続き9
「とりあえず、逃げますよ」
そう中西君が軽自動車を発進させようとしたが動かなかった。
タイヤが空回りして異音を立てた。
「あれ? 」
「タイヤ交換をケチってたのか? 」
「本当だ? 」
「いや、中古の軽自動車だけどメンテはちゃんとやってるし、バリ山のタイヤを使ってるんだが」
「じゃあ、何で? 」
俺が中西君に突っ込んだ。
「いや、わかんない。前に何か透明な壁があるみたいで……」
「透明な壁? まさか、それは水木大先生がお会いしたと言う<ぬりかべ>では? 」
俺が衝撃を受けたように話した。
「何ですって? 」
「水木先生は南方で米兵から逃げる時にその壁に邪魔されて、結局、そちらにはいかずに寝たら、次の日の朝に起きるとそこから先は崖だったとか」
「おおおおおおおお、つまり、こちらから先には行ってはいけないと<ぬりかべ>さんが教えてくれてるとかっ! 」
俺の言葉に<おやっさん>の野崎君が感動した。
「いやいや、横を見ろっ! 横をっ! 」
中西君が絶叫した。
俺達が見ると、あの超巨大な牛鬼がこちらに向かって来ていた。
「「あああああああっ! 」」
「敵じゃ無いのか? 足止めされている感じだっ! 」
中西君がそう叫ぶ。
「馬鹿なっ! 水木大先生の人生最大の危機を救った<ぬりかべ>がそんな事をする筈が無い! 」
「その通りだぁぁぁ! 」
「現実を見ろやぁぁぁ! 」
ハフハフ言って向かってくる超巨大な牛鬼を見て中西君が絶叫した。




