続き6
俺達が闇夜の中を逃走している。
二人……いや、二体の市松人形とドジョウ掬いの人形とだ。
「<おやっさん>っ! この市松人形の力って何なんだろう? 」
俺が野崎君の<おやっさん>に聞いた。
勿論、彼はドジョウ掬いの人形に入っていた。
サイズは俺と同じ四十センチくらいの良くできた人形だ。
「パンチが凄いとか何か無いんですか? 」
「いや、だが、人形の魔物の中で凄いと言っていた。何か、何か必殺技でもあると戦いに良いのだが」
俺がそう野崎君の<おやっさん>に答えた。
「確かに、戦う上で必殺技は絶対に必要でしょう」
「だろう? そうでないと戦えない」
「この際、包丁とか、そういうものをこの先の集落からお借りして戦う準備をした方が良いのでは? 」
「いや、それは泥棒なのでは? 」
「普通に貸してくださいと言えば良いのでは? 何よりも今何の武器も無いと戦えないと思いますよ」
「なるほどな。流石<おやっさん>だ。頼りになる」
俺が野崎君の<おやっさん>に感動した。
「では、ここの家に入ってみましょう。あの大地震の後です。入れる場所があるはず」
「うむ。全く、武器が無いのはまずい」
そう言いながら、俺と野崎君の<おやっさん>は窓に近寄った。
だが、どの窓も鍵を閉めてあって入れない。
しかも、頑丈に作られているのか、屋敷は壊れていなかった。
震度7クラスだったはずなのに信じられない。
「仕方ないですね。こちらも緊急時ですし」
そう野崎君の<おやっさん>が石で窓を割って入り込んだ。
「これは犯罪では? 」
「何を言うんですか? 巨悪と戦うのに、ヒーローが手を汚さずに戦えると思ってるんですか? ヒーローは巨悪を葬る為に戦った結果壊れた街を破壊して賠償してますか? 」
「ううむ。説得力があるな」
そう言いながら、棚などから荷物が落ちまくっている屋敷を散策した。
俺と野崎君の<おやっさん>がその中を台所に向かうと包丁を扉の内側の包丁入れから手に取った。
その時に突然に懐中電灯でいきなり照らされた。
「泥棒? 」
四十くらいのおばさんが棒と懐中電灯を持って立っていた。
「ひぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ! 」
が、俺達を見た途端絶叫した。
「あ、夜分、すいません。悪と戦う為に武器が必要なのです。この包丁を貸していただけませんか? 」
「ぎぃぃぃぃいひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 」
俺が包丁を持ってトテトテと近寄ると四十近いおばさんが発狂したように騒ぐ。
「いや、返事がいただきたいのですが……」
俺がさらにトテトテと近づいて真摯に包丁を見せてお願いした。
おばさんは泣いていた。
泣きながら必死に頷いていた。
きっと、正義の為に武器を渡すのがうれしかったのだろう。




