続き12
「いやいや、何なの君は? 」
「野崎進と言います」
首吊りした霊はそう自分を紹介した。
「いや、自己紹介は大事だけど、違うよね。何かおかしいでしょ。何でそんなに明るいの? 」
「いや、実はここで彼女と同棲してたんですよ。そしたら、彼女が別に好きな奴が出来たから別れてくれって言いだすから、そんな事するなら死んでやるって、そこの鴨居に紐ひっかけて首吊る真似をしたら椅子を落としちゃって……」
「ええええ? 」
「彼女も悲鳴を上げて逃げちゃったもんで死んじゃった」
野崎君がてへって感じで話す。
「いやいや、落ち込まないの? そんな馬鹿な事をしたわけだし」
「いや、俺、ポジティブなんで」
「ポジティブな人は首吊りの真似とかしないよね! 」
俺の声が荒くなる。
「いやいや、死んでみたらあの世があるんですよ」
「いや、ここはあの世じゃ無いでしょ」
「死んだって生きてるんだって思ったら俺は嬉しくなっちゃって」
「いや、その感想はおかしいよ」
俺の頭がおかしくなりそうだ。
「そういう訳で、私の式神としてここで奴を迎え撃つ手伝いをして貰おうと思ってるんです」
大神さんが訳の分かんない纏め方をした。
「いや、何処か変だとか思わないんですか? 」
俺が大神さんに突っ込んだ。
「いや、本人もちゃんと応援するって言ってるじゃ無いですか」
「いや、応援って何ができるんだい? 」
「俺、高校の時に応援団だったんですよ」
「いや、それは聞いて無いし」
「フレーフレーだけでなく三々七拍子とかちゃんと出来ますよ」
「戦うんじゃないの? 」
「応援ですから」
「意味が無いでしよ」
俺が野崎君と話をして大神さんに言う。
「いや、彼はね敷地内に何かが来たらすぐ察することができるし、これはこれで優秀なんですよ」
大神さんがそう笑った。
「あ? 」
野崎君が部屋の外の建物の隅を見た。
そこに血まみれの男が建物の陰から覗いている。
「なっ! 」
俺があまりの不気味さに驚いた。
「ああ、脇田さんですよ」
にっこりと野崎君が笑った。
「は? 」
「実は三階に女子大生が住んでて、そのベランダに干してた下着を取ろうとして落ちて亡くなった人です。死んだ後も何とか下着を取りたくてああして覗いてるんです」
「何なんだよっ! 変な奴しかいないじゃんっ! 」
俺が叫ぶ。
「だから言ったでしょ。ここは土地があまり良くないと」
そうドヤ顔で大神さんが笑った。
それは何か違うと思ったが。




