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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第三章 時に歪んだ町】
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「私は、ヘレンだけは幸せに、自由にさせてやると誓ったのだ。それに、いらぬ争いに巻き込まれないとも限らない」



ヘレンも時の神の血を引いている。

つまり、継承権を持っているのだ。

本人がどう思おうと、よからぬ思惑をもつ者たちに利用されないとも限らない。



「時の神の血をより濃く受け継いだ先祖返りの私が城主であれば十分だ」



「だから、弟さんを村に?」



ヴァリエは問いかけた。



「そうだ。だが・・・もう見つかってしまった。 そなた達が今日はただ剣技を披露してくれただけ、ということにしてくれるのならば一番だが」



「もちろん、城主様が望むのであれば私たちはそう致しましょう。ですが、弟さんはどうでしょうね?」



「に、兄さん」



ためらいがちにヘレンが呼ぶと、ユウスは顔を向けた。



「今まで僕は兄さんにずっと会いたいと思っていました。今日、その願いが叶って…だけど、僕は欲張りだから。これきり兄さんに会えなくなるなんていやです! 」



「だが、もう守ってやれなくなってしまう。お前だって、今までの暮らしはできなくなってしまうぞ」



「僕はアンナの傍にいるって約束したから、ここにいることはできない。 だけど、今まで兄さんが僕を守ってくれていたように、兄さんを助けるくらいはできるようになりたいんだ。自分のことだって自分で守れるようになりたい」



ユウスはふっ、と息を吐くと目を閉じた。



「今まで、目を閉じてヘレンのことを思い出すと、腕の中の小さくて暖かい赤子の姿だった。だが、今はもうあの時とは違うのだな」



ユウスがゆっくりと目を開く。

銀の睫毛が僅かに震え、薄紫色の瞳が開かれる。



「ヘレン、この場所に通うといい。利用しようとしてくる者に対抗できるだけの知識が必要だろう、時には守るための力も。 私が教えよう。 時の神が授けたラディカルの秘術も」



「ラディカルの秘術だと…?」



そう言ったのは、クラルベだ。



「ラディカルを支える秘められた技術を、そんな少年に教えるというのか! 」



「継承権をもつ者には必要だ」



「だが、その少年はラディカルの外にいる。他の者に伝わらないと言えないだろう」



「それに、ラディカルの秘術は、もう秘匿する気はないのだ。新しい時代に技術が広まれば、世界はもっと豊かになる」



「…私の領土だけにラディカルの秘術を渡すのでは無かったのか」



「そんな約束はしていない。君に秘術を渡す予定だったのは、新しい時代に広げていく為の一つにしか過ぎない。このラディカルも発展し、周りの生態系に影響が出ないようにすることもできた。いずれは鎖国も解くことができるだろうな」



クラルベが苛立ちを隠せずに、唇を噛む。

ラディカルの秘術を独占すれば、圧倒的に力を得ることができる。

だが、独占できなければ意味はないのだろう。



「フィル、やれ!」



クラルベの後ろに控えていた従者が手をかざす。



「闇の道を繋げし鎖よ。その門を開け!」



すると、空間に暗い円ができ、その中からたくさんの兵が金属の音をたてて進んでくる。


兵達の足音がまるで地鳴りのようだ。


ちら、と見えた暗い円の向こう側に、故郷に似た景色が見えたことから、転移術なんだと分かった。



「なんのつもりだ、クラルベ!」



ユウスが叫んだ。


クラルベが振り向いた。



「建前など意味は無くなったからだ。…少年」



ヴァリエを見つめて、クラルベはにやりと口で笑った。



「今日こそ、その『銀龍の牙』をいただくぞ!」



クラルベの従者…茶髪の男、フィルは眼鏡を上げると、指をはじき、黄色の炎を生み出した。



「お手柔らかにお願いしますよ?」



カレンの全身が震える。


…魔法。


しかも、フィルは高度の魔法を使えるようだ。


フィルの周りに陽炎のようにもやが見える。あれが黄色の炎に変わっているようだった。



「お前、まだ狙ってたのか」



ヴァリエは呆れた。


その時だ。


なんか、私の『流れ』が・・・?


いつもは感じないくらい緩やかに循環していた『流れ』、つまり、魔力が激しく流れ始めた。


ヴァリエを見ると、彼の手に持つ銀龍の牙が淡く光始めていた。


ーー戦うのね。


剣舞の時とは明らかに違うヴァリエに今更ながらに実感する。


フィルが、ヴァリエに向けて炎を放つ。


それをヴァリエは、剣で払って防御する。


カレンは、それを黙って見ているしかない。


ヴァリエが剣をフィルに向けてなぎ払った。


すると、それで生じた黄緑の波が、フィルに向かって襲いかかった。



「当たった!?」



「いや、まだだ・・・」



ヴァリエはカレンに返すと、きっ、と横を見た。


反対側も同じだ。


先程の攻撃に混じりフィルが砂煙を生み出すのが見えた。


居場所が突き止めれない。


ーーくそっ、どこだ。


ヴァリエは唇を噛んだ。



「ヴァリエ、あそこ!」



ルオルが指した場所には、確かに影が動いている。


ヴァリエがそこにいくと、影は瞬時に消えた。



「なっ・・・」



「わたしはこちらですよ!」



振り向いた時には遅かった。


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