続き19
大神さんがケースをパカリと開けた。
何か呪符でも出てくるのかと思ったら、どでかいマグロ包丁が出て来た。
刃渡りは110センチくらいある。
ぱっと見た目は刀か長めのドスに見えた。
「……それ、マグロ包丁ですよね」
俺があまりの事に聞いた。
「そうですよ。よくご存じで」
「いやいや、銃刀法違反でしょ」
「何ですか? 呪術者同士の戦いにそんなもの関係ありませんよ」
「どこに呪術者同士の戦いがあるんですか? 」
「ふふふふ、私の得意技を教えてませんでしたね。私は実は自分に霊を憑依させれるんです」
大神さんが胸を張った。
凄く嬉しそうだ。
「……イタコですか? 」
「イタコって言うなぁぁぁ! 」
大神さんが叫ぶ。
「駄目ですよ。イタコだなんて言っては」
野崎君がそう俺に注意して来た。
「いや、イタコもまともなのあるし」
俺がそうフォローした。
「いやいや、私はね。口寄せとかするんじゃないんです。私のするのは霊と一体化して相手を倒すのですよ」
大神さんがそう自慢げに話した。
「ええええ? 」
俺が唖然とした。
「見ててください。私は今から柳生十兵衛と一体化します」
そう大神さんが言うと呪文とともに何かつぶやき始めた。
いや、柳生十兵衛って結構謎の人生なので小説とかの主役になってるのが多いだけで、実際に強いだろうけど、どれほど強いか微妙なのではと思った。
同じパターンで言うと宮本武蔵もそうだ。
吉岡一門とやり合ったと言うのは一説に過ぎず、吉岡当主と木剣でやって相打ち説もある。
「ふおおおおおぉぉぉおぉぉぉ! 今こそ私が三鈴さんへの愛を見せる時ぃぃぃぃ! 」
そう言うと大神さんがマグロ包丁を構えて目つきも雰囲気も武人のものに変わった。
そして二階のベランダから飛び降りて呪者に向かって走って上段で斬り込んだ。
「見てくださいっ! 柳生十兵衛対呪者ですよ! 大神さんの勝ちだぁぁぁ! 」
野崎君が叫んだが、大神さんは根本的な部分が間違ってる。
あまりの大神さんの迫力に言えなかったが……。
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ピーポーピーポーピーポー。
パトカーのサイレン音が凄い。
ガチャリ。
大神さんが警察官から手錠をかけられた。
警察に捕まったのだ。
罪状は傷害罪と銃刀法違反。
傷害罪で済んで良かった。
流石の呪者で、あの袈裟斬りで死ななかったのだから大したものだ。
俺は幸い、土御門家からの連絡もあり関りが無かったことになったが……。
「い、一体、何が起こってるんですか? 」
野崎君が俺に聞いてきた。
「いや、柳生十兵衛の霊を身体に降ろそうが降ろすまいが斬ってるのは大神さんだから」
俺が仕方なしで教えてあげた。
野崎君の瞳孔が驚きで開ききっていた。
野崎君は気が付いて無かったのか。
俺が虚空とお話ししてるので、まわりの警察官がドン引きしていたが、本当にひどい目に会った。
疲れた。