かみさま
2017年2月14日に作成した短い話です。
神様が人を造ったと、御伽噺で誰もが聞いていた。それが本当のことで、何処か遠くの星からやってきた偉い、人のようでそうでないものが人間の形を決めたと知って、私達は途方に暮れてしまった。
いつも神様に祈っていた人々は、歓喜の余り、目から垂れた涙になって溶けてしまった。残された人々は、お互いを見て、鏡の中の自分を見て、それが今までと違うものに変身したことを知った。見た目から全く別物になってしまったのだ。それはヒトの顔をして、同じような体を持ち、同じように喋って笑って泣いて、走って眠って、縋るようにお互いの指の隙間を埋める。私の名前、家族の名前、恋人もあなたの名前も全部覚えている。それでも今まで知っていた、夢みたいな、それが当たり前のような世界は何処かへ行ってしまった。
神様は、神をも信じない人々すら等しく愛してくれるそうで、撫でたり抱きしめたりしながら、恐ろしい言葉で私達を叱責し、それが泣きわめくとあやして揺らして、手を振り上げ、叩き落として水を被せた。「神様」、顔を溶かしながら言った人が、いつの間にかまた一人、何処かへ遠のいていった。
私は頭上で溜まった洪水を見上げながら、空の海の向こうで光る神様を見た。ぼやけて歪んだそれが目に入ると、気が遠くなる程、焦れて焦がれて、足元が抜けて落ちるような気持ちになった。眩暈に愛おしくなる。目を窪ませ眩んでいる。神様に恋をするなんて、馬鹿なことを想ったからか、光は薄暗く、見えにくい姿に変わった。辺りはすぐに雨になった。