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2人はちゃんと冒険者

「は?」「にゃ?」


 2人はミークにそう言われ呆気にとられる。


「いやいや何言ってるのにゃ? あたし達で何をどうしろと言うのにゃ?」


「そ、そうだよミーク! しかもあっちにはスピカも居るんだから私も行った方が良いんじゃないの?」


「いやスピカは空飛べるしエイリーと連絡取れるから大丈夫でしょ。それに……」


 ……明かり灯してるドローン置いていくし、もし危なくなっても守るから大丈夫だしね。


 そう心の中で呟きながら、「ま、そゆことで。ラミー行こうか」とミークは先にふわりと浮かび、夜空の中に飛んで行った。そして「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」と後ろ髪引かれる思いを背に、その後を慌てて飛んで追いかけるラミー。


 そこには未だファルマを捕まえているギーク、そしてエイリーとニャリルが残された。


 ギークはこの状況にしめた、と安堵する。


 ……これは好機。あの2人が居ないならどうとでもなる。途中までファルマを連れながら逃げれば良い。なぁに冒険者を語っているとは言えそこに居るのはたかが女2人。攻撃してきたところで大した事はない。


 一方取り残されたエイリーとニャリルは唖然としながら互いの顔を見つめ合う。


「ま、信頼してくれたって思うにゃ」


「そ、そうだねきっと!」


「でもミークって時々抜けてるからにゃあ……」


「ま、まあほら! ラミーも一緒に行ったし!」


「それもそうだにゃ」


 諦め? というかとりあえず無理矢理現状を受け入れた2人は、揃って「「ファルマさんを離せ!」にゃ!」」とギークに向かって叫ぶ。だがそんな2人をギークは「フッ」と嘲る様に笑う。


 そしてギークは近くの折れた柱にファルマを縛り付け、ゆっくりと2人に向かい合った。


「2人共、さっきの俺の話を聞いていなかったのか? 俺は半分魔族の血が混ざってる。実力で言えばゴールドランクだ。それを女のお前等がどうするっていうんだ?」


「ファルマさんを助けるにゃ」


「そうだよ。女だからって舐めない方が良いよ」


 ニャリルがポケットからナックルを取り出し装着、エイリーも両腰に備え付けていた拳銃を両手に取り身構える。2人が装備したその見た事も無い武器に少し驚くギークだが、それでも余裕の表情は変わらない。


「威勢が良いな。女だてらに冒険者やろうってのもそういう気概があるからだろう。だが申し訳無いがその気持ちをこれから打ち砕かせて貰おう」


 そう言って腰を落とし短剣を顔の前横一文字に構えるギーク。瞬間、フッとその場からギークが消えたかと思うと、ニャリルの横に移動していた。


「まずは1人。悪く思うな」


 殺さずとも致命傷を与えれば良い。そうすればあの2人が戻って来た際、治療の為この2人に時間を費やすだろう。そうすれば時間を稼げる。ギークはそう考え、本気でニャリルの首筋目掛けて短剣で斬り掛かった。


 だが、


 パシュン、と小さな乾いた音が聞こえたかと思うと、その瞬間ギークの短剣が何かに弾かれニャリルの首元から外れた。


「ぐあ! な、何だ?」


 突然手元に衝撃が走った事に驚きながら後ろにのけぞるギーク。エイリーの銃がピンポイントでギークの短剣を撃ったのだ。そしてその隙を逃さず、次にニャリルが「にゃっ!」と気合の入った声を上げギークの横腹にナックルを打ち付けた。


「なんの!」だが既のところで短剣が弾かれ手が空いたギークがそれを両手で受け止める。しかし、「何?」ニャリルの拳のその余りの威力に、ギークの身体がふわっと少し浮いた。


「うにゃにゃ!」ニャリルは好機と、浮いて無防備になったギークの身体に空手の掌打の如くドドドド、と更にナックルを打ち込む。「うごっ、ふげっ、ぐおっ」ギークの呻き声と共に、着ていた革鎧がナックルの形状に凹んでいく。


「うにゃあああ!」最後に気合の一殴り。オーバーアクションで拳を屠るニャリル。その叫び声と共にギークは「ぐああああ!」と、空中で仰け反り、そのまま反対側の壁にドーンと音を響かせ打ち付けた。


「う、うぐぐ……、ぐふっ」


 呻きながら何とか身体を起き上がらせるギーク。だがその間に、エイリーがファルマを救出していた。


 そして未だ地面から立ち上がれないギークを、仁王立ちで見下ろすニャリル。


「まだやるかにゃ?」


「……」


 ……何だこいつ? たかが女なのに強すぎる。俺の鎧を凹ませるだと? 獣人とは言えこいつは猫の獣人でしかも女。そんな力を持っているとは思い難いが……。 しかもエルフの女のあの武器、もしかして飛び道具?


 ニャリルは確かに戦闘センスがある。そしてまだミークと訓練して1ヶ月程度。なのにこれ程のパワーを出せるのは、ミークがプレゼントしたナックルが、相当硬度が高い代物だからである。そしてエイリーは元々射撃の能力が高かったので、小さな短剣でも外さず撃ち抜く事が出来たのである。


 助け出したファルマを背に、エイリーもギークに銃を向け構える。先程自身の短剣を弾いたあの不思議な攻撃をする武器もギークは初見。他にどんな攻撃が出来るのか想像出来ない。


 ……確かに女だと侮っていた俺にも問題があるが、それを加味しても思った以上にやる。あの2人が持つ武器は多分、あのミークが用意した物だろう。……本気を出せば何とかなるだろうが、別にこいつらを殺したい訳でも無い。


 ギークは少し考えた後、両手を挙げ武器を所持していない、更にこれ以上攻撃の意思は無い事を表示する。


「降参だ。これ以上は抗わない」


「……ほんとかにゃ?」


「本当だ。流石にこれ以上みっともない真似はしない」


 そうギークが言っても2人は警戒を怠らず身構えたまま。それを見たギークはフッ、と笑う。


「何がおかしいのにゃ?」


「いや。ちゃんと冒険者やってんだな、と思っただけだ」


「当たり前でしょ。冒険者なんだもん」


「……まあそうなんだがな。だが女だてらにそういう事出来るって珍しいの、お前等だって分かるだろ? さて、さっきも言った通り、俺は逃げられればそれで良いんだ」


「だからそれは駄目だにゃってラミーも言ってたにゃ」


「そういう事。このまま行かせはしないよ」


 エイリーがそう言ったタイミングで急に、何処からともなく現れた何かしらの細い糸? の様な物がギークの身体をぐるぐる巻きつけ始めた。


「え? うあ! な、何だ?」


 驚くギークと同様にびっくりしているニャリルとエイリー。


「な、何が起こったにゃ?」


「これは一体……、ってあれもしかして」


 エイリーがそう呟いてから見た視線の先には、ミークが残しておいた羽虫程度の大きさのドローンが、高速に鋼鉄の糸を吐き出しギークを簀巻きにしている様子だった。それを見てニャリルは「成る程にゃー」と呟く。


「だからミークはあたし達だけ平気で置いていったんだにゃー」


「この羽虫? も置いてったから、もし私達に何かあっても守れるからだったんだね。まあそれでも……」


「うにゃ! あたし達で何とかしたにゃ!」


 そう言って2人は嬉しそうにガシッと互いの腕をクロスに強く絡ませた。


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