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ゴールドランク、それぞれの思い

一話だけ書けたので投稿します。

ですがまた書き溜めに入ります。ごめんなさい。

 ※※※


 町長宅でノライと別れ、ラミーもバルバ同様ギルド前に置いてある馬車に向かっている。特に急ぐ必要も無いのでのんびり歩きながら。久々に帰って来たファリス。そこかしこに幼い頃の記憶が転がっているのを思い出し、時折クス、とほほ笑んだりしている。


 だが、とある木造平屋1階建ての家の前を通りがかった際、ラミーは顔を強張らせ足を止めてしまう。


 ……どうしよう。やり過ごすべきか。


 ほんの少しの間悩みながらその家の前に立ち竦んでいると、いきなりバン、と扉が開いた。突然の事にびっくりして身体をビクっとさせるラミー。


「何やってんのよ! さっさと入んなさいよ!」


 その巨体を何とか扉の奥から覗かせながら、しゃがれた大声をかけるのはジャミー。ラミーはその美しいとは到底言えない姿を見て小さく溜息を吐く。


「やっぱり気付いていたのね」


「当たり前でしょう? 私も魔法使いの端くれよ? そんな膨大な魔素撒き散らしてたら気付くに決まってんでしょ。今日この町に着いてた時にはもう分かってたわよ」


「あ、そう……」


「通り過ぎるのかと思いきやウチの前で立ち止まってるし。鬱陶しいったらありゃしない。ほら、お茶位出してやるから入ってきなさい」


「口の悪さは相変わらずね」


「あんたも似た様なもんでしょうが」


 ジャミーに突っ込まれふん、とそっぽを向くラミーだが、その姿を見もせず、ジャミーは扉を開けたまま、巨体をゆさゆさ揺らし1人奥へと引っ込んだ。それを見てラミーは気不味そうにしながらもおずおずと中に入って行った。


 今は昼を過ぎた辺り。太陽は夕暮れに向かって傾き始めているからか、高い天窓から差し込む日の光も少ない。なので15畳ほどの広さの店内は薄暗いが、ラミーはそんな中の雰囲気を、少し懐かしさを感じながら陳列されている魔石やポーション等を見回した。


「随分良質な魔石が多いわね。ポーションも純度高いじゃない。腕を上げたわね」


 奥でお茶を用意しているジャミーが「違うわよ」とやや大きめの声で即否定する。


「違うって?」


「最近来た冒険者が良質の魔石や薬草を採取してくんのよ。そのお陰」


「……それってもしかして、ミークって女?」


 ラミーが確認する様に聞くと、「あら、ミーク知ってんの」としゃわがれた声で返しながら、巨体を揺らしお盆に載せたお茶を運んできた。


「知っていると言うか、名前だけをギルドや町長の所で聞いただけよ」


 ジャミーは陳列されている魔石類を行儀悪く腕で端に寄せ、運んで来たお盆を空けたその場所に置く。


「相変わらずガサツね。本当そんなので商売やっていけてるわよね。まあここはジャミー以外に魔石屋が居ないから、ジャミーみたく無愛想でも、こんな埃っぽくて散らかった状態でも商売が成り立っているのよね。もっと整理整頓しなさいよ」


 ラミーが小言を言うと、ジャミーはギロリと睨む。


「相変わらず口煩いわね。王都行ったら多少はお淑やかになるかと思ってたのに。あんな大喧嘩してまで行かせるんじゃ無かったわ」

 大喧嘩、と言う言葉を聞き、ラミーはムッとする。


「生まれた時からこの町の魔石屋を継げってずっと言われて続けてたけど、私は冒険者になりたかった。色んな所を見て回りたかった。本来冒険者は男がなるものだけど、魔法が使える私にはそのチャンスがあった。結果私は王都に行って魔法の腕を磨き、こうやってゴールドランクの魔法使いになれたわ。ジャミーの目論見通りここで魔石屋になる為残ってたら、数多くの冒険も出来なかったわ」


 ラミーの言葉を聞いてジャミーは自身が用意したお茶をグイと一気飲みする。


「あんたが王都行ってもう10年以上よね? ほら見なさい。この町には私しか魔法使いが居ない。時々他の町からやって来る魔法使いに声を掛け、ここに残って魔石屋やらないかって言ってもけんもほろろに断られる。そりゃそうよね。あちこち旅してる冒険者からしたら魅力感じないだろうからね」


