6
「じゃあ、私が魔法を上手く使えないのは・・・」
彼は頷いた。
「君のせいじゃない。操る力は平均並なのに、魔力が強すぎて、神光石を使ってやっと少しコントロールが効くくらいなんだろう」
良かった、とカレンは心から言った。
私の持つ力なんだから、結局は私のせいなのかもしれないけど。
なんというか、もっと根本的な所で私のせいじゃないと分かって安心した。
昔はつらかった。
魔法がうまく使えないせいでいじめられたこともあったから。
「でも、君は今、その石が無い。石が無くなったのは僕のせいでもあるけれど、その力がふとした瞬間、暴走したらコントロールできない君はどうなるか分かるかい?」
カレンは心臓が凍っていくような気がした。
暴走した魔力の勢いは恐ろしい。
暴走した魔力を他の人へ向けさせまいと当人は押さえ込もうとするのだが、その勢いに負けてほとんどの人は魔力を外へ逃がしてしまう。
仮に、押さえ込めたとしても、内側で魔力は勢いのまま、当人を食らいつくす。
触れられないはずの熱い炎が、体の内側を容赦なく焼き尽くそうとしているかのように。
操る力が魔力より圧倒的に弱いカレンは前者となるだろう。
炎は身近な人、つまり家族や友人を襲い始める。
カレンはその間、何を思うのだろうか。
「そんなの嫌!」
まるで、呪いではないか。
大切な人を自らの手で焼き滅ぼす、呪い。
怯えた目で、すがるように彼を見つめる。
「どうにもできないの?」
彼は自分を責めるような表情をしていた。
方法は無いのだろうか。
カレンが恐ろしい闇に飲まれそうになった直前。
「神光石は希少で手に入るかは分からないが、他に方法はある」
彼の言葉に、安堵した。
だが、なぜ彼は自分を責めるような表情をしたままなのだろう?
そんなに危ない方法なのか。
カレンは聞いた。
「ねえ、何か危ない方法なの?」
「いいや、魔法石の一種を使って、君と僕と銀龍の牙の魔力を循環させる方法だ。ぜんぜん危なくなんかないよ。それどころか安全だ」
「じゃあ、どうして…」
彼は答えなかった。
代わりに彼は言った。
「僕は旅をしてるんだ。それに、僕はもうここには入れないから、君も来てくれないと、他に方法が無い。それに、君にその魔力を安全に使える方法も教えてあげられる」
「でもそれって、家族と会えないってことだよね」
カレンはうつむいた。
「きっとあの神光石は、君の家族が大金を出して買ったんだろうね。一般階級がもう一度買うなんてできるか分からないくらいだ。そもそも大金を出しても、もう一度手に入るか分からないけど」
カレンはぎゅっ、と胸の上で拳を握った。
家族が今まで神光石の存在も、カレンが魔力が強いのも隠していたのは分かる。
万が一利用しようとする者に気づかれてしまえば、やっかいなことになるからだ。
貴族や王族は幼い頃から強力な魔力のコントロールと使い方を学ぶ。特権階級だから、それなりに自衛の手段もある。
だが、一般階級は違う。
強力な魔力を持つのはレアケースなので、普通の魔力のコントロールと使い方しか学べないし、自衛の手段もないから、利用されてしまいやすいのだ。
今まで守ってくれていた家族の存在を痛感した。
「こんどは、私が守りたい」
そう呟いたカレンをヴァリエは見つめた。
「行くわ」
「…分かった。出発は明日の朝にしよう。それまでに準備をしてきて」
カレンはうなずいた。
太陽が雪をキラキラと照らしていた。
溶けはじめた氷柱は、なんだか涙みたいだと思った。