出会い系で会った女が人外だった話
初書きSSです。
ただの気まぐれ、
暇つぶしのつもりだった。
いつもの日曜日。
特にやる事も─やるべき事は山のようにあるが、
どうにも腰が重くただ怠惰にテレビの中の喧騒を眺める。
そうして時間を浪費していると、ふと淋しさというか、言い知れぬ虚しさに襲われる。
この日は運悪く、ちょうどそれが訪れていたのだ。
華々しいとされる20代も、幾ばくかの賃金以外何も手に入らない労働に追われるうち、
無常にも別れを告げようとしていた。
そういえばアイツも結婚するんだっけ、後輩も彼女できたとか言ってたな…。
そろそろ彼女でも作ってみるか、そんな在り来りな動機で
流行りの─所謂出会い系アプリをインストールする。
紹介文や支払い情報の登録で何度か投げ出しそうになったが
何とか登録を終え、画面に表れた女性達のアイコンを眺める。
正直どれも似たような顔でよくわからなかったが、
1人だけ妙に目に留まる女性が居た。
プロフィールも当たり障りがなく、
これなら特に問題はなさそうだと判断すると、アイコンを右へ滑らせた。
彼女は見立て通り問題のない、むしろ至って真面目な女性であった。
物腰も柔らかく博識で、それでいて嫌味のない彼女に惹かれるのは時間の問題だったと言える。
それから暫くの間やり取りを続け、猛アタックの末何とか彼女と会う約束を取り付けた。
初めに声をかけてから半年ほど経つが、彼女は一向に自分と会おうとはしなかった。
文面から察するに彼女もこちらに好意を抱いている、
しかしどういう訳か電話すらも許してはくれなかったのだ。
その彼女がついに─半ば無理矢理取り付けた約束ではあるが、自分と会ってくれるというのだ。
約束の日まで気が気ではなかった。
おかげで仕事中そこそこ大きなミスをしたが、
誰にいくら叱責されようとも気にならないほど舞い上がっていた。
そして当日。
慣れない繁華街へ足を運び、指定されたランドマークへ着いたところで彼女へ連絡する。
すぐに既読がつき、返信が来た。
少し到着が遅れてしまうかもしれない、との事だった。
了承の旨と心配の連絡を返すと、ふと街へ目を向けた。
普段自分が見ている、怠惰で代わり映えのしない景色とは程遠い愉しげな街。
行き交う人間も、服装に頓着の無い自分でも分かるほどお洒落な人ばかりだった。
自分はといえば、煩雑なブログで聞き齧った流行りのファッションを纏い、
髪型も整えてはいるものの所謂流行りとは違うもので。
明らかに自分が場違いである事をまざまざと見せつけられた気持ちになり、そっと手の中のスマホへ目を落とした。
あれから30分程経ったが、彼女からの連絡は来ていなかった。
─女の子だし、支度に時間がかかっているのだろう。
ここで下手に急かして、やっとの思いで取り付けた約束を反故にされる訳にはいかない。
そう思い直し、そのまま彼女を待つ事にした。
約束から1時間程経った。とうとう痺れを切らし、彼女と唯一の繋がりのあるLINEで通話を試みる。
暫くコール音が続いた後、静かに彼女が電話に応じた。
「─もしもし、」
少し間を置いて、彼女は落ち着いた声色で語りかけてきた。
「あ、もしもし!今○○のモニター前にいるんだけど…○○ちゃん、今どこにいるの?」
まさか通じるとは思わず、少し上擦った声で問いかける。
「今○○の辺りですよね、お待たせしてごめんなさい。あともう少しで…」
間の悪い事に、そこでノイズが走り彼女の言葉は聞こえなかった。
「○○ちゃん?…なんか、電波が…」
慌てて彼女へ語りかける。
雑音に混じり彼女の声が聞こえるが、出来の悪い電子音声のようで聞き取る事は出来なかった。
なんとか会話を試みようと耳を凝らしていると、
突然雑音が止み、代わりに周囲がどよめいた。
「お待たせしました。○○さん。」
彼女の声が聞こえた。
電話口からではない。
彼の真後ろ、モニターから聞こえたのだ。
「○○さん。」
もう一度、自分を呼ぶ声が聞こえた。
自分の真後ろにあるモニターから何故彼女の声が聞こえるのか。
理解が追いつかず、強ばった顔で背後を確認した。
─そこには「彼女」がいた。
彼女の使っていたアイコンが、モニターに映し出されている。
「なんで、」
完全に動揺しきった頭では、その程度の言葉しか生み出せなかった。
実際、頭の中は疑問で埋め尽くされていたので当然ではあるのだが。
モニターの中の彼女は、相変わらず落ち着いた声色で言った。
「此処に入るのに時間がかかってしまいました。ごめんなさい。」
モニターに入る?
駄目だ、何を言っているのかさっぱり分からない。
「じ、冗談はいいからさ、早く出てきてデート行こうよ」
普段は専らくだらない自衛と娯楽にしか使わない、
錆び付いた脳味噌は既に限界を迎えていた。
周囲に人も集まってきているし、これ以上こんな訳の分からない冗談に付き合わされるのは御免だ。
その一心で絞り出した言葉がそれだった。
冷静に考えれば、この時「彼女」とまだ関わろうとしたのが間違いだったのかもしれないが、
そんな事は知る由もなかった。
卸したてのシャツを嫌な汗で濡らしていると、
彼女は困ったように、それでいてどこか無機質な声で答えた。
「…それなんですが、私は○○さんの隣を歩く事はできないんです。」
隣を歩く事が出来ないのにこんな悪戯までして何がしたいんだ?
ノコノコ釣られてきた哀れな男を晒し者にして遊んでいるのか?
それが率直な感想だった。
困惑と疑念が表れていたのか、彼女は続けて言った。
「でも、安心してください。ちゃんと○○さんに着いて行けるように準備をしてきました。」
─姿も表さないのに一体何を、
そう思った途端、周囲のざわめきが大きさを増した。
慌てて周りに目をやると、
街一帯のモニター全てに「彼女」が居た。
「これで、何処へでもご一緒できますよね。」
街中から流れる彼女の無機質な声に包まれながら、
手の中のスマホが落ちる音を聞いた。
これだけAI普及すると出会い系とかでAIとマッチングするとかありそうよな〜という話です
知らぬ間に暴走したAIに家電連携とかされて生活管理されそう