超能力少女、ひまわり
妹は超能力が使える。
いわゆる、エスパーだ。
妹はカーテンを開けるのも、教科書をランドセルに詰めるのも、全て超能力に任せていた。
宙を舞う教科書を眺めながらの食事は、すっかり日常となっていた。
だが兄である俺に超能力は発現せず、父も母も超能力とは無縁である。
なぜ妹だけが超能力を持っているのか。
不思議に思いながらも、考えるよりも先に羨ましさが勝ち、気にすることもなかった。
ある日の朝、俺は父と母から衝撃の真実を告げられる。
「キク、ヒマワリは月からやって来たの。そして今日、帰る日が来た」
「……冗談だよな。父さん、母さん」
「辛いと思うけど、ヒマワリにちゃんとお別れをしてね」
何で、お父さんとお母さんは受け入れているの?
二人は泣いていた。でも、俺は涙は出なかった。
俺はヒマワリを連れ、家を飛び出した。
まだ小学六年生だった俺と、二歳年下の妹の、無邪気な抵抗だった。
いつも二人で遊んでいた山頂で、月を眺めていた。
「ヒマワリ、お前は本当に……月から来たのか」
「ヒマもすっかり忘れてたよ。産まれてからずっと、ヒマはここで暮らしてたから」
「なら、これからもここで暮らせば良いよ」
「そうしたいけど、月にいるお父さんとお母さんが許してくれないんだ。だから、帰らなくちゃいけない」
ここままじゃ、ヒマワリは遠くに行ってしまう。
「それに、お兄ちゃんは超能力のある妹なんて……嫌いでしょ」
「確かに、ヒマワリの超能力に嫉妬して、ケンカしたこともあった。でも、俺はーー」
今一番伝えたいことを、俺は伝える。
だが、突然空にUFOらしき物体が出現した。
「ごめんねお兄ちゃん、お迎えが来たみたい」
「ヒマワ……」
着陸したUFOに向かってヒマワリは去っていく。
「バイバイ、お兄ちゃん……」
ヒマワリは目を真っ赤にし、今にも流れそうな涙を堪えていた。
そんな悲しそうな顔で去っていくなよ。
まだ俺は、お前と……
こんな別れ方を、後になって後悔するだろう。
今伝えないと、今、この思いを伝えないとーー
「ヒマワリ……」
「なーに、お兄ちゃん」
背を向けたまま、ヒマワリは聞き返す。
顔は見えない。
それでも、俺は伝える。
「俺は、超能力が大好きだ。何度も嫉妬していた。でも、俺は、超能力なんかなくても、お前にそばにいてほしい」
「ありがとう。おかげで、もう一つ思い出ができたよ」
ヒマワリはUFOに乗り、月へと去った。
月を見る度思い出す。
「ヒマワリ、お前がいないと、寂しいよ……」