奴隷と化したミーク
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「じゃ、とりあえず、奴隷紋が効いてるかどうか確認だ。ミーク。起きて立ち上がれ」
バルバがそう言ってずっと意識を失っていたミークに命令すると、ミークはいきなり目をパッと開き、命令通りスッとその場に立ち上がった。だがその顔は無表情。更に「右腕を上げろ」や「ウインクしてみろ」と命令すると、ミークは言われた通り右腕を上げウインクした。
「よぉしよし。ちゃんと言う事聞くじゃねぇか」
ヘヘヘ、と嬉しそうに語るバルバを見て魔族は溜息を吐く。
「しかしたった1匹の雌を奴隷にする為に、わざわざダンジョンまで破壊するとは。分かっていたつもりだが、人間というのは本当に愚かだな」
魔族が呆れながらそう言うと、「それはちょっと違うな」とバルバが否定する。
「この女は王女と同等レベルと言っても良い位の美貌だがそれだけじゃねぇ。さっきも言ったがこいつは特殊な力を持ってて戦闘能力も桁違いなんだよ。そんな女を奴隷として従えるって事は、俺は最強の兵器を手に入れたのも同然って事なんだよ」
得意気に話すバルバに、魔族は溜息を漏らした。
そんな呆れた様子の魔族を気にする事も無く、バルバは未だ右腕を上げウインクしているミークに、「止めろ」と命令すると、ミークはまたも人形の様に無表情で直立不動になった。そしてヘヘ、と嬉しそうにその美しい黒髪を撫でる。
「ファリスの罪人の為に内緒で預かってきた奴隷紋、何とか使えねぇかってずっと考えてたんだよな。あの筒に仕込まれてる魔法は開封した事が即王都に分かる様になってた。だが昔、王都の大図書館で魔法を完全に破壊する方法が書いてある文献を見た事があってそれを思い出した。で、やってみたら見事大成功」
バルバが喜々として語る内容に、魔族は首を傾げる。
「どうして成功したって判った? 封印が破壊されただけなら、王都にバレるのではないか?」
「筒を開くと精霊が飛んで行って知らせる仕組みになってんだよ。だが今回、ダンジョンコアに筒を当てた時、精霊は飛び出さずそこで死んで塵になったのを確認してる。要する精霊諸共魔法を壊したって事だ」
バルバの説明に納得した後、魔族は呆れた様にフハハと笑う。
「何にせよ、お前は魔族より悪人かも知れぬな」
「だから俺には褒め言葉にしかならねぇぜ。で、俺は何をしたら良いんだ?」
「ほう。約束は守るのか?」
意外そうな反応をする魔族だが、バルバは「当然だろ」と答える。
「だって約束破ったら、お前俺を殺すだろ? いくらミークを奴隷に従えてるとは言え、流石に魔族にゃ勝てねぇだろうし。逆らって死んじまったら、折角最高のお宝を手に入れた意味が無くなるじゃねーか」
「打算的だが、間違ってはいないな」
フフフと笑う魔族に、ニヤリと返すバルバ。その間、奴隷と化したミークは、無表情のままずっと立っていた。
※※※
………………ん。
ううーん…………。何だか……、何だろう……。
身体……、が……。だるい……な……。
ーー……エマー……、ンシー。……ンジェ……シー……ーー
うるさい……なあ……。私は……、とても……。だるい……んだ……。から……静かに……、よ……。
ーー脳内……、占拠……。イレギュ……。ーー
うるさい……なあ……。静かに……、出来……ない……、の……?
