続き48
「ふ、大丈夫ですか? 」
バンのドアががちゃりと開いて、どう見ても腕を斬り落とされた二人の男よりも重体になっている大神さんがそこに居た。
足がプラプラしている。
撥ねられた時に右足が折れたらしい。
「いや、こんな状態で良く斬ったな」
俺がため息をついた。
大神さんの顔も良く見るとひしゃげていた。
「ふふふふふふ、これが柳生十兵衛の凄さですよ。どんなに滅茶苦茶になっても柳生十兵衛になっている間は痛くないんです」
野崎君が大喜びで話す。
「いや、それ単なる自己暗示なんでは? 」
「何てことを言うんですかっ! そんな事を言ってたら、柳生十兵衛の霊が離れてしまう! 」
「離れたら痛くなったりダメージが出るなら、術者を守るために、そんなつまんない事で柳生十兵衛の霊が離れることは無いのでは? 」
「いや、それが柳生十兵衛さんは実は気まぐれさんなんです。変な事を言うと拗ねて居なくなっちゃうんですよ」
「そうなんです……ョ。柳生十兵衛さんに失礼だとは……思いませんか? 」
大神さんがハアハア言ってる。
「いやいや、痛いよね。ハアハア言ってるよね」
「これは柳生流の深呼吸です」
きっぱりとそれだけははっきりと大神さんが答えた。
「駄目じゃ無いですか! 十兵衛さんが! 十兵衛さんが居なくなっちゃう! 」
野崎君が叫ぶ。
腕を斬り落とされた二人は血まみれになりながら、紐で自分で止血していた。
俺を攫った男達は痛みで泣き叫んでいた。
「ふふふふ、凡俗どもめ。柳生十兵衛の恐ろしさ、思い知ったか」
震えながら大神さんがそう決め台詞のように答えた。
野崎君が感動の涙を流しながら拍手していた。
そして、そこを豆野さんの豆柴軍団が来た。
「はぅぅううぅぅぅぅぁあああああぁぁ! 」
豆柴に飛びつかれて、プラプラの足が完全に折れて大神さんが倒れた。
そして、豆柴軍団はバンの中に入ると、必死に血止めしている俺を攫った人たちに吠え掛かった。
「ち、血止めができねぇよ」
「何が邪魔してんのか知らねぇけど、血が無くなっちまうよ」
霊は見えないようだが、周りでバタバタしているのは分かる様で、俺を攫った人達が泣き叫んでいた。
俺はしょうがないので、そのまま座っていた。
まさに修羅場。




