ラビオリ型の正体は便利グッズ
いつもお読み頂きありがとうございます。
すみません。また書き溜めします……。
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「肉を細かくして、そして刻んだ野菜を混ぜて捏ねて、で、焼く、と。これは町長にも喜んで貰えそうだな」
「ミンサーがあったら尚良いんだけどね。で、ブラックペッパーと塩を混ぜ込んだらもっと美味しくなるよ。あ、出来れば牛乳と小麦粉もね」
ノライが興味津々にミークの話を聞いている。眼の前でミークが焼いているのはハンバーグ。成形したタネを例のジップロックで小さくして持参していたのである。ミークも実際こうして料理するのは初めてなのだが、レシピは全てAIが持っており、調理方法については分かっていたのでノライに説明していたのである。
一角猪のみの肉なのでポークハンバーグと言ったところか。それでもミークのスキレットから漂う香ばしい匂いは、食欲を唆るには充分だった。
「料理まで規格外なのね。しかし本当良い匂いだわ」
「ダンジョンで飯っつったら適当に魔物狩ってその場で焼くとか、干し肉とか、我慢するとか、ってのが定番なのによ。まさかこんなとこでご馳走にありつけるとはな」
「出来たよー」
ミークが皆の分のハンバーグを用意する。それぞれ皿に取り分けると、今度は小さなキューブ型に固めてあるスープの元を、各々のコップに入れお湯を注ぐ。
「凄いわね……」
既にスルースキルがついたのか、ラミーは既にミークの非常識に逐一怒る事はなくなった。代わりに感嘆の声が何度も漏れる。
そうやって皆でミークが用意した美味しい料理を堪能した後、ミークは腰に付けて居たあの大きなラビオリ型の鉄板2つを漸く外した。だがそれには手を付けず地面に置き、リュックから縦横50cmの正方形の鉄製の薄い板2枚を取り出した。そして左手のひらをそれに当てると、プシュン、と空気が抜ける様な音が聞こえた直後、ガシャガシャと音を立てながら開き出し、縦横1.5m高さ2mの直方体に変形した。その直方体を立てた状態で置くと、ミークはもう1つの鉄板も同じ大きさに変形させた。
そしてその2つの直方体はガシャン、と密着した。
「これ、簡易シャワーなんだ。こっちの部屋が脱衣所。ここで服脱いで裸になって中に入るんだ」
ポカーンとしている3人。ラミーが何とか口を開く。
「……今、シャワーって言ったかしら?」
「うん、そうだよ」
3人は揃って頭を抱え、はあ~、と大きな溜息を吐いた。
「あのさミーク? ここダンジョンなんだよ? 何でダンジョンでシャワーが浴びれるの? おかしいでしょ? てかもう、そういう非常識いい加減にしてくれないかな?」
ついに我慢出来なくなったのか、今度はノライが何やら眉をヒクヒクさせ怒り混じりにミークに話す。そしてバルバも呆れて物が言えない様子。
「信じられない? じゃあラミーこっち来て。あ、男連中は後でね」
「……僕達も使って良いんだ」
「そりゃあね。一緒に居る人が臭いの嫌だしね」
ミークの言葉にバルバが「ワハハハハ!」と大笑いし始める。
「ダンジョンで体臭気にする奴初めて見たぜ」
そう笑うバルバと呆れているノライを置いて、未だ戸惑っているラミーの手を引き、ミークはその直方体の中に入った。
そして何だか尻込みしているラミーを気にせず、さっさと服を脱ぎ始めるミーク。ラミーはその美しい肢体に、同性ながら一瞬見惚れてしまった。
「あなた滅茶苦茶スタイル良いわね……」
「ありがとう? それよりラミーも脱いで。服はこの中に置いておけば良いから」
「でも……」
どうやら外が気になるラミー。ダンジョンの中外に男も居るのに、全裸になるのは流石に気が引けた模様。それに気付いたミークが「大丈夫だよ」と告げる。
「外からは絶対見えないから。それに間違いなくこれ壊せないし。声も外に聞こえてないよ。そもそも私がこうやって裸になってるでしょ」
「……まあ、そうだけれど」
じゃあ待ってるね、とミークがそう言いながら、先に隣の直方体へ移動した。それを見てラミーも勇気を振り絞り、いそいそと服を脱ぐ。ラミーが自分の居る場所に来ると、ミークは説明を始めた。
「本当は1人で入るんだけど、今日は初めて使うから特別。これシャワーって言ってもミストタイプで、一応石鹸も出るよ。迷いの森で見つけた花をベースにしてるけど良い匂いだよ。で、洗体、シャンプーとリンス全部自動でやってくれるから、中で5分程じっとしててね。あ、乾燥までやってくれるから身体拭く必要も無いよ」
そう言ってミークは片方の直方体の扉を閉めた。瞬間、ミークの言う通り温水がプシューとミスト状で2人の全身を洗い始める。
「……何これ。物凄く気持ち良い……」
