続き15
そうして、まんじりと夜を俺と大神さんと野崎君で過ごすかと思えば、野崎君の自分語りは延々と続いていた。
「首吊りって痛くないって言うけど、やっぱり紐が食い込むからタオルとか間に噛ませて、綺麗に頸動脈が閉まって気絶してから窒息するようにしないと俺みたいに苦しみますよ」
野崎君の首吊りあるあるが凄い。
「俺の場合、なんちゃってだったから準備が足りないせいですぱっといけませんでしたからね。ほら首に紐の跡がついちゃいました」
野崎君がそうやって、紐をずらして首の青ざめてうっ血した締まった跡を見せる。
さっきから、大神さんは黙ってるし、俺も話すこと無いし、延々と野崎君の話を聞いている。
「全部終わった後で彼女が俺が首吊った部屋の入り口に花束持ってきたんですよ。優しい子でしたね」
その優しい子に首吊りを見せて、別れるのを思い留めさせようとかどうだったのだろう。
「筋肉は死ぬと動かなくなるんで、ズボンはおしっこで濡れてしまいました。幸い飯を食べて無かったんでウンコは漏れなかったんですけど」
野崎君が照れくさそうだ。
「死んだ人から自分の死んだ時の話を聞く体験をするとは思わなかったな」
俺がそれとなく勘弁してくださいと言う気持ちで話したのだが……。
「そうですか、それは話してよかったですね」
野崎君は嬉しそうだ。
「何で、止めてくれないんですか? 」
俺が囁くように大神さんに聞いた。
「俺は百回以上同じ話を聞いたから。いつもの事だし」
大神さんは余裕だった。
何かがおかしい気がして仕方ないけど……。
「むっ? 」
野崎君が上を見た。
「どうしたんですか? 」
俺が緊迫したように聞いた。
「女子大生が帰って来たようですね」
野崎君がそう話す。
「いやいや、どうでも良いのでは? 」
俺が呆れて突っ込んだ。
「ほら、脇田さんが建物の陰に現れましたよ」
野崎君がそう指さした。
「いやいや、死んだんだから、もう下着とか良くないの? 」
「そこは彼の美学らしいです」
「美学なんだ」
俺が呆れてものが言えなかった。
「ぎょぇぇえええぇえぇえぇええぇえぇぇぇえ! 」
その時、四階から凄まじい叫び声がした。
その声はあの自動車三台に轢かれた後、四トントラックに轢かれたあの男のものだった。




