続き8
「包丁を持った市松人形がぁぁぁあぁぁぁ! 」
おっさんがいい年こいて大騒ぎする。
たかが、出刃包丁くらいで騒がれるとは……。
魚を捌けないおっさんなのだろうか?
「どうも、魚離れは半端じゃないようだな」
「ええ、確かに。出刃包丁なんて魚を捌くならすぐに気がつきそうなレベルなんですが」
「別に人間が魚を三枚におろすなら、人形だって出来るだろうに」
目の前で騒がれ過ぎて呆れて俺と<おやっさん>はため息をついた。
だが、さきほどの大地震で皆が寝て無かったらしくてドアを開けて出て聞くるものが居た。
「どうしたんだ? 」
「い、市松人形が歩いて包丁を構えてるっ! 」
「ひぃぃぃぃぃっ! 」
出て来た老人やおばさんも俺を見て悲鳴を上げた。
仕方あるまい。
「怪しいものではありません」
俺がキリッと市松人形のまま話しかけた。
「喋べったああああああああああ! 」
「ひいぃぃぃいいいぃぃぃ! 」
さらに騒ぎは凄くなった。
何という事だ。
どうも、市松人形をあまり見たことが無いのだろうか。
次々と覗きに来た人が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「いけませんね。騒ぎ過ぎです。やはり追って来たようですね」
冷静に山の方を<おやっさん>の野崎君が見て呟いた。
それは俺も凄く感じていた。
震えるような妖気が地響きを上げて向かって来ている。
「三本頭の蛇でしょうかね」
「参ったな。この包丁では勝てる相手じゃないし、そもそも皆がパニックになっているから、逃げるのを誘導するのも無理だ」
悲鳴を上げながら、騒ぎまくる住人を見て俺がため息をついた。




