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どうにか間に合う

 ※※※


「一体……、何だ? これは……」


 唖然としながら荒野と化した町の惨状に、警備隊長はぽつんと暗闇の中独り佇みながらただ唖然としていた。


 町長宅から戻る途中、先に町長が空を飛んで行くのを見かけた警備隊長は「よぅしこれであの女達、特に超のつく黒髪のあの女を好きに出来る」とほくそ笑んだ。


 そして少しして、ギルドの方から激しい戦闘の音が遠くに居ても聞こえてきた。始まったか、と思いながら気づかれない様ゆっくりと近づく警備隊長。


 それから遠目ながら様子が見える場所に身を潜め見てみると、そこには何と町長が干からびた状態で横たわり、更に巨体ながら艶めかしく美しい、全身紫色の女が、あの黒髪の超のつく美女と向かい合っているではないか。


 しかし直ぐに戦闘が始まる。だがそれは戦闘と言うより巨体の美女の攻撃を尽く防ぐ華奢な黒髪の美女、という構図。そして巨体の美女は途轍も無い巨大な、岩山1つは優に破壊出来るであろう凄まじい魔法を、たかが人族の女1人に向け放つ。だがそれも虚しく黒髪の美女には傷一つ付いてさえ居ない様だった。


「そしてあの巨体の女はその場から消えたんだが……いや、もう何もかもが非現実過ぎて頭が追いつかない」


 そういや自身にも凄まじい爆風が襲い瓦礫が飛んできたが、何やら透明な壁? みたいな物が突然現れ事無きを得たのも良く分からない。


「……はっ! そうだ町民は? 皆無事なのか? 警備隊の皆もどうなった?」


 これだけの規模の攻撃である。警備隊長はまず警備隊の皆を起こし、全員で町民の無事を確認する事にした。


「……あれ? さっきまで何か邪な思いに包まれていた様な……。そう言えば上空に掛かっていた紫の膜も消えている様だ」


 今はもう夜ではあるが、あの薄い膜が無くなったのは何となく分かった。


 そして警備隊の皆が居る方向、デムバックの入り口へ駆けていく途中で、ミークが見張りで付けていた羽虫程度のドローンがその場から離れていくのには、当然警備隊長は気付かない。


「何やら気持ちがスッキリしている。どうもここ最近モヤがかかった様に、そしていくら休んでも体力が削られる様な感覚だった。それが今無くなっている」


 身体も軽やかになった様で、警備隊長は急ぎ仲間達の元へ駆けて行った。


 ※※※


「うぐぅ……、ヒック、ヒック……」


「いやあ……」


「あなた達、元々私達と同じあの町の仲間じゃない……。こういうのもう止めてぇ……」


 洞窟内に居た女性達を捕まえた冒険者の面々は、もう辛抱堪らんとその場で致そうとしていた。それをミラリスを肩に担いだままほくそ笑みながら見つめるゴールドランクの大男。


「もう戻るにしても夜だしなぁ。ここに留まるしか出来ねぇ。ならやる事は1つだもんなあ。ヒヒヒ、俺もミラリスで楽しんでやらぁ」


 そう言えばさっきからやたら頭がスッキリしている。これまでいくら寝ても疲れが残っていた感じだったのに、何故か憑き物が落ちたみたいに身体が軽い。それは自分だけじゃなく皆もどうやらその様だった。


 ただ気分だけはずっと高揚していて、女を好き勝手するのには全く抵抗を感じなかった。


 ……冒険者の連中がミラリスに苦戦してたのも、この身体の気怠さが原因だったのかもな。いくら元シルバーランクて言ったって1人であれだけ抗える訳ねぇしな。


 そして同時に思い出した罪悪感と後悔の念。だが彼等は皆男至上主義が強い冒険者達。更にミラリスという強い女性が居た事が更に、劣等感と嫉妬の気持ちが後押しし、心の底にあった善の気持ちを押し殺した様である。


 それにここまでやってしまったらもう後戻りは出来ない。デムバックはあの町長が居る限りこれまで通り女を自由に出来る筈。新たにやって来たあの美女達も今頃町長の慰み者になっているだろう。


