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またもやらかしたので怒られました

頑張って書き溜めしております。


 ※※※


 オーガキングの素材の査定にはギルド長の確認も必要なのだが、生憎現在ギルド長のラルは町長の所に行っており不在。なので査定に時間がかかるだろうと、ミークは素材を一旦ギルドに預け、丁度休憩に入るところのネミルと共に、やや遅めの昼食を摂る事にした。町の入り口でカイトと「美味しい店を紹介する」云々のやり取りをした事を話すと、ネミルはニッコリ微笑んで「じゃあ私お勧めの所に案内するわね」とミークの手を引き連れ出した。


 ギルドから歩いて約10分。到着した店はややこじんまりした木で出来た家。煙突から煙がモクモクと上がっており何やら香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。


 ネミルが慣れた様子で扉を開けると、フワっと更に食欲をそそる匂いが漂う。外観からしてやはり中は然程広くない。しかもお昼時を過ぎた時間帯だからか客は殆ど居なかった。


 注文はネミルに任せたミーク。暫くして出てきた料理は魚がメインで、他に木の実やキノコ等森の幸をふんだんに使った料理も提テーブルに並ぶ。つい舌なめずりしそうな程香ばしいその匂い。そして完食したミークは大満足。美味しい店を紹介してくれたお礼にと、ミークはネミルの分も含め代金を全て支払った。


「気を使わなくて良いのよ」


 店を出た後、やや恐縮しながらそう告げるネミルに、ミークは微笑みながら「私がそうしたかったから。友達って言ってくれて嬉しかったし」と答えた。


 そう? と微笑みを返しネミルが返すと、ミークもニッコリ「うん。そう」と元気よく返事した後、


「身元も良く分からない、意味不明な事を言う私を受け入れてくれてありがとね」


 と、真顔でネミルに感謝を伝える。ネミルは首を傾げながら「どうしたの急に?」と聞くと、今度はニコっとしながら、


「この世界に来てから、正直疎外感をずっと感じてた。だって見た事も無い景色と人達ばかりだったから。でもネミルが友達だって言ってくれたから安心出来た。だから嬉しいんだ」


 ほんの少し憂いの表情を混じった笑顔でそう答える。それを見てネミルは、何だか胸が熱くなる気持ちになった。


「それは良かったわ。これからもよろしくね」


「うん! 勿論」


 ミークが元気よく返事するのを見てネミルも笑顔を返す。そこでふと、ネミルは前から気になっていた、とある事を聞いてみる事にした。


「そう言えばミーク、モチヒトって何?」


 その言葉を聞いたミークはビクっと身体が反応する。そして驚き強ばらせた顔をネミルに向ける。


「……何で、……その名前を?」


「ミークが寝てる時呟いてたの聞いたの。その時とても辛そうな顔だったから。って、それって人の名前だったのね」


「……」


 ……そうか。私、無意識に望仁の名前呟いてたんだ。


「アハハ。そっか。そんなに私、望仁の事忘れられないんだな」


 儚げな表情を見せる黒髪の超絶美女。ふと、その右目の瞳から一滴が溢れる。それを見たネミルが慌てて「ごめんなさい。嫌な事思い出させちゃった?」と心配そうに声をかける。


 慌てるネミルを見てミークはクスリと笑い、「違うよ大丈夫」と返事しながら、右の瞳の雫を人差し指で拭う。


「望仁はね、私の大事な人。でももう、この世には居ないんだ」


 それを聞いてネミルは表情が曇る。気軽に聞いてしまった事に対し申し訳無く思ったのだ。


「そうだったのね……。ごめんなさい。辛い事思い出させたかも」


「ううん。そうじゃないよ。楽しかった思い出も一杯あるから大丈夫。寧ろ気を使わせちゃったね。こちらこそごめんなさい」


 そう言って頭を下げるミークに、ネミルはまたも慌てて「いやいやこっちこそ」と、2人同時に頭を上げる。偶然お互いの顔が真正面で向き合い、それが可笑しくて2人でアハハと笑い合った。


「でもネミルはきっと大丈夫だよ」


「何が?」


「サーシェクって人もきっとネミルが好きだと思う」


 ミークがそう言った途端、ネミルの顔がトマトの様に真っ赤になる。「ちょ、ちょっとミーク? ()って何? ()って!」


 そのままの意味だよー、とミークはからかう様に笑いながら、ギルドに戻る道をスキップしながら先へ行く。ネミルは慌てて小走りでミークの後を追いかけた。


 ……そうか。ミークにも大事な人が居たのね。とても大切な想い人だったみたい。しかも言い方からして男性みたいね。でもその人は既にこの世には居ないらしいし。なら、この世の男達がいくらミークを口説いても無理でしょうね。


 ※※※


「はあ……、はあ……。どうして、スキップなのに、そんなに、速い、の?」


「ん~、冒険者だから?」


 元々身体能力に長けているミーク。スキップでも相当な速さだったので、最初は小走りだったネミルはそれでも追いつけず、途中で普通に走って追いかけた。受付嬢は冒険者ではないのでそもそも運動神経が良い訳でもない。それもあって結局ミークより遅れてギルドに辿り着いた。