「分かってるじゃない」


「そうよ分かってたのよ。ここ出たら外の魅力に惹かれてしまって、あんたが戻って来なくなる事をね」


 一旦一呼吸置く様に、既に飲み干したお茶のカップに口をつけ、底に残る数滴を啜るジャミー。


「私ももう若く無いわ。いつまでここで魔石屋やってられるか分からない。辺鄙な場所だから行商も中々来れない。だからこの町には魔石屋が必要なのよ。だからあんたを必死に引き止めたのよ」


「その気持ち、今なら分かるわ」


 ラミーはカップを手に持って膝の上に置き、そこに視線を落とす。


「あの時私は若かったから尚更反抗的だった。ジャミーだって元々王都の人間だったし、何でジャミーが知っている外の世界に私は出ちゃいけないの? って思いが凄く強かった。あの時ジャミーは必死に引き止めていた理由を説明してくれなかったけど、何となく察していたわ。でも外の世界を知らず一生ここで暮らすの? って思うと嫌だったのよ」


「まあ私も、当時のラミーの気持ち、汲んでやれなかった事は反省してるわ」


 ジャミーの言葉にフッと笑い、本当かしら、と呟くラミー。


「当時ジャミーは私がファリス以外の様々な場所の魅力や、冒険者としての醍醐味を知って、二度と戻って来なくなる事を憂いていたのでしょう? でも私はこうやって戻って来たわ」


「でもそれは依頼があったからでしょ」


 そうね、と返事しながら残りのお茶を飲み干し、お盆の上にカップを置くラミー。そして徐ろに立ち上がる。


「とにかく、数日だけどファリスに滞在するわ。私の部屋は空いているの?」


「空いてるわよ。ああ、心配しなさんな。この店内より綺麗だから」


 それはラミーがいつ戻って来ても良い様に、その部屋だけは物ぐさなジャミーがずっと清潔に保っていた、と言う意味。理解したラミーはクスっと笑う。


「じゃ、暫くここでお世話になるわ。叔母さん」


「ちょっと! その言い方止めてって言ってたでしょ!」


 ジャミーが声を上げ怒る様子を見て、ラミーはフフフと笑うのであった。



 ※※※


「はっ!」


 ベッドの上で唐突に上体だけを起こし目覚めるバルバ。次の瞬間首の後ろに痛みを感じ、手で擦りながらキョロキョロする。


「ここは……? 俺は何で……」


 ……確かあの女と闘技場で戦っていた筈。なのに何故今ベッドの上に居るんだ? 


 横に目をやると自分の鎧と剣が置かれている。自身を見てみると鎧の下に着ていた軽装。どうやら鎧は脱がされ寝かされていた様だ。 


「という事は……、クッ!」


 信じたくない事実に気付いたバルバは、勢いよくベッドから飛び降り部屋の扉を開ける。どうやらここは2階だったが、奥の「ギルド長室」という札を見て、ここが何処だか直ぐに理解し、ドタバタと足音を立てながら1階に降りていった。


 既に夕闇が迫る時間帯。下には多くの冒険者達がワイワイガヤガヤと賑やかにしていた。受付嬢の3人は彼等が持ち帰ってきた素材の確認等で忙しそうにしている。


 そんな喧騒の中から、バルバは探し人、ミークが居ないか階段途中の上の方からキョロキョロ見渡す。


「クソ! 何処行きやがった」


 どうもギルド内の広間には居ない模様。バルバは苛立ちながら1階まで降り切り、冒険者達が並んでいるところを横入りしてネミルの受付窓に顔を出す。ネミルはキッとバルバを睨み注意する。


「ちょっと。順番は守りなさい」


「そんな事よりあの女は何処だ?」


「あの女って?」


「ミークって女だよ!」


 バルバの大声を聞いて、ネミルは「ああ~」とわざとらしく呟く。そしてあざとく微笑みながら、


「ゴールドランク様を倒した、あのミークの事ね」


 ネミルがそう嫌味ったらしく言うと、バルバは「グッ」と怒りを滲ませた表情で声にならない声を出す。


「ミークならもうここには用は無いからって帰って行ったわ。倒したゴールドランク様を介抱してからね」


 わざと大きめの声でネミルがバルバに向かってそう言うと、周りの冒険者達にも聞こえた様で広間内がざわめき出した。


「おい。あの隻腕、またやらかしたのか」「今度はゴールドランクを倒したって?」「でもこの町、ゴールドランクなんか居たっけ?」「ほら、ネミルのカウンターで偉そうにしてる奴。あいつだよ」


