘蛛となった魔族の近くの空中でピタリと止まった。


 ……な、何故あの腕がここに? まさか私の居場所に気付いてやって来たのか? そ、そんな馬鹿な! どれだけ距離があると思っている! 魔素を感知出来たにしてもこの距離では本来不可能な筈! ……いや、そう言えば私が以前、ダンジョンから出てきた時も見つかったのだったな。クソ! 忌々しい雌め!


 未だ魔族が居た場所を離れず、まるで捜索するかの様に、ミークの左腕がスーッと音も無く周辺をウロウロしている。子蜘蛛に変化した魔族は、息を潜めてその様子を固唾を飲んで見ている。


 暫くして、左腕は諦めた様で、ファリスの町に戻って行った。


 ……行ったか。しかしどうする? アラクネまで失ってしまった上、あの人族の雄は失敗してしまった。しかも今、ダンジョンは崩壊してしまい私が隠れる場所が無い。この洞窟では魔素を誤魔化す事が出来ぬ故即見つかるだろう。子蜘蛛のままずっと居る訳にもいかぬし……。


 そう、子蜘蛛になった魔族が思案する中、その傍を一羽の小鳥が通過する。魔族は慌てて小鳥に見つからない様、更に木のくぼみに移動し隠れる。いくら魔族でも今はただの子蜘蛛。小鳥でさえ脅威となってしまう。


 ……このままの状態では私が小動物に食われて死んでしまう。今考えれば、失敗した時の事を踏まえ、アラクネ以外の子蜘蛛と化した魔物達もファリスに送り込んでおくべきだった。……ええいクソ! こうなったら!


 半ばヤケクソの様に意を決した魔族。子蜘蛛の状態から元の姿に戻る。そして手首足首から一斉に、途轍も無い数の子蜘蛛を吐き出した。


感想等頂けたら幸いです。

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