“異世界病”にはご用心!
「何だそれ、『異世界病』?」
聞いたことの無い言葉に首を傾げる。
「そう、今流行ってるらしい。ほらこの記事」
友人が指差したところには、確かに大きな文字で
『突然の“異世界発言”にはご用心!』
と書いてあった。
普段あまりニュースを観ない俺も興味をそそられる。
「どれどれ……」
記事の内容は次のようなものであった。
最近、突然自分の身体をペタペタ撫で回し、周りを見回しては
「うわ、こ、これって……!マジか、やっべーな」
などと一人で興奮気味に騒ぎ、最後に必ず
「俺、異世界に来たらしい…」
と呟く人が増えているという。
これは感染病ではなく突然発症するもので原因は分かっていないらしく、これから専門家たちが研究を重ね、原因解明に努めるそうだ。
今確認されている限り、患者は全員“猿型獣人”なので“猿型獣人”の方々は注意をするように──
俺はまた首を傾げた。
「……“猿型獣人”なんていたっけ?」
「お前、本当にニュース見ねーよな。つい最近確認された新種の獣人だよ、話題になってただろ?」
「へえ、そんな事あったんだ」
「あったんだ、じゃねえよ知ってて当たり前だろ!
発見されたのは最近なのに、実はいっぱいいたって散々ニュースでやってたのに。じゃあお前、あれも知らないだろ。この間また魔法研究所が……」
話題が代わり、その後も長々と話続けた俺たちは
“異世界病”のことはすっかり忘れていた。
再び俺がその事を思い出したのは、突然奇妙な叫び声が上がった時だった。
「いやいやいやいや……!ここ、どこだよ……」
ぎょっとして声がした方を見ると、そこには一人の猿型獣人が困惑した顔でキョロキョロ周りを見回していた。
「え、何か耳とか尻尾とか見えちゃってるんですけど!?これってあれですかね、俗に言うあれだったりしますかね!?」
大丈夫か、この男。一人でここまでしゃべっているのを見るとさすがに怖くなる。
「ああぁ……。俺、マジで異世界に転生されたのかよ……」
この言葉で俺はようやく思い出した。
こいつ、“異世界病”だ。
「Tukamaero.sonosarugataninngennwo」
隣で何か呟く声が聞こえた瞬間、騒いでいた猿型獣人は眩しい光に包まれ、大人しくなった。
「そういえばお前、魔法使いだったな」
俺は邪魔にならないように離れながら言った。
「……ついでに戦闘属性だってことも思い出してくれると有り難い」
友人はため息をついてそう言うと、顔を引き締めて
仲間に連絡を取り始めた。
「こちら第一群No.23 ただいま一匹の猿型獣人捕獲。“異世界病”だと思われます。」
俺は仕事の邪魔にならないようにその場を離れた。
「魔法使いは大変だな……。しかも戦闘属性とか絶対無理だわ俺。ほんと、ただの犬型獣人でよかった」
これを読んでいる猿型獣人様
どうか異世界病にはご注意を!