余りの心地良さに頬を紅潮させ恍惚な表情になるラミー。少ししてミストが収まったかと思うと、次はブオー、と言う音と共に、温風があちこちから出始め全身の水分を乾かし始めた。
そしてピピ、と言う電子音と共に扉が開く。余りの気持ち良さに我を忘れている全裸のラミーが、ふにゃふにゃとミークにしなだれかかった。
「おーい。終わったよ」
「え? あ、うん……」
ミークに声をかけられラミーは我に返り、ふう、と一息吐いて服を着る。同時にミークも着替え終わり、「お待たせ。2人もどうぞ」とバルバとノライに声をかけた。
「……2人から何か花の凄く良い香りしてる」
「マジか。こいつらマジでダンジョンでシャワー浴びてやがった。いやマジかよ」
※※※
「じゃあこれ、今から使うね」
ずっとラミーが気になっていたラビオリ型の2枚の鉄板。ミークはそれを2つ地面に並べた。男2人もシャワーを浴びさっぱりした表情で、フローラルな香りを漂わせながら興味津々に見ている。
因みに男共2人は、流石に一緒に1つの箱で全裸は勘弁して欲しいとの事で1人ずつ使用した。そして既にその直方体2つは元の薄い鉄板に戻しリュックに直している。因みにこのラビオリ型の鉄板2つを、ミークが腰に下げていたのは、その形状故単にリュックの中に入らなかったからである。
ミークはそのラビオリ型のうちの1つに左手で触れると、パン、と小さな音がして一気に膨らみ、透明な半ドーム型の逆の方から、少し空気を含んだミノムシの様な形の布袋が出てきた。
「これシュラフ。寝袋なんだ。この透明な所が顔の部分。後ろからこうやって入って寝る」
ミークが実践しながらラミーに教える。そこでラミーは気が付いた。
「もしかして私も使うって、これ私の分も用意してくれていたって事なのかしら?」
そうだよ、と言うと、傍で聞いていたバルバが「おい、何で俺達の分が無いんだよ」と不機嫌そうに聞くと、「だって2人男じゃん」と素っ気なく答えるミーク。
「それでもドローンが夜の間もずっと警戒怠らず監視してるからぐっすり寝られると思うよ。だから寧ろ感謝して欲しい位」
「ケッ。何だよ」
「まあまあ。ミークの言う通りだと思うよ。ダンジョンの中でのんびり寝れるって、普通じゃあり得ないしね」
面白く無さそうに舌打ちするバルバを宥めるノライ。ミークはそのままラミーに対して説明を続ける。
「これ、思ってる以上に耐久性があるんだ。これに入ったら火山のマグマの中でも水中でも死なないし、外から思い切り攻撃されても効かない。だから安心してくれて良いよ」
ミークが今回、ラミーの分のシュラフを用意したのは、女の冒険者は危険だと事前に聞いていたからである。勿論ラミーも自身の寝袋は用意している。だが彼女の場合、自分が寝る場所に魔法陣で小さな結界を作って休んでいた。だがその結界は何かが触れると音がする、という程度のもの。
それでもこれまで、そのお陰で危険な目には何とか遭わずに済んできた。だがその結界では中々安眠は出来ない。今回も時折夜中に目が覚める事を覚悟して来ていたのである。
だがミークが用意してくれたこのシュラフはとても丈夫だとの事。半信半疑ながらも、ずっと睡眠に関して苦労してきたラミーにとってはとても有り難い寝袋。早速ミークに教えられた通り、いそいそとシュラフに潜り込んだ。
すると、シュッと言う音と共に自動的に入口が塞がり、睡眠に適した保温効果がシュラフの中に発生。外気を取り込み酸素を作り出し、中に沢山取り込み、ラミーを安らかな睡眠に誘い始める。
……何これ? ……物凄く気持ち良い……。
「あ、もう寝ちゃったね」
ミークの言う通り、ラミーはものの数秒で寝入ってしまった。半ドーム型の透明な窓から覗くラミーの安らかな寝顔。それを見てバルバが意地悪そうな顔をする。
「なあミーク。これ丈夫なんだよな?」
そうだけど? と答えるや否や、バルバは思い切りラミーのシュラフを蹴る。だがボフン、と勢いが吸収されてしまった。ラミーも全く気付いていない様で何事も無かったかの様に寝息を立てている。
「これ凄えな」
「僕達の分が無いのが残念だけど、ラミーの気持ち良さそうな寝顔見たら安心だしまあ良いかな?」
「じゃ、私も寝るね。あ、浮いてる明かりだけど、100数えたら自動的に消える様にしとくから。じゃあお休み」
そう言ってミークもシュラフをパン、と音を立て開いて直ぐに潜り込んだ。残された男2人は洞窟内にフワフワ浮かぶ明かりが消えぬうちにと、片付けやら着替えやらして寝袋を用意し潜り込む。すると丁度そのタイミングでフッ明かりが消え、一気に闇が辺りを包んだ。
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