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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第三章 時に歪んだ町】
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何の自覚なのか、とか考えてしまうのもなんだか恐ろしくなって、カレンは退散することにする。



「じゃ、じゃあ買ってくるから! みんなちょっと待っててね」



逃げるように、スイーツショップの前にくる。


やっぱり手書きの看板や、猫の置物がキュンとくる可愛さだ。


中に入ると、ピンクのシャンデリアが目を引く。


細かなところにもレースがあしらわれていて、女性らしい気遣いが行き届いていた。


ウィンドウを見ると、お花のモチーフのケーキだったり、可愛い動物のカップケーキだったりした。


どれも素敵だったが、アイシングでデコレーションされた、クッキーが一番可愛いと思った。



「猫のクッキーはなんだかルオルに似てるかも…、このクッキーマンは、ヘレン好きそう! ヴァリエは…」



白と青緑色でアイシングされた宝石の形のクッキーが目に入る。


なんだか、綺麗なデザインだ。



「これにしようかな…」



カレンはキャンディかお花で悩んだが、結局お花のクッキーにすることにした。


決まったことにほっとして、店の外に目を向けた・・・が、人混みのせいか皆の姿が見えない。



「う、うそ」



慌てて会計を済ませ外へ出た。



「どうしよ・・・」



周りを見渡し、途方にくれる。


やはり、辺りは人だらけで、ヴァリエの姿が見えない。



「さっきの彼なら、あっちに行ったよ」



驚いて振り向くと、黄緑の目をした少年が人並みの先を指差していた。


ヴァリエと同い年くらいの彼は、なんとなく、カレンの父ケインに似た落ち着いた雰囲気を持っていた。


そのことに少し驚きつつも、カレンは返した。



「ありがとう!」



カレンは駆け出しながら、手を振った。


彼が指差した場所は人ごみから少し離れた場所だった。


着いて見回すと、皆が道の隅にいるのが見えた。



「もー、待っててって言ったのに・・・」



カレンに気がつくとヴァリエがため息をついて、ルオルを見た。



「こいつが、いきなり駆け出して行ったんだ」



「違うよ、ヘレンがふらふらと歩いていっちゃうから捕まえたんだ!」



「ごめんなさい、凄いパフォーマンスをしてる人達がいたから気になって」



ヘレンが項垂れる。


その後ろに炎が見えて心臓が止まりそうになったが、よく見れば派手な格好をした男が吹いていたものだと気づく。


ヘレンが言っていたパフォーマーだと気がつくと、これから同じパフォーマーをしようとしているというのにどきどきした。


これじゃあまるで、サーカスを観に来た女の子のようだ。


だが、他にも手品師やナイフ投げがいた。



「ねえ、あそこにパフォーマーが集まってない?」



「そうだな、剣舞をするにはこの辺りがいいな。広場ならどこでもいいそうだから」



ヴァリエが指さしたのは広場の中心の噴水の脇だった。


周りには魔法を使うこの時代でも、巧みに観客を魅了するパフォーマーの姿がある。


あんな凄い人たちの周りでできるかしら・・・。


そんな不安が顔に出ていたのだろう、ヴァリエはカレンを安心させるように微笑んだ。



「大丈夫だよ、あんなに練習したじゃないか」



「そうね、頑張るわ」



そう告げたが、カレンの身は緊張に包まれていた。


準備をする為、魔法屋ギルドへ向かうことにする。


途中で、ヘレンが尋ねてくる。



「そう言えば、僕は何をすればいいの?」



「掛け声と、集金をやってくれればいいよ」



「分かった…じゃなくて、もうラディカルに入ったから、分かりました、だね。頑張って声を張りますね!」



ニコニコとヘレンが笑う。



「それと、パフォーマンスが終わったら君の依頼に入るよ。手はとりあえず考えてあるから」



ヘレンは笑みを正し、頷く。


兄を見つける。


ヘレンとカレン達は、その目的を果さなければ帰れないのだから。


準備が終わると、広場へと向かった。


ストライプと黒の非対称の衣装に、雫のペイントを頬にしてカレンは立っている。


「寄ってらっしゃい! 世にも美しい剣舞が始まるよ!」


ヘレンが声をあげ、横ではルオルが玉乗りをして観客を集めている。


カレンは立っている、と言ってもただ立っている訳ではない。


剣舞用の装飾された剣を手に、ヴァリエから教えてもらった構えで立っている。


・・・と言っても思いっきり初心者なんだけどね。


それに対し、ヴァリエは銀龍の牙、本物の剣を持つ本物の剣士だ。


ハンデがありすぎる・・・が、これは剣舞で観客を魅せることが目的だ。


本物の剣士がフォローしてくれるし、何よりただの剣舞ではない。


カレンの魔力から作られた、ボール大のシャボン玉のようなものが辺りに浮いている。


色とりどりなそれで剣舞を引き立て、万が一失敗したら上手い具合に操り、カバーするのだ。


カレンはこのシャボン玉を操るのに、額に汗を滲ませていた。


ヴァリエは旅の途中で、カレンに魔力をコントロールする、とはどういうことか教えてくれた。


ヴァリエの言葉を思い出す。



「そもそも、魔力とは単純に人体が作り出したエネルギーの事なんだ。魔力を使うということは、電球を光らせることに似ている。魔力コントロールが出来ている人というのは、電球に注ぎ込む魔力を調節することができるんだ。電球の限界を超えた魔力を注ぎ込めば、発火してしまう。魔力の平均な一般階級は、そもそも生産できる魔力が小さいから、電球は僅かにしか光らないけど。特権階級や僕達魔法屋は、生産される魔力を少なくしているんだ。カレンが覚えなくてはいけないのは、電球に魔力を注ぎ込みすぎないこと。魔力の生産を抑えることだ」



そこで、このシャボン玉だ、とヴァリエは言う。



「このシャボン玉は一定量以上の魔力が注がれると割れてしまう。沢山のシャボン玉に一定量の魔力を注げるようになることで、魔力生産のコントロールも出来る様になる」



このパフォーマンスは、カレンが魔法をきちんとコントロールできるかの初歩でもある。


万が一失敗しても、シャボン玉が割れるだけとは分かっているけど。


周りには沢山の観客がいる。


今までの失敗を考えると、こんな所で失敗なんて絶対できない。


それも、ヴァリエの作戦の一つなんだろうけど。


視界の端に玉乗りをしたルオルが、頑張れとしっぽを振っているのが分かる。


それは、緊張で振るえるカレンを癒してくれた。

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