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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第一章 神様と呪い】
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1


がやがやとうるさい音達が向こう側で騒いでいる。色鮮やかな屋台が立ち並び、人々は思い思いに着飾る。


一夜限りの時間を精一杯楽しむのだ。このリシェールの町で。


そう、今宵はお祭り。


遠い昔、この地に住まう人々に幸せを約束した神々へと感謝の心を込めて、花火を空へ打ち上げ、歌と踊りを捧げる夜。


神々の中で、祝われぬ神が一人だけいた。


その神の名を、ルヴィー神という。




まだ、ヒトがそれほど多くはなかった時代のことだ・・・。


ルヴィー神はあるヒトの少女に恋をした。


彼はヒトの群れから少女を連れ出すと、彼女に言った。



「二人で一緒に、遠く果て無き見知らぬ場所へと行かないか」



少女はうなずいた。


しかし、彼女はヒトの群れの姫であった。


ヒト達は姫を連れて行かせまいと、愚かにもルヴィー神に戦いを挑んだのだった。


だが、たった一人の神といえども神の力の前には無力で、彼らは敗北した。


本来ならヒトを守る立場のはずのルヴィー神が、これほどまでの事を起こしてしまったのだ。


どうすればいいのかと悩んでいた神々も、ついにルヴィー神のこの罪を裁くために立ち上がった。


神々は罰を彼に与えた。


未来永劫、彼を大地の奥底へ縛り付けるという罰を。


だが、残された少女が神々へ悲痛な声でうったえた。



「私は、あの方がいなくては生きてはいけません。どうか年に一度でいいのです。あの方と会わせてください」



彼女の嘆き悲しむ姿に心打たれた神々は、彼女のうったえを承諾した。


よって、罰から「未来永劫」という文字が消えたのだった。


それから年に一度、神々には感謝を、ルヴィー神には愛しい者との再会が与えられるようになったのである。



「そう、その神話があのやかましいのの原因・・・」



恨めしげに窓の向こうを睨みつけるのは今日で十五になるカレン・ルチュワード。


本来ならば喜ばしい日となるはずなのだが、カレンの表情に笑顔は浮かんではいない。


なぜなら、祝ってくれるはずの家族はここにはいないから。


毎年のことながら、誕生日を邪魔するこのお祭りが憎らしい。


それでも、毎年何かしらパーティはしていたというのに、今年と来たらことごとく、皆予定があるらしい。


父のケインは歌と踊りを捧げるためのステージを組み立てる裏方。


母のべリは近所の奥さんが出すという苺タルトの屋台のお手伝い。


そして、妹のエレナは友達と祭りを楽しむために出かけている。


もう、今日は私の誕生日なのに、と不満を口にするとケインは友達とお祭りを楽しんでくればいいじゃないかと返して出かけて行った。



「その友達も、ダメだそうで」



ケインが出て行った扉へと皮肉に言った。


カレンには二人の親友と、一人の幼なじみがいる。


おとなしくて可愛いものが大好きなメリルと、勝気な性格のニーナ。


そして、レンだ。


メリルはなんと、初彼氏ができたとかで、先日いつも以上に小さな声で、顔を赤らめながらカレンとニーナに報告してきた。


今日まさに初デートの日で、ニーナとたっぷり冷やかし、もとい応援してあげたので邪魔はできない。


ではニーナと行くことになるのかな、とぼんやり考えてていたのだが、それもダメになるとは。


ニーナには、弟がいる。


その弟が熱を出したとかで、看病のお手伝いをしなくてはならないらしい。


あとはレン、ということも一瞬考えたのだが、それはダメだ。


15歳にもなれば、男の子は男の子の、女の子は女の子の付き合いがある。


付き合ってもいないレンと幼なじみとはいえ、二人で出かけるなんてハードルが高すぎる。


それに、レンのクールな性格もあって、ここ一年まともに話してはいない。


ご近所付き合いがあるから、一言、二言は話すかな程度。


昔は四人で、よく遊んだものだというのに。


ということで、誕生日だというのに、お祭りの日だというのに、家で途方にくれているワケであった。


ため息をついて、扉から目を離すと、長い楕円形の板が視界にはいった。


灰色のそれはカレン専用の「空飛ぶほうき」だ。


上に乗り、ちょいと魔力を加えれば宙に浮かび移動手段となる。


その名はスクリュー。


メリルはこの色違いの、可愛らしいレモン色のスクリューに乗って彼氏とデートに行ったのだろう、とふと思い出す。


窓の向こう側にも同じように色とりどりなスクリューを乗りまわす若者達。


夜空には上へ下へとなにか巨大な生き物の舞をみているかのような動きをする花火に、虹を咲かせるパフォーマー。


そう、ここは魔法の世界だ。


行列のできるクレープ屋のお客へとクレープが独りでにふわふわと浮遊しながら届くのもそのせいだし、花屋の看板娘のドレスが次々と変わっていくのもそのせいだ。


その光景はきらびやかで美しかったが、カレンが思うことはそれではない。


カレンの視線はきらびやかな光景を楽しむために向いてはおらず、魔法で起こる現象そのものへと向けられていた。


嫌悪の表情で。


カレンは魔法で生活を支えるこの世界には珍しく、魔法が嫌いなのだ。


正確にいうと「苦手」だ。


幼い頃から魔力をうまく操れないことがその原因にあたる。


カレンのような、一般階級でも生活に必要な最低限の魔法は使えるはずなのに。


貴族や王族ともなれば、洪水を止めたり、雨を降らしたりなんてこともできるらしい。


ごく稀に、一般階級でも強い魔力を持つものがいると聞くが、カレンは逆の意味で珍しいかもしれない。


魔力を操ろうとしては失敗し、その度に酷い目にあってきたので、そのうち魔法そのものが苦手になってしまったのだ。


気づいた頃には、カレンは必要最低限の魔法すらも使わないようになっていた。




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