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やはり想いは残ったまま

いつもお読み頂きありがとうございます。

結構書き溜め出来たので、今日から6話連続投稿いたします。

 ※※※


 薄っすらと目を開けると、何だか見覚えあるコンクリートで出来た灰色の天井。ここは……、ああ、私がずっと入院してた病室だ。


 私に取り付けられた左目と左腕は、厳しいリハビリを経て漸く普通に使える様になった。仰向けに寝ながらだけど、手のひらを開けたり握ったりしてみる。腕が無くなったなんて信じられない位自然に動いてる。見た目も私の肌と同じ色だし。


 目もはっきりと見える。グルグル上下左右に動かしてみても全く問題ない。というか多分前より視力上がったかも知れない。義眼って視力上がるんだっけ?


 あの大怪我から数ヶ月。最初は痛くて大変で、その後のリハビリもとてもきつかったけど、今となってはその日々もいい思い出、かも?


 そして今日は退院の日。少しの荷物を手に持って、お世話になった看護師さん達にお礼を言って、そして外に出ると、望仁が目を潤ませながら駆け寄って来た。


「退院おめでとう。お疲れ様。もう痛みは取れた?」


「うん。何かもう普通に私の腕だよこれ。目も普通に見えるよ」


「そっか。……その……、あの……」


 あーその望仁の申し訳無さそうな顔。きっとまた謝る気だな? もう! 私は気にしてないっでってずっと言ってるのに。


 だから私は望仁の鼻を摘んでやる。


「痛テテ! な、何?」


「今ごめんって言おうとしたでしょ? 謝るのもう無し。それ以上言ったら友達止めるよ」


「ほ、ほれは困……、ミ、ミーク! いはい! いはい!!(痛い! 痛い!)


「あ」


 しまった。左手はまだ力の制御が上手く出来ないんだった。慌てて望仁の鼻から手を離す。


「……千切れて、無いよね?」


「うん大丈夫。ごめん」


 私が謝ると「仕方無いよ」と言いながら真っ赤になっちゃった鼻を擦りながら苦笑いする望仁。その赤っ鼻で涙目になってる様子が可笑しくて、望仁には申し訳無いと思いつつもつい笑っちゃった。


 それから私と望仁は2人並んで家路に向かう。だけど道中、急に望仁が私を遮る様に眼の前に立った。


「どうしたの?」


 その顔は真剣そのもの。何だろ?


「僕、ミークに伝えなきゃいけない事があるんだ。とても大事な、真面目な話なんだ」


 そう言って望仁は真剣な顔で私を真っ直ぐ見つめる。え? これって、もしかして……。


 そして望仁は両手で私の肩を掴む。顔が近い!


 ちょっと待って? え? 何この急展開! 退院したら言おうと決めてた、とか? いや、そ、そりゃあ望仁なら、私も、そ、その……。だ、だけど! 私にも心の準備ってのがあるよ?


 心臓がバクバクしてるのが頭の中で聞こえる位、鼓動が激しくなってる。ああ、どうしよう。きっと私、顔真っ赤だよね? 


「ミーク、実は……」


 目を瞑り覚悟を決める。……もしかして、キ、キスとか? じゃないよね? 


 私はそうやって1人勝手に盛り上がったけど、望仁の話はそういうんじゃなかった。


 ※※※


「そっか。この腕と目。そういう……」


「僕も後で聞いて知ったんだ。でもあの時、ミークを救う方法が他に無かった。失血が多かったから施術も急がないといけなくて」


 申し訳無さそうに望仁が話したその内容。それは、私に取り付けられたこの腕と目について。これらはただの義肢や義眼じゃなく、実は元日本だったこの国が造り出した、スーパーテクノロジーを駆使した戦闘兵器だ、と言う話だった。


 その施術が可能だったのは、望仁が昔の時代で言う天皇、皇族の末裔で、お父さんが政府や研究機関とパイプがあったから、らしい。


 開発は既に終了していたものの、後は実際に装着して貰う肉体が必要だった。その肉体は四肢の一部と目が無い状態の人間。だけど中々そんな都合良く見つからなかった所での私の大怪我。緊急を要していた事もあって、私の了承を得ず施術したらしい。


 そして今後、この能力を用いて戦闘に参加する可能性がある、とも。


 話し終えた後も未だ俯いている望仁に、私は「ま、きっと何とかなるよ」と努めて明るく伝えポン、と肩を軽く叩く。


「私達ってずっとこの地下施設で暮らしてるけど、きっとそのうち限界が来る。その時何かしらの力になれるんなら、それはそれで私も嬉しいかも。だって守られるだけじゃ申し訳無いもんね。それにこの腕と目がそんなに凄いなら、私の家族も、そして望仁も守れるじゃん」