 最後の男の言葉で皆一斉にバルバに視線を集める。それを見てバルバは「お前ら見せ物じゃねーぞ!」と大声で叫ぶ。すると、


「ケッ。女に負けた癖に偉そうに」「てか本当にゴールドランクなのかねぇ?」「ミークって確かシルバーランクだろ?」「それに負けるって。なあ?」と口々にバルバをこき下ろす言葉を発する。


 それらを聞いたバルバが「何だと!?」と言い返すが、そこでネミルが再度注意をする。


「とにかく、後ろがつかえているからどいてくれない? 邪魔よ」


「ミークって何処に住んでるんだ?」


「それを教える必要ある?」


 ネミルが睨みながらそう返すと、「チッ」と舌打ちし広間内で未だ事の成り行きを見ている冒険者達を尻目に、鎧と剣を取りに再度2階に上がっていくバルバ。その後ろ姿を見ながら、ネミルは「はあ」と溜息1つ吐いて、再び並んでいた冒険者の対応をし始めた。


 バルバが2階に上がると、寝ていた部屋の扉に、ギルド長のラルがもたれ掛かって待っていた。


「よお。ゴールドランク様。案外ギルドの休憩室の寝心地も悪くないだろ?」


「……」


「おいおい昼間の威勢はどうした? 魔法が使えない女に負けたってのが、余程堪えたのか?」


「煩ぇ!」


 苛立ちを抑えられずバルバはラルの胸倉を掴む。だがラルは怯まず冷静に返す。


「お前、誰に手を出してるのか分かってるのか?」


 ラルの言葉に「ケッ」と掴んでいた手を離すバルバ。


「まあ気持ちは分かる。俺も悔しかったからな。ゴールドランク様ともなれば尚更だろう。でも、お前が負けたのは紛れもない事実だ。てか、俺の許可無く勝手に闘技場使うな」


「もう終わった事だし良いだろ」


「良くねぇよ。下の壁の穴、闘技場に出来た地割れ、それからサーシェクの鎧、ちゃんと弁償しろよ?」


 ラルの言葉に「分かってらぁ!」と大声で叫んだ後、自分が居た休憩室の扉を開けバン! と思い切り閉めた。


「ここの扉まで壊すなよー」


 何だか嬉しそうなラル。傲慢なバルバの鼻っ柱がへし折られたのが余程嬉しい様である。だがそこで、ラルはとある事を思い出し、とりあえず壊れずに済んだ休憩室の扉をノックし中に入る。するとベッドに座り下を向き、肩を落とすバルバの姿が目に入った。


「何だよ? 馬鹿にしたりないのか?」


「いやそうじゃない。頼んでた品持って来てくれたかの確認だ」


「俺に確認? 品物関連は全て行商じゃねぇのか?」


「行商は絶対手に入れちゃいけない品だ」


 ラルがそう言うとバルバも「あ」と思い出す。


「奴隷紋か?」


 バルバの解答にラルが頷く。


「ここは平和な町だが最近何度も問題を起こすゴルガって奴が居てな。今牢に入れてるんだが、町長と相談の上、罪人として採掘場に引き渡す事にしたんだよ。だから搬送の道中逃げ出したり逆らったりしない様、奴隷紋が必要になった訳だ」


 そうか、とバルバがラルの説明を聞き返事するも、心ここにあらずと言った表情。だがスッとラルへ顔を向け返事する。


「持って来てるが今は馬車の中だ」


「ま、そりゃそうか。おいそれと持ち歩けない代物だからな。急ぎはしないからよろしくな」


 そう言ってラルは出て行った。


「……奴隷紋か」


 バルバは1人そう呟いてから立ち上がり、窓から外を見る。既に夕闇が迫り町の中は暗くなりつつあった。


 ……どんな奴でも、それこそ魔物でも人間でも必ず言いなりに出来る禁忌の魔道具、それが奴隷紋。その危険性故に王族によって徹底的に管理され、罪人に対してのみこの国では使える決まり。遠い昔、魔族が使用していたのを改良して使える様になったと言う。


 奴隷紋は一枚の紙に描かれた魔法陣だが、魔道具で封印された筒に入っている。その封を解いた瞬間、王都ギルドに即開封した事が伝わる高度な魔道具まで仕込まれている。それ程周到に管理されているので、おいそれと使用出来ない。


「だが、試してみる価値はありそうだな……」


感想等頂けたら幸いです。

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