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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第一章 神様と呪い】
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2



「だから」



再度、灰色のスクリューへ視線をやると睨みつけた。


「何でお父さんがコレをわざわざ私用に買ってきたのか、分からないし。・・・しかも灰色」


こんな色のスクリューじゃ、乗る気にもなれない。・・・ケインのセンスの無さが伺える。


地味な灰色。外とは大違いだ。


でもそのお祭りのせいで普通ならば私だけの特別な日なのに、毎年毎年神様に楽しみを取られてしまうのだ。今年は特に。



「あーあ、みんなお祭り楽しんでるのにな」



そこで、はっと気がついた。


別に誰かと一緒に行く必要なんてないのだ。


なんて単純なことに気づかなかったのだろう。


心なしか連れて行ってもらいたそうな灰色のスクリューを無視して、簡単な支度を済ませると暗い家を後にした。


すると、眩しすぎる光がカレンの目を襲った。


やっぱり、家の中から見るのとは全然違うようだ。


人の流れに一歩踏み出すと、さっそく、おっとごめんよと黄緑色のスクリューに乗った誰かがカレンの頭をかすめて行った。


思わず、頭に手がいった。


と、思えば左から来た女性とぶつかり、双方とも転倒した。


しかし地面とぶつかる音はカレンのみのものだった。


いたたと腰をさすりながら相手を見やる。


だが、そのあまりのことにきょとんとした。


女性は地面に触れることなく浮いたままで時間を戻すかのように起き上がっているのだ。


しばらくは女性もきょとんと地面を見つめていた。


気づくと前を歩いていたはずの男性が立ち止まっていて、指を女性に向けてひょいと動かしていた。


その動作で女性の足が地面に着くと、女性は魔法で自分を起き上がらせてくれたのが誰なのか分かったらしい。


男性に駆け寄ると一言「ありがとう」とささやいて、腕をからめて歩き出した。

どうやら二人はカップルだったらしい。


まるで、何事も無かったように歩き出した二人をむっと見やる。


カレンは私は手助けなんて必要ないとばかりに起き上がると、いらだちを隠せずに早足で再び歩き始めた。


人の激流を越えた瞬間、最後のとどめと誰かがカレンの足を転ばした。


あわや、というところで電灯に抱きつき難を逃れた。


お祭りはこれだから、と一人ため息をつく。


少し力が抜けたその時に、ふと右から香ばしい香り。


それに反応してカレンのお腹が鳴ってしまった。



「まだ、ご飯食べてないし・・・。だからしょうがないよ」



と誰にともなく言い訳しながら香りを辿り始めた。


香りを辿るとそこには揚げパンの山が現れた。


どうやら香ばしい香りの正体は揚げパンだったらしい。


揚げパンの山の向こう側には黙々と揚げパンを揚げ続ける店主の姿。


隣から少年が、一つちょうだいと揚げパンを買っていった。


すると反対側から派手な女性が、私ももらうわと買っていった。


行列こそ無いものの、なかなか人気らしい。


それともう一つ、この屋台の良いところ。


それは店主は揚げパンを揚げ続けているせいで手は空いていないはずなのにわずかな合間を縫って代金と揚げパンを交換していることだ。


そう、魔法を使っていないのだ。


これは良いところというかカレンの好みの問題だが、とにかくカレンは気に入った。



「揚げパンを一つ」



代金を渡すと揚げパンが手の中に収まる。


少し嬉しくなって、店主にお礼を言った。


すると、今まで無表情だった店主の口元がほころんで「あいよ」と返事が返ってきた。


微笑んで一礼すると、また店主は揚げパンを揚げ始めるのに戻った。



「さて、どこで食べようか」



立ったままよりも座ってゆっくり食べたいので、辺りを見回してみるとどこの場所もすでに先客がいた。


半分諦めかけた時、曲がり角が目に入る。


仕方なくそちらへと歩くと、そこは屋台の明かりのない暗い道だった。


だが周りに人はいないようだし、目を細めて見ると奥にイスくらいの大きさの白い石が並んでいた。


まるで座れと言うようだ。


こんなにちょうどいい場所だというのに、なぜだれも座らないのか首を傾げながら、そこへと座った。


さっそく揚げパンを食べ始めると、あっという間に無くなってしまった。



「ごちそうさまでした」



手を合わせてそう言うと、あとはもう何もすることがなくなってしまった。


もう一つ買えばよかったかな?と、つぶやいたのは足りないわけではなくこの空いた時間が虚しく思えただけだ。


ほんの少し離れただけだというのに立ち並ぶ屋台の明かりが妙に遠く思えた。

何だろう、この感じ。


あの大勢の人の中から離れられて寂しいような、すっきりしたような。


家の中から眺めた感じとはまた違う、守られてる感が無くて、だけど不思議と心地良いこの感じ。



「あの中にみんながいるんだよね」



そう声に出すと、ほんの少し寂しさが増したけど気にしない。


だけど、知らず知らずに右手が首から下がるモノを掴んでいる。


雫型のその白い石は蕾のがくのような銀色の部分で鎖からぶら下がっている。


その石の輝きには見る者に息を飲ませる不思議な威圧感がある。


しかし、よく見れば実に多彩な光が宿っていることが分かる。


ある時は夜空に輝く星のごとく繊細なひかりを。


ある時は湖を反射する光のようにさまざまな面から光を放ち、ある時は雲の間から降臨する天の梯子のように神々しい。


カレンはこの石のもつ輝きはまるで神様の光のようだと思うのだ。


神様を見たことがあるわけじゃないけれど、この石以上に美しい輝きは見たことが無いし、神様もこの石のように素敵なんだろうと思うから。


この石はカレンが生まれた時から共にある大切なものだ。


母のベリが、どうかこの子が安心して生きていけますようにと祈りを込めてくれたものらしい。


・・・だが、カレンは石の名を知らない。


この石は何という石なの?


何度、ベリにそう聞いたことか。しかしベリは決まっていつも誤魔化す。


大切な石なのに覚えてないわけないでしょ、と返してもベリの答えは決まっていた。


ベリが本当に申し訳なさそうなので、カレンは何も言えなくなってしまった。



「ああ、もう!私はこの石を眺めていたいだけなのに」



頭を振ってこのことを追い出した。



「そういえば」



顔を上げて屋台と花火で構成されたこの景色の方を向く。


この石ほどでなくともこれはこれでけっこう綺麗だ。


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