やはり持て囃される
明日も投稿出来るかな~
頑張ります。
※※※
「……どう思う?」
「何と言うか。色々規格外ですね」
そうだな、と返事しながら、窓からミークとサーシェクの2人が帰っていく背中を見つめるマルガン町長。既に日は完全に沈み、辺りは闇に包まれるも、中庭は来客時ライトアップしているので綺羅びやかに輝いている。それをミークが興味有りげな様子でキョロキョロしながら観ている様も見て取れた。
先程ミークを椅子に座らせ戦いの詳細を聞いたマルガンは呆気に取られてしまった。大抵の事では驚かない、普段はクールなノライでさえも。
空を飛んだ、腕が離れる、その腕からは白い光が発射され攻撃出来、それでトドメを刺した。更に左目が特殊で魔素だけでなく体温等も分かる……、等々。当の本人ではなく、長年の付き合いのサーシェクが興奮しながら語ったその内容に、耳を疑うどころか、サーシェクの頭を疑った2人。
だがそれをミークが部屋の中で軽く実践する。椅子から立ち上がったかと思うとふわりと浮かんだ後着地し、それから左腕がスッと音も無く離脱し、更にその指先に白い小さな球が出来たかと思うと、細い針の様な線が発射され机に小さな穴が開いた。そして左目が紅色に変色、ノライに魔素がある事を言い当てた。
当然ながら2人は、事前に聞いていたとは言え、目の前で起こった事に驚愕した。だから結果信じるしか無い、これは現実なのだと。一応無理矢理には理解した2人。だが、サーシェクから聞いた戦闘の内容よりも、目の前で見た事よりも、
『てか、オルトロスって思ってたより弱かった』
ミークのこの一言には、マルガンとノライだけでなくサーシェクまでもびっくりしていた。
「あの発言を信じるならば、町の脅威となったであろうオルトロスなど、彼女にとっては取るに足らない相手だった、と。そしてそれは、彼女が更に遥かに強い、と言う事になる」
「……そうですね」
「魔族? とも疑ったが、どうやらそれも違うらしい。魔素を一切持ってないらしいしな。まあそこは安心なんだが。だから気になって出自も一応聞いたんだが……」
「違う所で死んで神様に連れて来られた、でしたよね?」
「それを信じろと言う方がどうかしている。だが彼女の能力であるカガク、とやらは、私は生まれてこの方一度も見聞きした事は無い。様々な人種が集い多くの情報がもたらされる王都に住んでいた私でさえも、だ。だからこの世界の物では無い、という理屈は分からなくも無い」
「私もカガク、とやらは初耳でした」
「……」
ノライの言葉を聞きながら、もう一度窓の傍に向かい外を見るマルガン。既に邸宅から出ていった2人が大通りを歩いて行くのが、街明かりに照らされ微かに見える。
「どうします? 辺境伯に報告しますか?」
ノライがそう伺うも答えずに沈黙するマルガン。ノライはその様子を見てこれ以上聞くのは止そうと思い、「そろそろ夕食の準備が整うかと」と伝える。マルガンは分かった、と静かに答えた。
……しかし、私がナイフを投げたのは彼女の身体の右側だったのに、何故彼女はそれを敢えて左手で受け止めたのだろうか? まだまだ謎が多い女だ。
※※※
既に日も暮れ辺りは暗いが、魔石の街灯が大通りを柔らかく照らしていて、相変わらずの幻想的な光景に、ミークは素敵な町だなあ、と改めて思いながら帰路に就く。
向かう先は昨日お世話になった宿屋。そこしか帰る場所が無いから仕方無いのだが。
綺麗な街の景色を楽しみつつ、歩きながらふと夜空を見上げてみる。この惑星も地球の様に傾いているのか、環を形成しているであろう隕石群の星々がやや地平線近くに傾き輝いていた。そして地球同様月が浮かんでいたのが見えたのだが、ミークはそれを見てピタ、と足を止める。隣を歩くサーシェクが不思議に思い同じく足を止め「どうしたの?」と聞くと、
「……2つある」
そう。夜空には丸い、大きさの違う月が2つ並んで浮かんでいた。ミークの呟きを聞いたサーシェクが「月は2つが普通じゃないの?」と質問すると、
「私が居た所では月は1つだったんで。でもまあ……」
「でもまあ……、何?」
「いや何でもないです」
地球に居た頃はいつも赤黒い分厚い雲に覆われていて、見た事は無いけれど、と言おうとしたが、それを話すと色々説明する必要が出てくるのが億劫だったので、ミークは続きを言うのを止めた。
そんなミークを訝しげに見るサーシェク。そんなサーシェクを無視し、ミークは夜空を見上げながら再び歩き始めたので、サーシェクは黙ってそれに付いていく。
20分程歩いた所で宿屋に到着。すると直ぐ、宿屋の1階、食堂からは窓明かりが漏れ多くの人が飲み食いしている様子がシルエットで分かった。中から喧騒が聞こえて来る。きっと今日もネミルの両親は忙しなく働いているであろう。
手伝えなかった事を申し訳なく思いながらとりあえず中に入る。すると一斉にミークに視線が集まったかと思うと「「「「おおおおお!!!!」」」」と大歓声が宿屋の食堂内に響いた。
「ファリスの英雄だ!」「おお! 帰って来たのか!」「英雄様! 本当にありがとうございます!」「お、おらの嫁になってくれぇ~!」
