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サテライト

出来るだけ早めに次回投稿出来る様頑張ります……。

 ※※※


「……」


 衛星についての説明を全て聞き終えるのに大凡2時間弱かかった。なので今はお昼時。下で門番をしていたリケルとカイトも、どうやら昼休憩に行ってしまった様で居ない。門が閉められ何やら張り紙がしてあるので多分間違い無いだろう。


 そして衛星の機能について全て把握したミークは、未だ門の上に居た。腰を掛け俯くその表情は暗い。その凄まじい性能を知り、ふと、とある未来を考えてしまった。


「もし、衛星が早々にやられてなかったら……」


 先程確認して判った、未だ上空に浮かんでいるその衛星の圧倒的な性能。自身が持つ左腕など陳腐に思える程に。


「私と望仁、きっともっと生き延びられただろうに……。何で……」


 久々に思い出した望仁との日々。だがそれは良い思い出ではなく、地表に出てから逃げ惑うあの辛く大変な時の事。突如始まった一斉攻撃により、地下施設は跡形も無く破壊され、家族や友達も皆死滅した。それを悲しむ暇も無く、更に地下施設を破壊された後も引っ切り無しに襲撃してくるミサイルとビーム攻撃。だが2人は、ミークの能力のお陰で命からがら逃げ出す事が出来た。


 暫くしてから破壊活動が止まり、その隙に2人は、瓦礫と沢山の死体だらけになってしまった、地下施設の中を掻き分け、何とか食料庫を見つけ、持ち出せるだけ持ち出した。それから始まった2人の逃避行。ミーク自身はAIによる生命維持機能で、必要最低限の食事で済んだのだが、望仁はそうはいかない。なので探し出した食料の殆どを望仁に提供していたミーク。


 そうしてあの過酷な環境の中ずっと逃げ続けていた2人だったが、最後のあの一斉攻撃により2人は死んでしまう。


 もし衛星が破壊されず残っていたら、あんな悲惨な状況は回避出来ただろう。何なら、地下施設への一斉攻撃でさえ、何とかなったかも知れない。望仁だけでなく家族や友人も救えたかも知れない。


 最近はこの世界で色々発見したり、狩りをするのが楽しくて、思い出に浸る事は減っていたミーク。だが、この衛星の詳細を知った事で、様々な感情が一気に溢れ出てしまった。


 ……どうして私は、あの時衛星の事を知らなかったの? 破壊される前だったなら、きっとあの状況を打開出来たよ? それなのに……。


 悔しさ、虚しさ、悲しさ、それらが入り混じった複雑な気持ちが止まらない。 


「グスッ……。何で衛星……、ヒック……何で……。どうして……ウゥ……」


 何の涙なのか分からない。だが、それは何かしらの感情の発露。


「グスッ……。どうして衛星……。ヒック……。先に壊しちゃったの?」


 だが直ぐ、その自問は自答出来た。


 ……ああそうか。あれだけの性能だからこそ、私が使うより前に攻撃されたんだ。


 そう気付いたミークは泣き腫らした顔を上げる。そして静かに右目から流れる涙をスッと拭った。


「ふう……」


 上空で次の指示を待っているかの様に、遠い空で白く光っている衛星。ミークはそれを見上げ、今更後悔しても仕方無い。と無理矢理気持ちを振り切った。


 因みに衛星の持つその驚異的な性能は、全てミークの指示の元動く様になっている。なのでミークが事前に衛星へ「自身を外敵から守れ」と指示していれば、黙って破壊される事も無かっただろう。


 そもそもミークが地球に居た頃、衛星の存在を知ったのは、ある日AIが突如、衛星が破壊された、と脳内で知らせたからで、ミークはそれまで衛星があった事すら知らなかったのである。


「……今日は狩りに行く気分になれないな」


 フワリ、と空に浮き静かにファリスの壁の外の草むらに降り立つ。


「とりあえず、用事済ませて帰るか」


 そう呟いた後、未だ遠い空の彼方で留まっている小さな光に手を翳し、「アクセス。衛星内表示」と呟く。直ぐ様、ミークの脳内に衛星の中の様子が映像で映し出された。


「まるで家みたい。宇宙ステーションとでも言うべきかな? あの衛星の中で暫く暮らせる位には色々揃ってんだね」


 中の様子を観察しながらミークは感心する。そしてその中からいくつかを選定。その都度ピピ、ピピ、という電子音と共に赤いマーキングが施される。


 選び終えたミークは次に「この地点へ射出」と指示。直ぐ様AIが反応する。


 ーー了解。選んだ物品を射出用ロケットに装填……。経緯度を計算……。確定しました。発射準備完了。カウントしますーー


 脳内で5,4,3,2,1、0,と聞こえAIが射出、と言うと、それと共に空高く星の様に光っていた箇所から、新たな1つの点がキラーン、と光るのが紅色左目の望遠で見えた。


 そしてその点は明らかにこちらに近づいて来る。やがて肉眼で目視出来る様になったかと思うと、ゴー、と言う風切り音と共にミークの真上にまで落ちて来た。


 それをミークは左腕を上に翳し、ドン、と言う音と共にしっかり左手のひらで受け止める。瞬間、ミーク中心にブワっと圧と共に風塵が舞い、ミークの黒髪もふわっとなる。そしてミークはその落下して受け止めた、長さ3m直径1mの小型ロケットをそっと横倒して地面に置いた。


