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黄色の炎が、ヴァリエに覆い尽くそうとする。
このままでは・・・。
「やめてっ!」
カレンは、思わずヴァリエの前に飛び出した。
「カレン!?」
ヴァリエの声が聞こえる。
しかし、カレンは混乱していた。
「て、手が、熱い」
『流れ』が、カレンの手に集まっている。
カレンは流れに逆らえなかった。
黄緑色の巨大な炎がカレンの手から、クラルベへ飛んでいった。
なすすべもないクラルベに黄緑色の炎が襲いかかった。
…さすがにあれでは怪我だけでは済まない!
青ざめたカレンの目の前に何かが通った。
何…?
鼓膜が痛いほどの音が耳をつんざく。
ルオルが何かを叫んでいるが、ただ口がパクパクと動くのが分かるだけで何も聞こえない。
煙が過ぎさると、クラルベの前にフィルが立っていた。
フィルは、手から煙が出ている。
まさか、素手で防いだの!?
「フィル…」
クラルベがつぶやく。
フィルが汗をにじませて言った。
「危なかったですねぇ、もう少しでやられてましたよ?」
その言葉にカレンは凍りつく。
・・・私、もう少しで人を殺してたってこと?
茫然としていたクラルベは、徐々に表情が不敵な笑いに変わっていく。
「そうか・・・もう少しでやられてた、か。フフフ、ハハハハハハッ!」
カレンは驚いて、クラルベを凝視する。
なんで・・・殺されかけたのに?
そんなカレンをよそに、クラルベは前髪をかきあげる。
「フィルも手こずる魔力か・・・欲しいな」
クラルベはフィルに向き直る。
「フィル、あの魔力、循環してたようだが・・・どちらのだ?」
「確かに同じ色の魔力・・・ですが奔流の中心はやはりあの娘」
その言葉に、カレンの肩がびくっと動く。
「魔力の操作が未熟で、あの威力だ。空恐ろしいですよ」
フィルの一言に、クラルベがこちらを見る。
「娘よ!こちらに来る気は無いか!?ドレスでもなんでも好きなものを与えてやるぞ」
茫然としていたカレンは、その声で目が覚める。
「いやです」
「即、玉砕か」
クラルベは苦笑した。
「だが、わたしは君の魔力も、銀龍の牙も諦めるつもりはないっ!彼らを捕らえろ!」
すると、カレン達の回りにガチャガチャと金属の音をたてて兵士が近づいてくる。
「ヴァリエ・・・どうするの?」
横目で、ヴァリエを見る。
「こういう時は・・・」
「うん、うん」
「逃げる!」
「・・・ええっ!」
ヴァリエは、カレンの手を引き駆け出した。
途中で何かが、カレンの腕の中に放り込まれる。
思わず受け取ってしまったそれは、袋越しに硬貨の感触がした。
「それ、約束のお金!」
そう、手を振るのはヘレンだ。
「わたしからも礼を言う」
隣に立つユウスが微笑んだ。
二人の暖かな雰囲気はまさに『兄弟』であった。
カレンには二人は大丈夫だ、と思えた。
「ばいばいっ」
手を振り返すが、遠ざかるにつれ二人の姿も見えなくなった。
「まてーっ!」
追いかけてくる、クラルベ達の声が聞こえる。
カレンは、ヴァリエに会った時を思い出して、くすりと笑った。
「なにが、楽しいんだよ」
そんな言葉も前と同じでなんだか可笑しい。
「だって・・・」
「ああ、あれどうするの」
ルオルが、前を指す。
そこには、橋がかかっていた。
しかし、向こうからも兵がやって来た。
挟み撃ちだ。
「ここまでだ!」
橋にたどり着くと、いよいよ周りは敵だらけだ。
クラルベが腕組みをして笑う。
「諦めるんだな、少年と少女よ」
「ヴァリエだ」
「カレンよ」
二人の声がかぶる。
カレンは隣で、含まれていないことにほっとしているルオルを睨んだ。
「さあ、どうする?」
フィルが面白がるように言う。
それに答えるように、ヴァリエは不敵に笑った。
「・・・やっぱ」
ヴァリエが走って来て、カレンを抱きしめた。
・・・ええっ!な、なに?
混乱するカレンの体が宙に浮く。
気づけば、茫然とする彼らの顔が見えた。
「こうするしかないっしょ」
ヴァリエとカレンは飛んで・・・ではなく川に向かって落ち始めた。
ルオルのバカーッという叫び声が聞こえる。
「おいら、猫だぞ!水は無理に決まってるだろ!」
「悪いな、ルオル!」
しかし、言葉とは裏腹にヴァリエは笑っていた。
そんな中で、川に落ちる直前。
カレンは、森の中に黄緑色の目をした青年がこちらを見ていることに気づいた。
その青年は、ラディカルで迷ったカレンにヴァリエ達の居場所を教えてくれた青年だった。
なんで、彼が。
カレンはわずかな疑問に包まれながら冷たい流れの中に身を投じた。
*
「彼らは無事に、ミリアスへたどり着くでしょう」
黄緑色の目の青年は、静かな物言いでそう言った。
彼の後ろには、白い服を着た少女が笑っていた。
「そうね」
彼女は鈴の鳴るような声でそう言った。