 入り口で待っていたミークと共に、ネミルが息を整えた後中に入ると、赤髪のショートカットと水色髪のロングヘアー、2人の受付嬢が揃って「「お帰りー」」と出迎えた。


「ギルド長戻って来てるよ。オーガキングの件は伝達済」


 赤髪ショートの受付嬢がネミルにそう伝えると、「ありがとう。じゃあミーク、そのままギルド長室行くわよ」とミークを2階へ誘う。ミークは気が進まない表情で「……はい」と返事して小さく溜息を吐いた。


 やっぱり行かねばならないのか。分かっていたとは言えまたも面倒事が増えそうで余りギルド長に会いたくはない。それでも逃げる訳にはいかないので、渋々ネミルの後に続き2階へと上がる。そして突き当りのギルド長室の扉の前でネミルがコン、コンとノックをし「ネミルです。ミークも一緒です」と声かけると、扉越しに「おう、入れ」とラルの声で返答があった。


 ネミルが失礼します、と声を掛け扉を開けると、目の前にある長机には一枚の紙が置いてあるのが目に入った。そしてラルがミークの姿を見ると頭を抱え「はああ~~ああ~もう~~!」と、とてもとても大きく深い溜息を吐いた。


「とりあえずそこ座ってくれ。ネミルはもう良いぞ」


 分かりました、とネミルは一礼し、バタン、と扉が閉め出ていくと、ラルがミークの向かい側に座る。そしてもう1回、「はああ~~あ~もう~~!」と下を向き大きく深い溜息を吐いた。


 そして気不味そうに向かい側に座るミークをチラ見した後、


「やらかしたなあ、おい。連日に渡って最強の魔物を倒すなんてな。ここファリス始まって以来の珍事だ」


 とラルは告げるも、ミークは「そうですか」、と気の無い返事。その様子にラルは若干イラっとしつつ頭をガシガシ掻くラル。


「あのな? 良く聞けよ? オーガキングってのはほんっとうに滅茶苦茶強い魔物なのな? 単体でさえ強敵なのに、しかも今回2体のオーガを従えてたらしいじゃねぇか。主従関係になったオーガは通常の3倍身体能力が上がる。その上3体は連携して攻撃を仕掛けてくるのな? だから同時に全部倒さないといけない。ゴールドランク1人じゃ到底敵わないんだよ」


「まあそうでしょうね」


 うん知ってた。ほんのちょっと面倒だったし。でも何を当たり前の事を? ミークはその気持ちをふんだんに込めてそう返すと、その気持ちが伝わった様で、呑気な返事のミークにラルが明らかに更にイラッとしている。


「いやお前さあ、事の重大性分かってるか? そもそも冒険者に成り立ての新人がオルトロス倒したってだけでもとんでもない事なんだ。何とか体裁を整えないといけないから、まだ数日だがシルバーランクに上げたばかりなのによお! 何で直ぐ様またも滅茶苦茶強い魔物倒してんだよ! そんな大物次々倒せるって常識的に有り得ねぇんだよ! なのに何でそんなすっとぼけた顔してんだよ!」


 ハアハアと息を切らせながら苛々が募り強い口調になるラルに対し、だって仕方無いじゃん、と憮然とした顔をするミーク。


「そもそもオーガキング達から襲ってきたんです。倒さないとやられるんですけど?」


「いや襲われたなら逃げろよ! 何で倒してやろうって発想になるんだよ!」


 ラルに怒鳴られ「あ、そっか」と納得するミーク。普通はそんな強い魔物に出会ったら逃げようと考えるものだ、とそこで初めて気がついた。そしてミークが「やらかしたようでごめんなさい」と頭を下げると、それを見て漸く溜飲が下がった様で、ラルはふう、と一呼吸置いてから別件について確認した。


「そういやブロンズランクの3人はどうだった? 見つかったのか?」


 その言葉を聞いたミークが表情を曇らせる。だが伝えないといけないので顔を上げ、「残念ながら、オーガキング達に食べられたみたいです。あいつらがそう言ってました。ブロンズランクの人達の武器使ってましたので間違いないと思います」とラルの顔を見つめそう答える。


 ミークの返事を聞いてラルは同様に表情を曇らせ「そうか」と一言だけ呟く。そして少し間をおいてから気を取り直し「盗賊達が溜め込んでただろうお宝は見つかったか?」と聞くと、ミークは「洞窟の中にありました」と答えた後、左目を紅色に変え、ギルド長室の壁にピカー、と映写機の如く盗賊達の塒で撮影した内容を映し出した。


「おおお!?」とそれを見たラルは驚きながらガタン、と椅子から腰を落とす。だがミークは意に介さず「この通り、一切誰も手を付けてないみたいです」と映写しながら伝えた。


「……お前のその目、そんな事も出来るのか」


 呆気に取られた顔を崩さず、「もう良いぞ」とラルが伝えるとミークは映写を止め左目を黒茶色に変えた。


「しかし何でも有りだな。ミークに出来ない事って何なんだろうな」


 自嘲気味にフッと笑いながら呟くラルに「そんなの一杯ありますよ」と答えるミーク。


 本当かよ、と呆れながら言うラルだが、ミークはとある事を伝えねば、と真面目な顔をする。その様子に首を傾げ、「ん? どうした?」と質問するラル。


「報告したい事があるんです。結構大事な事だと思います」


「ミーク程の人間が重大って、一体何だ?」


「ダンジョンの傍で膨大な魔素を持つ生き物を発見したんですけど、多分あれ、魔族です」

感想等頂けたら幸いです。

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