最後の声はともかく、皆ミークの元に集まり嬉しそうに称える。ミークは突然の事に驚きながら「ちょ、ちょっと待って! 離れて!」と抵抗するも、酒が入っている者もいるからか、中々ミークの傍から離れようとしない。
漸く面倒な町長との面会が済み早く空腹を満たしてゆっくりしたいのにこの状況。徐々にイライラが募るミーク。鬱陶しいので今日は外に逃げて野宿の方がいいかも、とか考えていると、例の美丈夫が後ろからヒョコっと現れ、ミークを囲む人達の間に入り、パンパン、と柏手を打つ。
「はいはい皆んな落ち着こうか! 彼女はあれだけの大物を倒した後だ! 疲れているだろうから、お礼言うのは後日にしてやってくれないか!?」
通る大きな声で皆にそう言うと「確かにそうだな」「英雄様、ごめんなさい」「私の店来たらサービスするからね」「お、おらの嫁は?」
最後の声はともかく、サーシェクの言葉に皆冷静になって口々にミークに謝罪しながら離れて行く。とりあえずサーシェクは「ふう」と一息吐いて、「ささ、奥のテーブルが空いてるみたいだから行こうか」とミークを誘った。
「いやそもそも何で一緒なんですか?」
「良いじゃない。俺も腹減ってるし、ついでに夕食一緒にさせてくれよ」
ね? とミークにウインクする美丈夫にミークは「うへぇ」と気持ち悪さを感じるも、町民に囲まれた時こうやって助けてくれているし、邪険にするのも申し訳ないと思ったので、ため息混じりながらも「分かりました」、と受け入れた。
ミークの反応に苦笑いを返しながらサーシェクは空いていた食堂最奥の丸テーブルの椅子に着席。ミークも同じく対面で席に着くと、ネミルの両親が雇っている従業員が注文を聞きに来た。因みに猫耳にフサフサの尻尾がお尻についている猫獣人。性別は見た目と服装からして女性だろう。そしてサーシェクは慣れた様子で注文を聞く。
「直ぐ出せて腹が膨れる料理ってある?」
「フォレストボアの丸焼きならいけるにゃ。さっきキャンセルになったので直ぐ出せるにゃ」
「じゃあそれとビール……。ミークは酒飲むの?」
「いえ。私は水で。それとサラダみたいなの、ありますか?」
「はいはーいサラダありますにゃー。じゃあフォレストボアの丸焼きと香草サラダ、ビールと水持ってきますにゃー」
注文を聞いた猫耳獣人の従業員は、当に猫の如く人の合間をすり抜け素早く厨房に移動する。その様子を見ながら「にゃ、て語尾に付けるんだ」と、初めての猫獣人との会話について妙に感心していた。
そして食事が来る合間ミークは食堂内を見回す。ネミルいるかな? と探してみるも見当たらない。相変わらず騒がしい店内。先程の猫獣人と共に他の従業員も忙しなく店内を右往左往している。それでもいつもと何となく様子が違うと感じたのは、店内の人々が皆ミークを意識しているからだろう、チラチラこちらに視線が刺さるのを感じる。
正直余り目立ちたくない、と思いながらも、あれだけの事をやらかしたので今更どうしようもないのも分かっているので、敢えて気にしない様心掛ける。そんなミークが気になってサーシェクが質問する。
「誰か探しているの?」
「え、あ、いや……。ネミル居ないかなって」
「ああ。ネミルは多分まだギルドだよ。今日は遅くなると思う。きっと今もギルド職員皆大忙しだろうしね。普段の冒険者の依頼の処理以外にも、とある大物の処理をしないといけないからね」
あ、とミークはその説明で気が付く。そっかオルトロスの素材が、と。
「まあ今日はギルドも忙しくしてるだろうし、もし行くなら明日の方が良いと思うよ」
「そうですね」
そこで「はい。お待たせにゃ」と猫獣人が、香ばしい美味しそうな香りを漂わせた、大きな肉の塊を丸テーブルの真ん中に置き、取皿も横に置いた。更に水とビール、サラダも直ぐに運んできた。
「あ、これ全部奢りだそうだにゃん。厨房の旦那より、との事だにゃ」
笑顔でウインクしながら猫獣人がそう言って去っていく。そういやこの猫獣人さん、顔はただの美人で猫髭は無いなあ、と今更気付く。そしてミークは厨房を振り返ると、丁度忙しそうに鍋を振るうネミルの父親と目が合い、「ミークちゃんのおかげで町は助かったんだ! 其れ位させてくれ!」と大きな声で伝えて来た。
ミークは立ち上がり頭をペコリと頭を下げる。一応「ありがとうございます」と口で言うも、きっとこの喧騒じゃ聞こえないだろうと、ミークは態度で示したのである。ネミルの父親は持っていた包丁を高々と上げ「おうよ!」と笑顔で返した。その後「包丁振り上げたら危ないでしょ!」とネミルの母親に怒られていたが。
座り直すと既にサーシェクが大きな肉塊をナイフを使って切り分け皿に盛り付けていた。「さ、冷めないうちに戴こう。折角の感謝の料理だしね」と言うと、ミークは笑顔で「はい」と答えた。
ずっと無愛想だったミークが初めてサーシェクに見せた笑み。美女のその微笑みにサーシェクは一瞬鼓動が早くなるのを感じたが、動揺を悟られない様にする為か、ビールをクイとやった。
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