結界の意味
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「ク、クソ! それならば!」
女魔族はいきなり飛び上がり、天井に向かっていく。どうやら直接2階に居るニャリル達を襲う気の様だ。
だがそれは叶わない。急にガシイ、と何かに首根っこを捕まれた女魔族は途端に動けなくなった。
「ウグッ! な、何事だ!?」
驚き捕まった首に手をやると、それは細い左腕だった。一体何事? 女魔族は驚きながらミークを見てみると、左腕が無くなっていた。
「も、もしかして……、これは……、お前の?」
「ご名答」
「一体……、何が……、どうなって……、いるのだ……、ゴホッ!」
徐々に食い込んでいく指。恐怖し必死で両手を使い引き剝がそうとするもびくともしない。
「グッ……、ググゥ……! グハァ! な、何故……だ……、この……、力っ!」
メリメリと喉元に食い込んでいく左腕の指。一体どういうからくりなのか。それも気になるがりあえず、この腕を引き剥がさない事には命が危ない、と女魔族は両手で必死に引っ張る。
だが一向に剥がれる様子が無い。女魔族は焦燥と苛立ちを露わにしながら、突如キッと天井を一睨みし、バッと突然、手のひらを上へ翳した。
途端、先程まで薄紫の結界が覆っていたが今は何も無い空に突如、ブン、と今度は薄い青色の結界が一気に町全体を覆った。
「今度は何だろ?」
左腕が無い状態で不思議に思いながら空を見上げるミーク。すると突然ミークのその紅い左目が、異常とも思える程の強大な数値の魔素を、目の前の女魔族から感知した。
一体何事? ミークは警戒しながら身構えると、女魔族は両手でミークの切り離された左腕を掴み、「うおおおおおおおお!!!」と雄叫びを上げると、グイ、と何とか引き剥がした。
「おお、マジか」
呆気に取られるミーク。そしてポイ、と無造作に投げられた左腕だが、即空中でくるりと一回転した後ミークの元に戻った。
「ガハァ! はあ、はあ……。ハハハハ! どうだ! お前の不可思議な腕を引き離してやったぞ!」
「うんちょっとびっくりした。500㎏の握力に設定して掴んでたからね。それはともかく、この青い結界? は何なの?」
フー、フー、と呼吸を整えた後、女魔族はニヤリと嗤う。
「フフフ。お前の後ろにいる魔法使いを見てみるが良い」
女魔族にそう言われ、ミークは後ろを顧みると、そこには地面に血を吐き蹲るラミーがいた。更に紅い左目を介してラミーの生命反応が極端に少なくなっているのを確認出来た。
「ラミー! どうしたの?」
慌ててミークはラミーに駆け寄り抱き上げると、ラミーはヒュー、ヒューと息絶え絶えに呼吸をしていた。
「き、急に……、魔素が……、無くなっ……て……」
そこでAIが脳内にてミークに報告する。
ーーラミーの魔素が全て無くなった模様です。更に生命反応が急激に低下……。心拍数急激に減少。早急に生命維持を要しますーー
「何だって?」
驚きながら徐々にその顔から生気が失われていくラミーを抱きかかえ焦るミーク。
「どうすればいい?」
ーーシュラフの利用を提案します。……どうやら魔素を全て失うと同時に生命力まで奪われてしまう様です。シュラフなら快癒能力を用い生命力の維持が可能ですーー
「上の4人は?」
ーー先程のドローンによるプロテクションシールドにて防護出来ており4人とも無事ですーー
AIの報告にミークはホッとすると同時に、急いで腰につけている小さなポシェット、異次元収納からラビオリ型に畳まれたシュラフを取り出し即展開し、急いでラミーを中に入れた。途端、生気を失っていたラミーの頬に赤みが生じ、心地よさそうに寝息を立てているのが、ラビオリ型のガラス面から見て取れ、ミークはホッと胸を撫で下ろした。
一方、先程まで四肢を失い寝転がっていたヴァルドーは、肥満体系だったのが干からびて干物の様になり、完全に命尽きていた。
そして女魔族は、ずっと怪訝な顔でミークを観察していた。
……異空間収納から取り出したあれは一体? そしてギルドの建物の中に居る連中からは、何故か魔素も生命力も奪えていないのだが……。
女魔族が疑問より先にミークが女魔族に向き直り声を掛ける。
「……どういう理屈か分かんないけど、魔素を持った人間の生命力を奪う結界だったんだ。だから魔素の無い私は無事だった、と」
その問いに女魔族は「半分正解だ」と答える。
「元々張り巡らしていた薄紫の結界、あれはここで暮らしていた連中の魔素を少しずつ吸収する為のものだ。副作用として元々暴力的な感情を持つ者は理性も徐々に失っていく」
「成る程。だから今日来たばっかで魔素が無い私は平気なんだ」
「……魔素も無いのに飛び回る左腕。私の毒だけでなくこの青い結界から身を守る事が出来る道具。もしかしてお前は、この世界の者では無いのか?」
女魔族の言葉にミークはハッとする。
「どうしてそう思うの?」
「お前の様な存在、見た事も聞いた事も無いからだ。仕方ない。本来、吸収し貯めた魔素と生命力は別の目的で使用する筈だったのだが……。お前の様な化け物をこのまま生かしておく訳にはいかぬ。折角集めたこの力、お前を倒す為に使う」
「この青い結界は集めた力を使う為って事? でも多分勝てないよ」
飄々としたミークの様子に、女魔族はギリリと歯噛みし怒りを顕にする。