「ま、ミラリスと沢山楽しんだ後におこぼれでも良いから頂こうかね」


 特にあの、腕が離脱する不思議な黒髪の女。あんな華奢な腕なのに太刀打ち出来なかったが、町長にかかればいくら強いと言ってもたかが女、容易く倒されているだろう。


「冒険者共に突っかかっていったエルフ、猫の獣人、後魔法使いの女、あいつらも中々……」


 あんな美女4人が集まるのも珍しい。ある意味幸運だったのかも知れない。


「あの女共の事は町に戻ってからとして、さてさて……」


 ヒヒヒと嗤いながら大男は気を失っているミラリスをそっと地面に降ろし、そして上着に手をかけた。


 だがそこで急に、空からバラバラと枝葉が沢山、まるで雨の様に落ちてきた。


「あん? 何だこれ? 邪魔臭いな」


 鬱陶しそうに手で払うも次から次へと落ちてくる。鬱陶しそうな顔で男が上を見上げる。だがそこに枝葉が落ちてきそうな大木は無く、ただの夜の闇から落ちてきている。


「一体どういう事だ?」


 訝し気に夜空を見上げる大男。そこで突然、ヒュっと風を感じたかと思うと、地面に寝かせていたミラリスの姿が消えた。


「な! 何だ?」


 驚き辺りをキョロキョロする大男。それと同時に洞窟の中から「な、何だ?! 痛ぇ!」「ぎゃあ!」「うわああ!」と突如慌ただしい男達の声が聞こえてきた。


 ※※※


「スピカだっけ? 先に行って! 私のドローンが後で追いかけるから!」


「え? あ、は、はい……って、僕の事判るの?」


 名前を呼ばれて驚いた精霊のスピカは、姿を隠しては居つつもつい声を発してしまう。


「見えないけどね。何処に居るかくらいは判るよ」


「な、何で……」


「因みに私も判るわよ。なんたってエイリーの精霊魔法の基礎を教えたの私だから。エイリーの身体を観察するうち、精霊の魔素がどういうものか、理解したのよ」


「あたしは判らないにゃー。でもエイリーはあたしの幼馴染で友達だから心配要らないにゃー」


「……」


 呆気に取られるスピカだが、その姿は見えないのでただの無言の闇があるだけなのだが。ただエイリーだけには見えている。


「戸惑うのは分かるけど説明は後。とにかく女の人達のとこに案内して。この小さな羽虫みたいなのドローンって言うんだけど、こいつらの方が速いから先に行かせる。でドローンから情報得たら私達も場所分かるから後から追いかけるから」


「良く分からないけど、急がなきゃなのは間違いなから……、分かった行くよ」


 スピカは戸惑いながらも、ミークの言う通りなのでとりあえず空中で踵を返し夜空へ飛んで行った。ミークはAIにドローン6台を追尾させる様指示をした。


 スピカは飛びながらふと振り返る。するとその後ろを、確かにあの黒髪の左眼だけ紅いあの人族の女が言っていた通り、小さな羽虫6匹? が音もなく付いて来ている。


「あの黒髪の人族、虫とか操れるの? ていうか僕今姿消してるのにどうしてこの羽虫達、付いて来れるんだろう?」


 ……そう言えばあの魔法使いが「精霊の魔素が判った」って言ってた。それを認識出来てるから? もしそうだとしても、普通は魔法使いと言えど判るもんじゃないと思うんだけど。それにあの黒髪、魔素全く無かった筈。なのに何で精霊の魔素が判るんだろう?


 不可思議だと思うつつも、とにかく今は疑問より女性達の救助が先なので、スピカは洞窟へと急いだ。


 そして洞窟の前に到着すると、入り口で地面に横たわる女性1人が、大きな男に今当に服を剥がされそうになっているでは無いか。


『危ない!』


 スピカは慌てて周りから枝葉を集め、男の上から振りまいた。


 男が面倒臭そうにそれを払っている隙に、付いて来ていた羽虫、ドローンが一斉に動き出す。まず2機が入り口で気を失っていた女性、ミラリスと地面との間に薄いプロテクションシールドを生成し、音も無くスッと持ち上げ移動させた。


 そして残り4機のドローンは静かに音も無く洞窟内に侵入し、女性達を襲っている男達の手や足を狙いビームで攻撃し始めた。


※※※


「クソ! 何処に行きやがった!」


突然居なくなったミラリスを探そうと大男は慌てた表情で辺りを見回す。だが今は夜ともあって何も見えない。月明かりのお陰で夜空は見えても辺りを確認するには森の中は暗すぎる。


「チッ。仕方ねぇ」


冒険者の備えとして常備していた灯りの魔石。大男は「ライト」と唱え辺りを照らす。これでかなりの範囲が見える様になったものの、それでもミラリスの姿は見当たらない。


「……洞窟内から野郎共の叫び声が聞こえたし、気付いたミラリスが中に女達を助けに行ったのか」


今は先程より喧騒は小さくなっているものの、はっきりと何を言っているかは聞こえはしないが、何やら物音や声は聞こえる。大男はその騒ぎは気付いたミラリスが起こしたものだと判断し、灯りの魔石を頼りに利き手に大斧を持ち、警戒しながら洞窟内に入った。



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