ーー原因……。魔法……。解除……。データベ……、存在せず……、不可……。ーー
※※※
魔族とバルバが話している最中、ゴゴゴゴ、というダンジョンが崩れる大音響がバルバ達の居る地上にまで響いて来た。だがそれに気を止める事も無く、バルバは「そう言えば」と、魔族に質問する。
「ダンジョン内の魔物全然居なかったが、もしかして俺が最下層まで早く辿り着く為に全部どっかに移動させてくれてたのか? お陰で楽にダンジョンコアに辿り着けたぜ」
バルバの疑問に、魔族は「お前の為では無い」と否定する。
「ダンジョンに居た魔物達は移動させていた訳では無い。ただ単に目立たない様にしていただけだ。それは私も同様だ。で、先に外に出てきていただけの事。お前らの行動は小奴らを使って監視していたしな」
そう説明した後、突如魔族は両手首辺りから、沢山の子蜘蛛をわらわらと出した。
「成る程。どおりで子蜘蛛だけ見かけた訳だ。てか相当数の魔物が居た筈なのに、それを目立たなく出来るんだな」
そういう事だ、と返事しながら、岩に腰掛けていた魔族は立ち上がる。
「ではそろそろ、今度は私の頼みを聞いて貰おうか」
「何をすれば良いんだ?」
「ファリスの町に居る人間共を屋外へ出せ。それがお前への依頼だ」
「屋外に出せ、か。簡単そうで難しいぞそれ。だが何でそんな事するんだ?」
「お前に教える必要は無い。そしてお前は何でもやる、と言った。約束を違えたら即殺すぞ。そうだ。奴隷にしたその雌も使えば手間が省けるのではないか?」
「成る程。ミークはファリスの連中に慕われてるみたいだったしな。そりゃ名案だ。で、今からやるのか? それだと冒険者達は町に居ないと思うぞ? 依頼をこなしているだろうからな」
「冒険者共は全て雄だろうから生贄にするのは後で構わない。先ず雌共が優先だ」
魔族の指示にバルバは「了解」と答え、「じゃ、早速言ってくるぜ。ミーク、俺の後に付いてこい」と命令しバルバはファリスへ駆け出した。ミークも命令された通り、無表情でバルバの後に付いていった。
その際魔族はバルバの耳の後ろに子蜘蛛1匹を潜ませたが、バルバはそれに気付かなかった。
……てか、家ぶっ壊してしまえば手っ取り早いんじゃねーか? 何でわざわざ屋外に出せ、とか言うんだ? 魔族なんだから其れ位朝飯前だと思うがな。
※※※
迷いの森の奥から、ズズーン、と地響きが聞こえてきた。更にそれは何度も繰り返される。音だけではなく、そのうちファリスの入り口で門番をしていたカイトとリケルの地面まで揺れる様になって来た。
「一体何の音だ?」
「前のオルトロスみたいな大きな魔物が現れたとか?」
いつも通り退屈していた2人だったが、突如の事に共に緊張が走り武器を構え辺りを警戒する。そこへ、迷いの森の奥から全身鎧の金髪が息を切らせ走ってきた。
「おおーい!! 大変だあーー!!」
2人は揃って叫び声の方へ顔を向ける。そしてその声の主が誰か分かると、顔を見合わせ「「はあ~」」と溜息を吐いた。
「何だあいつかよ」
「ていうか、確かパーティ組んでダンジョン捜索に行ってなかったか?」
2人が残念そうにそう話しながらも、とりあえず走って来たゴールドランク樣ことバルバに声をかける。
「おい、どうしたゴールドランク樣?」
「ゴールドランク樣でも解決できない事でもあったのか?」
2人が茶化す様にバルバに話しかけると、突然バルバの後ろに人影が見えた。2人はギョッとする。
「え? ミークも居たの?」
「びっくりした。気付かなかった」
余りの気配の無さに驚く2人。確かにバルバの後ろにはミークが居た。
「ミーク、何があったんだ?」
「ノライとラミーは?」
その問いにミークは反応せず無表情のまま。代わりにバルバが答える。
「実はダンジョンコアが破壊されちまってダンジョンが崩壊しちまったんだ。さっきから地響きしてるのが証拠だ。それに巻き込まれてノライとラミーは……。だがミークと俺だけ何とか助かってここに戻って来たんだ」
「な、何だって?」
「ラミーとノライが……。いやそれよりも、ダンジョンが崩壊したって?」
2人は絶句し驚く。だが直ぐハッと気を取り直し、「サーシェク隊長に連絡しないと! ダンジョン崩壊で何が起こるか分からない! もしかしたら中の魔物が溢れ出てくる可能性がある! 2人はそのままギルドに報告しに行ってくれ!」とリケルが声を上げる。
その声にバルバが「了解」と答え、ミークがその後に続く。その様子を見送ると直ぐ、リケルも慌てながら同じ様にファリスの町中に戻ろうとするが、カイトは直ぐ様動こうとしなかった。
「……」
「おい! カイトどうした! 何ぼーっとしてんだよ!」
「何か、ミークの様子おかしくなかったか?」
「え?」
カイトの言葉を聞いてリケルは、バルバと共にギルドに向かうミークの後ろ姿を見てみる。いつもの通りの素晴らしいプロポーションが後ろ姿でも把握出来たのは良いとして、カイトの言う通り、リケルも何処か不自然さを感じた。
「ミークって愛想無いけど、挨拶は毎回ちゃんとしてたよな? でもさっきは全然喋らなかった」
「そう言われてみれば……。そもそもミークってああ見えて優しくて思いやりあるから、仲間が死んだならもっと感情を表に出す様な気がするし」
2人は顔を見合わせ互いに首を捻るが、今は重大事項を伝えにいかねばならないので、急ぎサーシェクがいる警備隊舎に向かった。
感想等頂けたら幸いです。




