続き26
「昔を振り返ったら駄目だ。そうでないと過去にとらわれてしまう」
野崎君が熱く語る。
「いや、それなら何でお前は浄化して無いんだ」
「この世の中に未練があるから」
大御門大地さんだった黒い靄の言葉にきっぱりと野崎君が答えた。
「いやいや、お前、おかしいだろ」
「いや、過去に未練はなくて、これからに未練があるんで……」
野崎君は折れなかった。
「ふはは、ではその未練を考えろ。お前にだって現状に対する不満があるはずだ。それを考えろ。この世は全て闇なのだ。さあ、思い出せ。お前の屈辱の歴史を……」
「……死んだときに遺族が俺の遺品をかたずけてて、貧乳とかそう言う性癖を知られてしまったときかな……。ロリコンって言われたよ」
あの野崎君が項垂れた。
「くっ、駄目だ! 野崎君っ! 悪い気持ちを考えたら、そのまま闇に……」
「いや、可愛がってた中学生の姪がロリコンだぁぁって蔑みの言葉を呟いてんの見て、ドキドキしたよ」
野崎君が頬を染めて喜んでいる。
「いや、君の性癖は良いから」
俺が眩暈がしてそう答える。
「くくくっ、俺達の時代は俺達の死すら呪術として使われて……この国の支配の為に我々敵対したものの死した身体を使って呪いとして使われて、それだけの事をして築き上げられたこの国の民がこんな変態だと! 我々の死をも呪術で使った結果の世界がこれだと? 」
「素晴らしいじゃ無いですか。我々は自由に羽根を伸ばせるのです。他人に迷惑をかけない限りは……どんな変態だってオッケー。こんな素晴らしい国はありませんよ」
野崎君と大御門大地さんだった黒い靄の話が嚙み合っていない。
これはいけない。
大御門大地さんだった黒い靄が渦を巻いて怒りと悲しみと苦しみを見せるかのようにさらにどす黒くなって言っているのに、野崎君は全然気にせずに自らの性癖をあからさまに嬉しそうに話をしている。
「こう、何と言うかですね。姪がね。吐き捨てるような目でロリコンの本を見ているんです。震えましたよ。何でいうんだろうか……ご褒美ですかね……」
ああ、変態だ……。
首吊りの上に変態だ……。
そうして、それ自体が大御門大地さんだった黒い靄をさらに悪化させている。
何のために、野崎君はここに来たのか分からなくなってしまった。