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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第四章 戦の神と暁の女神】
30/33

28


パチパチと焚き火のはぜる音だけが聞こえる静かな夜だ。

それなのに、カレンは目を覚ましてしまった。

やはり不安なせいだろうか。


(寝ないとなのに・・・)


ヴァリエの方をちらと見ると、壁にもたれて、寝ていた。

表情はかんばしくないようだが。


(よく寝れるな、あの体勢で・・・気を張っているんだろうけど)


ルオルもカレンの横で丸くなって寝ている。


(やっぱり寝れないな・・・)


風にでもあたってこようと、掛物をはおり、洞窟の入口まで向かった。

そのとき、砂利をふむ誰かの足音がした。


(まさか、クラルベの兵!?)


影に隠れて、その人の足元を見つめた。

ヒールのついたブーツに長いスカート。

どうやら女性のようだ。


(そうだよね、流石にクラルベの兵にはヘリオスの矛の場所は見つかってないよね・・・)


しかし、なんだかあのスカートには見覚えがあった。

緑の刺繍が入っていた。


(モリスさんも、夜風にあたりに来たのかな)


そうとすれば、声をかけようか。

そう思ったが、誰かと話をしているようだった。


「もう会えるのも最後だろうな」


「そうですね、明日にはもう何もかもが終わってしまいます」


「君だけでも、逃げるんだ。今ならまだ・・・」


「今逃げたとて、帰る場所なんてありません。私は貴族の立場を捨て、民を助ける薬師になったのですから。でも薬師になったころは、まさか婚約者の貴方と敵同士になるなんて思っていませんでした」


(敵・・・?)


改めてモリスと話す男の顔を見てみると、茶色の髪に目。片眼鏡の男。

あの男は確か、クラルベの傍らにいた・・・あの時私の魔法を防いだフィルという男だ。


(モリスは・・・フィルの婚約者だったの!?)


驚きに手が震えていると、洞窟の中から足音がした。


「モリス・・・どこにいるの?」


「ミカ・・・今は駄目よ・・・」


カレンは小声でミカの裾を掴む。


「カレン・・・? どうしたの」


「いいから」


敵とモリスが会っているところなんて見られたら大変だ。

だが、カレンの行動虚しく、ミカは男に気がついてしまったようだ。


「あの男は・・・!!」


ミカの表情が怒りに震える。

そのまま、2人の前に飛び出して行ってしまった。


「これは・・・ヘリオスの矛のリーダー殿・・・見られてしまったか」


「ミカ・・・これは・・・」


モリスは青ざめ、フィルは不敵に笑う。


「フィル!! 兄様の仇!! お前がどうしてここにいる!」


ミカは剣をフィルに向けて言った。

まさか、フィルがミカの兄アカツキを殺した魔術師だったのか。


「モリス、どうして敵と会っていた!」


「ミカ・・・お願い聞いて・・・フィルは私の元婚約者なの。私は元貴族・・・だけど今は」


「そう、今は私とは敵同士ですな。ご安心を。リーダー殿。モリスは内通していたわけではございません」


「話はモリスから聞く、貴様は今すぐここで消えろ!」


ミカが剣を振るう。

フィルはひらりとよけた。


「決着は暁の戦場でつけましょう、ミカ。兄が散った場所で妹の貴方も共に逝くのです」


「ふざけるな!!」


ミカは、また剣をフィルに向けてふるった。


「風よ、我の地に導くべし」


魔法が風となりフィルを包む。

ミカの剣筋が風に阻まれて跳ね返される。

風はそのままフィルの姿を消して止んだ。


「ちっ・・・移動魔法か・・・」


ミカは剣をそのままモリスに向けた。


「モリス・・・あいつの言ったことは本当なの」


モリスは青ざめながらも頷く。


「本当よ。私達は元婚約者。だけど、もう会うことはないわ。信じてミカ!裏切ったりなんてしてないわ」


「けれど、基地の場所が知られてしまったことは事実ね。貴方は明日共に行くには信頼が無くなったわ。同時に貴方は薬師としては最上級の腕前・・・」


ミカは剣をしまう。


「光の輪よ、かの者を縛る呪詛とならん」


ミカの魔法がモリスの首に巻き付き、光の首輪となる。


「もしまた疑うような事があれば貴方の命はない」


「それでいいわ・・・」


「なんの騒ぎだ・・・」


ヴァリエが目をこすりながら、洞窟の中から出てきた。


「敵に場所がバレた。予定より早いが出発する」


「まだ夜だが仕方ないか・・・」


いいや、とミカは言う。

同時に闇に包まれていた空に光が差し始める。


「もう夜明けだ」


ミカの後ろから光が差した。

光に包まれるミカはまるで暁の女神のように美しかった。



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