 大気圏を越えてきた為高熱を帯びているロケット。そのせいか元来鉄色だったであろうその機体は赤みを帯びている。ミークは火傷しない様気をつけながら、左腕でロケットの側面にあるスイッチを押すと、プシュー、と空気が抜ける音と共に側面が開いた。


 事前にAIによって脳内に映像で見ていたとは言え、改めてに手に取って見ると何とも感慨深い様で、物珍しそうにそれぞれをじっくり見てしまうミーク。それらを確認しながら、つい溜息を吐いてしまう。


「……本当、凄いテクノロジー。きっとあの衛星が地球に居た時残ってたら、間違いなく状況は一変してただろうな」


 因みに今回衛星から送って貰ったのは、今回のダンジョン探索に必要だろうと思える物。中には小型冷蔵庫程の大きさもあったが、ミークはそれらを異空間収納の腰の小さなポシェットに放り込んでいった。そしてロケット内にあった物全てを取り出し終えると、冷えて素肌でも触れる程度になった、その小型ロケットの最後部の穴に左腕をカチャリとセットする。そしてそのまま、小型ロケットの先端をぐいと上空に向けて持ち上げる。


「じゃ。ロケット衛星に戻すよ」


 ーー了解。衛星の経緯度を計測……。軌道確認。修正完了。衛星側受け入れ準備完了。射出OKーー


「よし。じゃあ射出」


 ミークがそう言うと同時に、左腕がミークから切り離され、ドン、と小型ロケットを取り付けたまま上空に飛び立つ。それはどんどん空高く飛び続け大気圏を越えた。そしてミークは紅色の左目の望遠機能を用いその様子を確認する。


 そうして左腕が運んだ小型ロケットは、宇宙空間に浮かぶ衛星にまで辿り着く。無重力の中静かに衛星のハッチが開き、小型ロケットが収納された。


 小型ロケットの格納が済んだと同時に左腕が地表側に翻り、再度ミークの居る元へ落下を開始。再度大気圏を越え物凄いスピードでミークに向かって落ちてきた。そしてミークが左腕を目視出来る所までやってくると、左腕は徐々に減速。最終的にいつもの様に静かにミークの左肩にスッと収まった。


「……ねえこれ。多分結構熱いよね?」


 ーー左腕は現在、表面温度1002℃になっています。触れない方が良いかとーー


「だよねえ」


 外気と反応して左腕から湯気が立ち上る。よく見ると身体にくっついているのではなく、ほんの少し身体と左腕の間に隙間がある。どうやらAIがミークの身体が火傷しない様そう調整したのだろう。ただその見た目はくっついている様に見える。


 ミークも初めてやった事なので流石に熱の事まで頭が回らなかった。次回からはちゃんと冷やしてから左腕を着ける様にしよう、と反省したのだった。


「さて。とりあえず戻るか」


 今日は狩りをする気分じゃない。なので、ミークは町に戻り小型ロケットが衛星から持って来た様々な物のチェックや使い方を確認しよう、と、そのまま歩いて町の門に向かう。すると昼休憩していたリケルとカイトが、慌てた様子で走って来て張り紙を剥がし門を開けた。


「あ、あれ? ミーク? 大丈夫か?」


 心配そうなリケルの言葉にミークは首を捻る。


「大丈夫って何が?」


「い、いや! 今ファリスの門の外に何か空から降ってきたのが見えたんだよ!」


「しかもその後、同じ位の場所から今度は空に何かが飛んでったんだ! だから俺達慌てて確認しようとやって来たんだ!」


 あちゃー、あれ町から見えてたのか。ミークはしまった、と思いながらも「気のせいじゃない?」と誤魔化してみる。


「いや! 間違い無い! 俺等2人共見たんだから!」


 カイトの言葉にリケルが大きく頷く。


「そう? じゃあ調べてみたら?」


 何時もの様に素っ気無く答え町に戻ろうとするミーク。だが2人は何やら神妙な顔でミークを見る。


「「……」」


「……何?」


「ミーク、もしかして何か悲しい事でもあった?」


「うんうん。凄く寂しそうな顔してるよ?」


「え?」


「あ、あのさ。もし良かったから話位は聞くよ? 1人で抱えるより吐き出した方がきっと楽だよ?」


「そ、そうそう。俺達ミークより弱いけどさ、力になれる事もきっとあると思うしさ」


 唐突に2人に心配され驚くミーク。そっか。私そんなに落ち込んでる様に見えるんだ。それをこの2人に見透かされ、更に心配された事が何だか可笑しくて、つい「フフッ」っと笑ってしまう。


 先程まで憂いを湛えていた超絶美女の突然の微笑み。どちらも下心は無かったのだが、その笑みを見て2人揃って心臓が跳ね上がってしまう。


「ありがとう。気持ちだけ受け取っとく」


 そう言ってミークは2人を残して町に戻って行った。そんなミークが気になった2人だったが、さっき見かけた不可思議な現象の確認もしなければならないので、後ろ髪引かれる気持ちを抑えながら、リケルとカイトは町の外へ走って行った。


 ……ま、ロケットの事は大丈夫でしょ。どうせ調べても分からないだろうし。


 痕跡と言えば高熱を帯びたロケットを地面に置いた際、その場所の草が焼けた跡位。だがそれが見つかったとして、まさか大気圏外からロケットが落ちて来て、それをまた打ち上げた、何て説明しても分かる訳も無い。


 ……ま、私も初めてやったからどんな風になるのか知らなかったしね。でも次回からは出来るだけ目立たない様気をつけよっと。

感想等頂けたら幸いです。

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