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別の問題がまだだった

 ※※※


 いつの間にか薄紫色で覆われていた町は、女魔族が消えたと同時に消滅し、既に夜となった辺りは灯りも無い為暗い闇となっている。


「……」


 そんな中、ミークはずっと虚空を見上げ独り言を呟き、紅い左目だけがキュイ、キュインと無機質な微音を立て不規則に動いている。傍から見ればとても奇妙で不気味な状況だろう。


 だが今、ラミーはあのラビオリ型に畳めるシュラフでスヤスヤと快眠中であり、脅威の1つだったであろう新町長、基い王族のヴァルドーは、干物の様に干からび既に事切れている。そしてギルド2階に居た4人からも、唯一残ったギルド建屋の壁によりミークの様子は伺えない。


 よってその奇妙なミークの様子は誰にも気付かれていない。だが少しして、ほぼ廃屋となってしまったギルドからガタ、と物音が聞こえたミークは、忙しなく動いていた紅い眼を正常に戻し振り返った。


 振り返った先、その瓦礫の壁の後ろでは、丁度ニャリル達4人を囲っていたドローンの透明なプロテクションシールドが突如ヒュン、と消え失せ、4人は突然の事にビクっと身体を反応させ驚きながら顔を見合わせた。


「……もう、大丈夫みたいだにゃ」


「そうだね。会話も聞こえない、というかミークの独り言だけ何か聞こえてた。何言ってるかまでは分かんないかったけど」


 エイリーとニャリルがそう会話しながら2人揃ってそーっと壁裏から顔を覗かせる。灯りは無いがそこ一面焼け野原となり、建っていた家々は全て消し飛んでいるのは薄暗い中でも理解出来た。その地表にただ1人、あの黒髪の超絶美女がこちらを振り返り1人佇んでいる。そしてその傍らに、あのシュラフが1つ転がっているのが2人の目に入った。


「あれ、あたし達が寝る時使ってたやつだにゃ。何で戦ってたのに出てるんだにゃ?」


「そういやラミーが居ない……。もしかして中にいる? ……あ! あの干からびた人間、もしかして……」


「……ヴァルドー、の様だな」


「一体何があったんでしょう?」


 ニャリルとエイリーに続き出てきたギルド長ギークとファルマが呆気に取られながら口にする。2人はニャリルやエイリー程夜目が効かないが、それでもニャリル達の言葉からして、干からびた状態であろうそれがヴァルドーだと想像した様である。


 とりあえず危機は去った様なので、4人は揃ってミークの元に歩み寄る。近寄って来た4人にミークはニコ、と微笑みかける。


「皆無事だった様で何より」


 その言葉にニャリルが「ミークの不思議な虫? のお陰だにゃー」と返す。その横に居たエイリーは辺りを見渡し「うわあ……」と呆気にとられる。


「辺り一帯、消し飛んじゃったみたいだね」


「町の連中が居なかったのは不幸中の幸い、だったな」


「そうですね……」


 2人の後ろから、ギルド長ギークとフェルマも続きながら呟いた。


「とりあえず暗いから明かり灯すね」


 ミークがそう言うと同時に、ドローン19機がミーク中心100m広範囲に一気に拡がり、各々がライトを点灯すると、まるで夜のスタジアムの照明の様に4人を中心に辺り一帯を照らした。


「うぎゃ! いきなり眩しいにゃ!」


「ちょっとミーク! 光強すぎるって!」


「あーごめんごめん。AI、もうちょっと光量落として」


 ニャリルとエイリーに謝りながら、ミークはAIに指示をする。すると眩く辺りを白色に照らしていた各ドローンは、今度は優しい蛍光色に変えた。今度は街灯の様な柔らかい光に照らされた。


 急なライトに驚きながら顔を腕で覆っていたギークとファルマも、漸く見易くなった為防いでいた腕から顔を出す。更に良く見える様になった町の様子。家々は瓦礫となり、それは戦争の後の様相であった。


「……まるで魔物の大群に総攻撃でも受けた様な有り様だな」


「ギルド長が先程仰った通り、人が居なくて良かったのかも知れませんね……」


 呆然としながら辺り一帯を見渡すギークとファルマ。一方でニャリルはミークに声を掛ける。


「で、そこの干物はあの町長で間違い無いのかにゃ?」


「そうだよ。勿論もう死んでるけどね」


 ニャリルの問いに答えながら、既に絶命し干物状態のヴァルドーを一瞥したミークは、「そろそろラミーも起こすか」とAIに指示。すると傍らに転がっていたシュラフがプシューと空気の抜ける音を立て背中部分が開くと、そこから「んー」と腕を大きく伸ばし大きな欠伸をしながらラミーが上半身を起こし現れた。


「ふわあ~ぁ。とても心地良い目覚めだわ……。あら? 皆んなどうかしたのかしら?」


 ミーク含め5人から一斉に見つめられたラミーは可愛らしくキョトンと首を傾げるが、そこで「あ!」と戦闘中だった事を思い出す。


「ミ、ミーク! あ、あの女魔族はどうなったのかしら?」


 ラミーの問いにミークは肩を竦め「逃げられちゃった」と残念そうに答えた。


「ほら以前、バルバがダンジョンから逃げる時に使ってた転移の魔法。あれ使われちゃった。でも一応ドローン1機付けてみたら一緒に付いてく事は出来たんだ。だけど転移した場所が滅茶苦茶遠くて、直ぐ移動出来る場所じゃ無かったし、ドローンもそこに置いとけないから、どっちにしろこれ以上は放置かな」


 ミークの説明にラミーは詳細は分からないものの、取り逃がした事は理解した様である。


「……それでも、ミークの不思議な力があれば、遠方でも倒せたのではないのかしら?」


「まあね。でもあの女魔族、怖がって泣いちゃったんだもん。どうも倒せなくなっちゃった」


 ミークがそう肩を竦めると、5人は「「「「「は?」」」」」と呆気に取られる。


「ま、魔族が泣いたのかしら? そんな事あり得るのかしら? ……ああ、ミークがそこまで追い詰めたって事なのね」


「……信じられないにゃ。仮にも人族を虫けらとでも思ってる魔族だにゃ。それが泣くって……」


「ミーク……、恐ろしすぎる……」


「「……」」


 ぽかんとしている5人に対し「でも場所は特定出来たよ。行くには相当時間かかるし今直ぐってのは無理だけどね」と付け加えるミーク。


「そ、そう……。ま、まあ、分かったわ。とりあえずお疲れ様? で良いのかしら?」


 ラミーがそうミークにそう伝えると「そうかな?」とミークは若干不満そうな顔で返事する。


 そこでエイリーが急にビク、と何かに反応し灯りに照らされた夜の上空を急に見上げた。そして「え? どうして?」と驚いた表情で呟くと、上空から精霊のスピカが慌てた様子でエイリーの元にやってきた。


「あ、スピカ? そっか成る程、結界が無くなったから来れたんだ」


『エイリー! それより大変大変!』


「大変って、どうしたの?」


『女の人達が!』


「え?」



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