続き10
「何ぃ! わしを恐れてないだと? 」
<三本首>があたりを見回した。
確かに周りの人間は妖魔に対する恐怖と言うよりも、珍しいものを見たと言う雰囲気だった。
そして、俺を見て怯えている住人達を見て、心底腹立たしいような顔をした。
彼らにとって、人間の恐怖も畏怖も自らが力を振るう為に必要なものなのだ。
だから、<三本首>は激怒した。
「良かろう。わしがどれほど恐ろしいか思い知らせてやる」
<三本首>が黒い霧のようなものを吐いた。
それはあたりの様子を陰鬱たるものに変えていく。
そして、当たった住人の身体が爛れた。
爛れただけでなく、爛れた者は突然攻撃的になって他人を襲い始めた。
「ええと、貴方が煽って被害を拡大してどうするんですか? 」
<おやっさん>の野崎君が苦笑した。
「参ったな。相手の心を折ろうとしただけなのに……」
俺が茫然とした。
「あれ相当やばいですね。瘴気が出せると言う事は霊的存在だと言う事です。そして、それなのに皆が見えていると言うのは……」
<おやっさん>の野崎君が呟いた。
「霊的存在なのか? 」
俺が驚いた。
「ええ、我々は人形と言う媒体がありますが、あれは無しで皆に見えてます。はっきり言って我々より数段違いで強いですよ」
「何と言う事だ」
俺ががっくりと項垂れた。
だが、ここで落ち込んだままでは三鈴さんに会わせる顔が無い。
俺はヒーローにならないといけないのだ。
君を守るためにも。
俺が出刃包丁を握って腹を決めた。
「戦おう」
俺がそう言うと、<おやっさん>の野崎君はすでに消えていた。
恐れられていない事で逆切れして集落を破壊する三本頭。
助けるどころか、煽って破壊させてしまうとは。
<おやっさん>の野崎君も逃げて、俺はたった一人になってしまった。