「その余裕ある態度も今のうちだ!」
女魔族はそう言うが否や、突然スッと音もなくその場から消えたかと思うと、直ぐ様ミークの正面に現れた。
「うおっと! いきなりだ」
「はあああああ! 喰らえええええええ!!!」
気合一発、女魔族はミークが驚く間も与えず、渾身の力を込めミークの細い腰にボディブローを思い切り放った。
だがミークはそれをガシィ、と左腕でがっちり掴む。ドドーン、と大きく響き渡る轟音。その威力でブワッと風圧と振動が辺りに広がる。「何ぃ?!」驚く女魔族を他所に、ミークはその身体ごとポイ、とギルドの外に放り投げた。
投げられるもとんぼ返りし地表にスタ、と降り立つ女魔族。だがその顔は呆気に取られていた。同時にミークもギルドの外に出る。
「……今のは結界の力を使った、渾身の一撃だった。岩山に大穴を開ける程の。なのに……、難なく止めた、だと?」
信じられない。女魔族は焦りの色を浮かべる。だが直ぐ、女魔族は再度ミークに接近し連打を浴びせ始めた。「おらあああああ!!!」殴打に蹴りを織り交ぜ攻める女魔族。
その一発一発が相当な圧力の様で、ドン、ドゴン、と殴打とは到底思えない程の轟音が響き渡る。
だがそれの強烈且つ強力な攻撃を、ミークは難なく避け、または左腕で受け止めるではないか。
「はあ、はあ……。この、化け物め!」
女魔族は埒が明かない、と一旦距離を取る。
「失礼な。ただの人間の女の子に対して」
「ただの人間の女の子は巨岩を破壊する程の連撃を受け止めたり避けたり出来ないだろうがあああ!!」
未だ余裕のミークに対し、女魔族は怒り叫びながらバッと突如広げた両手を自身の額辺りに翳す。その手のひら辺りに徐々に紫色の禍々しい球体が出来上がっていく。それは徐々に大きくなりバレーボール程度の大きさになった。
「魔族には序列があってな。私はその中でも四天王と称される程の強さを誇る。そしてこの青い結界の中ではどの魔族も決して私には勝てない」
……そう。魔王様でも苦戦するのだ。
「その私が、これから全力でお前に攻撃を仕掛ける」
四天王? 何やら語る女魔族に首を捻りながらもミークはAIに、ドローンにて1辺20m程度の正方形型に配置し、自身の前にビームプロテクションを構築する様指示をする。
「この暗黒魔法は、私が時を掛け収集した魔素と生命力を全て注ぎ込んで放出する。下手をすれば辺り一帯焦土と化すだろう。お前が悪いのだぞ? その理不尽な強さのせいだ。お前の様な脅威は早々に消しておかねばならぬ。さもないと、我々魔族の復興どころかあのお方の……」
「御託は良いから準備出来たら言ってよ。語ってるのは暗黒魔法とやらが時間かかるからでしょ?」
図星を突かれた女魔族はビクっと焦りの表情を見せるも、即キッとミークを睨め付ける。
「分かっていて待っていたのか? 防げる自信があるとでも?」
「まあね。だってそれの威力って、たかがこの辺り一帯焦土化する程度でしょ?」
そう言いながらもミークは念の為最善の注意を払う。
……さて、核の攻撃にも耐えうるビームプロテクションが何処まで暗黒魔法とやらに有効なのか、試させて貰おっか。
ミークは心の中で呟きながらドローンを広範囲に設定。更に左手のひらを開き5本の指先からビームを発射し、自身の正面に更なるビームプロテクションを構築した。
「その余裕の態度、何処まで続くか楽しみだ。消え去れ! ヴァニッシュ!」
途端、ふわり、と一筋の風を感じたかと思うと、ドーン、と途轍もない暴力的な圧力がミークを含む一帯に黒い霧と共に襲ってきた。
「おおお? これは中々」
ドン、とドローンが構築したビームプロテクションに黒い霧の膨大な圧力がぶつかる。ビリビリとドローンが振動している。
「どう? ドローン本体へのダメージは。大丈夫そう?」
ーー各ドローン、この世界に来て初めてダメージを受けております。装甲の塗装が少しずつ剥げてきております。ですが本体自体は問題ありません。……攻撃力は小規模核爆弾より劣りますがICBM10発程度の威力はある模様ーー
「ふむ成る程? 山を吹っ飛ばす程度の威力は有るって事か」
ミークの正面に張り巡らされたビームプロテクションもビリビリと振動している。だがどうやらAIの報告通り、ドローンの塗装が多少剥がれた程度でプロテクション自体も問題ない様で安堵するミーク。
その強烈な圧力のせいで、ゴゴゴゴ、と大きな音と地響きが辺り一面に響き渡る。
暫くして、ミークから後ろ一帯が完全に消え去った。
「はあ……、はあ……。ハハハハ! どうだ流石にこれは……」
「うん。中々良い攻撃だったよ」
「え?」
ビームプロテクションを既に解いたミークが平然と、肩で息をする女魔族の前にしれっと立っている
「……え?」
ポカーン、という音が聞こえそうな程あんぐり口を開けている女魔族。信じられない。女魔族は有り体に目をゴシゴシ擦る。だが間違いなく、あの麗しき黒髪の化け物は一切のダメージを受けず、眼の前に佇んでいた。
「左手のプロテクションは必要なかったかな? でもまあ、この世界に来て一番の攻撃だったよ」
ミークが構築したビームプロテクション以外の辺り一面は、瓦礫さえも無く地面がむき出しになっている。そしてニャリル達4人が居たギルドは、ミークのプロテクションのお陰で丸々そのまま残っていた。
すみません。また書き溜めに入ります……。