第一話
「お主はのぅ、死んでしまったのじゃ」
「は……?」
目の前の老人が悲しげに目を伏せて、私に告げる。
「飲酒運転のトラックにはねられてのぅ、即死じゃった……」
「はぁ……?」
さっきから何の話だろう。
というか、この老人は誰?
それに今いる場所も見覚えがない。
「お主の疑問は、もっともじゃ。一つ一つちゃんと説明するでのぅ」
「…………。何故私の考えている事が……?」
この老人は人の心でも読めるのだろうか。
「まぁ、神じゃからのぅ」
「神……?」
私は疑いの目を向ける。
「……そんなに疑わんでも良いじゃろう。ワシは正真正銘本物の神じゃ。証拠にホレ」
老人から神々しいオーラが発せられた。
その瞬間私の本能が悟る。この老人は本当に神なのだ、と。
理性は"オーラが発せられたからといっても神とは言い切れない"と分かっているのだが、何故か私には確信があった。
「さて、分かってもらえたようじゃし、改めて自己紹介をしようかのぅ。……ワシは、創造神。お主のいた世界や他の世界、全ての世界を管理するものじゃ」
……………。
どうやらこの老人、結構な地位にいたようだ。
「結構な地位というか、ワシがトップじゃからのぅ。神々を創造し、世界を創造させ、管理させる――それがワシじゃ」
「…………何故そんな偉い方の前に私はいるのでしょうか?」
「ワシがお主の魂をこの神界に呼び寄せたからじゃよ。まぁ普通はそんな事せずに他の神が冥界に連れていくがのぅ、お主は特例じゃからな」
「特例、ですか?」
私が何かやらかしたのだろうか。それも神々のトップに呼び寄せられるレベルの。
全然そんな覚えは無いのだが…………。
「いや、お主が何かをやった訳ではない。ワシら神がお主の人生を狂わせてしまったのじゃ。お主の死も、その一つじゃ」
「………死?私は死んだのですか?」
さすがに驚く。とは言っても私の表情筋が動くことはほぼ無いため、表情には出ないが。
いきなり死んだと言われて受け入れられる人間がどれ程いようか。
「お主の寿命はまだまだあったのじゃがの、我々神々の一柱が悪に染まってのぅ……。お主の人生を狂わせ、殺してしまったのじゃ………。お主にも心当たりがあろう?」
「…………」
心当たりがあるか、そう問われれば、ある。
私の家族は妹ばかりを可愛がって私をいない者のように扱ったし、妹も私を蔑み、家庭内での孤立を加速させた。
クラスメイト達にはいじめられ、学校も守ってくれなかった。
これらの状況を打破しようと、成績は常にトップを維持したし、体育でも好成績を残した。
それでも、それでも、周りは認めてくれなかった。
きっと同じ事を他の人がしたら、周りは褒め称えただろう。
妹を可愛がるのは私に愛想がないから?
いじめられるのは人と関わるのが苦手だから?
何故、何故、と何度自分に問うた事か。
何をやってもダメ。ダメ。ダメ。ダメ。
だから、私は――――
「………!………」
ぽん、と頭に手が置かれそうになった。私は思わずパシンッとそれを振り払う。
創造神は一瞬驚いた表情を浮かべ、それから後悔と悲しみが混じったような表情になった。
「……本当にすまなかったのぅ………。謝っても許される事では無いのは分かっておる。下の責任は上の責任でもある、つまりワシの責任じゃ。それに長いこと気づくこともできなんだ。罪は、重い」
そして創造神は私に告げる。
「実はのぅ、お主には元の世界とは違う世界に転生してもらう事になったのじゃ。元の世界に生き返らせる事は出来んからのぅ。お主の人生を狂わせた者はワシが消滅させた。つまり、もういないのじゃ。じゃからな、別の世界で今度こそ人生を謳歌してもらいたいのじゃ」
「………それ、は……」
「………今は簡単に受け入れられんじゃろうが、いずれ転生して良かったと思えるようになる―――ワシはそう信じとるよ。あの子らならきっと………」
「あの子ら………?」
「何でもないのじゃ。それより、転生についての詳しい説明をしようかの」
"あの子ら"という気になるフレーズが出てきたので聞き返したがはぐらかされてしまった。
不満気な私をよそに創造神は説明を始める。
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