「ミーク……」


「だからそんな悲しそうな顔しないで? ね?」


 まるで弟を宥める様に望仁の頭を撫でる私。そしたら「ごめん、ミーク」って謝る望仁。


「あー、また謝ったー。ごめんばっか言う望仁嫌いかも」


 私が冗談気味にそっぽ向くと、望仁は何だか慌ててる。


「ええ? それは困るよ! ミークに嫌われたら、僕……」


 顔を赤らめ何か言いかけたけど黙るから、続きが気になった私は催促する。


「ん? 嫌われたら、何? 気になるじゃん」


「……」


 すると望仁はまたも私の両肩を掴んでじっと見つめる。何だか瞳が潤んでる。


「あ、あの! 僕! ミークの事が……!」


 ーーこんにちは。私はあなたの脳内に埋め込まれたAIです。漸く目と腕が馴染んできたので、これから私AIと、備え付けられた腕と目について説明します。宜しいですか?ーー


「うぎゃーー!!」


「うわあーー!!  な、何?」


 突如私の頭の中で声が聞こえた! 私の叫び声に驚き尻もち付きながら同じ様に叫ぶ望仁。でも私は声の主が何処に居るのか、気が気じゃなく必死になってキョロキョロする。


「ミーク、急にどうしたの?」


「な、何か、頭の中で声が聞こえた!」


 私の言葉を聞いた望仁は、「ああ、そういやそれも説明しないとね」と、何か思い出した様に呟いた。


「望仁何か知ってるの?」


「うん、まあね。それについては長くなるから、歩きながら説明するよ」


「ふぅん? まあ分かった」


 そして私達は再び肩を並べて歩き出した。チラっと望仁を見てみると、何だか気不味そう?


 ていうかさっき、望仁何を言おうとしてたんだろう?


 ※※※


(ノンレム睡眠からレム睡眠へスムーズに移行出来ました。シュラフ内の温度36.5°。これから脳をゆっくり覚醒し快適な目覚めへと誘います)


 これはいつものAIでは無く、シュラフに内蔵された音声。内蔵されているコンピュータがこの様に、睡眠だけでなく目覚めまで快適にしてくれるのである。その声でミークは朧げながらうっすらと瞼を開ける。するとプシュー、と空気が抜ける音が聞こえ、背中側で閉まっていたシュラフの入り口が開いた。


 開いた所からゴソゴソと出て、んー、と思い切り伸びをするミーク。だが辺りはダンジョン内の為真っ暗。なので未だ浮いているであろう、今は消えている白い光の球に明かりを灯す様指示すると直ぐ、漆黒の闇だった15階層内は途端に明るくなった。


「……久しぶりに昔の夢見たな」


 ここ最近は思い出が夢になる事が無かった。きっとそれは冒険者稼業が楽しくて、未だ残っている未練や後悔を一時的に忘れていたからだろう。だが、このシュラフの余りの心地良さのせいか、楽しかった思い出が夢となってフィードバックされた様である。


「今思い返して分かっちゃった。あの時望仁、きっと私に……」


 でも、その望仁にはもう会えない。彼が言いかけた続きが聞きたくても、それを確認する術は無い。


 ふと、本音がポロッと溢れる。


「会いたいな……。あの時に戻れるなら、私きっと……」


「へえ。あなたにもそう思う人が居るのね」


 突如声が聞こえ驚いて振り返るミーク。そこにはミーク同様、シュラフでたっぷりぐっすり快適な睡眠を取ったラミーがが既に起きていた。


「え、えーっと。いや、その……」


 焦るミークを見てラミーはニヤリ。


「その様子からして、その会いたいって相手は男なのね。ずっと澄ましてていて男には興味無さそうな雰囲気だったけれど、ミークにもそう思う相手がちゃんと居るのね。まあ、あなた程の美女なら、男の1人や2人居てもおかしくは無いでしょうけれど」


「い、いや、そういうのとは……。そもそも、彼はもう、この世に居ないから……」


 憂いを浮かべ寂しそうに答えるミークを見て、ラミーは「あらそうだったの。聞いてしまって申し訳無かったわね」と謝罪する。


 そんなラミーに、気にしないで、とやや寂しげに笑みを返すミーク。「でもこの世界でも、私が居た地球と同じ様に、恋愛感情があるのが何だか不思議だけどね」と付け加える。


「あなたが居た所、チキュウ? と言うのね。聞いた事無いわ。でも恋愛感情がこっちでもあるって、何で分かるのかしら?」


「え? だって……」


 そう言ってミークはラミーの後ろに目を向ける。ラミーが不思議に思って振り返ると、「お早う。思ったよりぐっすり眠れたよ」とふわあ~、と大きな欠伸をしながら伸びをするノライの姿があった。途端、ラミーの顔がみるみるトマトの様に真っ赤になる。


「ちょ! ミ、ミーク? どういう意味よ?」


「そういう意味だよ」


 いたずらっぽく微笑むミークに、ラミーは恥ずかしさを紛らわすかの様にギャーギャーと騒ぎ立てる。その様子を首を傾げ見ているノライと、その喧しさのせいだろう、バルバが煩そうに目をこすり起き上がった。

感想等頂けたら幸いです。

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