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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第三章 時に歪んだ町】
22/33

20


ラディカルの目の前に着くと、カレンの目は大きな門とその橋に奪われた。



「でかっ・・・」


橋の前の門番が、早速尋ねてくる。



「ラディカルには何用か」



「僕達は魔法屋だ。中からパフォーマンスの依頼を受けている」


ヴァリエがNo.の刻まれた銀のプレートを見せる。


カレンもプレートを見せる。


No.が『00』なことに突っ込まれないかヒヤヒヤしたが、門番はナンバーの意味は分からないらしい。

名前と魔法屋の紋章が合っていることを確認すると頷いた。



「確かに、こちらにも知らせが来ている。剣舞をするそうだな」



門番はヴァリエの銀龍の牙をちら、と見ると、ルオルを抱っこするヘレンに目を向ける。



「その者は証を持っていないようだが」



カレンはドキリとした。


ヴァリエはどうするつもりなのだろうか。


ちら、とヴァリエの顔を伺うと爽やかに微笑んでいる。



「いやぁ、パフォーマンスに猫が必要なんですが、どうもその猫は従者にしか懐かないようでして…」



ルオルがヴァリエに向けて、シャーと威嚇する。


申し訳ないが、いつものケンカの様子を思い出すと演技には見えない。



「証を持っていない者は入れることはできない」



「パフォーマンスに必要な()()の持ち込みの許可はされているはずですが? それに、依頼をしたのはそちらでしょう。引き受けてわざわざ来たというのに引き換えせと?」



ヴァリエは肩を竦める。



「貴方はNo.の意味はご存知ないようだが、わたしは魔法屋ギルドではそれなりの立場なのですよ。魔法屋ギルドの信頼を無くす、という意味は、No.をご存知ない貴方でも分かるでしょう?」



門番が唇を噛む。


魔法屋ギルドの信頼を無くせば、依頼をしても魔法屋が来ることはない。


それは、生活に根付いた依頼だけでなく、万が一戦争になった際も手助けはされないということ。


強大な魔法の才能に恵まれた者は希少だ。


特権階級は、利害が一致しない限り動くことはない。


魔法屋は対価さえ支払えば、それなりの働きをする。


近頃の戦争では、強大な魔法を使える者がどれだけ味方にいるかで、勝敗を左右するといって過言ではない。



「…分かった。許可証をだそう」



「ありがとうございます」



ヴァリエは相変わらず爽やかな笑顔を貼り付けたままだ。


橋はあちらから下ろして貰って、ラディカルに行く形となる。


橋を渡りながら、ヴァリエは伸びをした。



「上手くいって良かったね」



「そうね…私、ヴァリエみたいに切り抜けられそうにないかも」



「大丈夫、ああいう役目は僕の方が得意だから」



でも、魔法屋になった以上はいつかは上手く立ち回らないといけないだろう。


門番の声に門が開かれ始める。


鎖国都市として有名なラディカルだ。


きっと入るのは最初で最後かもしれない。


門の隙間から明るい日差しが目を刺して思わず目をつぶる。


だが、ヴァリエは嬉しそうに言った。



「カレン、見てごらんよ」



その声に恐る恐る目を開いた。



「うわぁ・・・」



そこにはまるでラディカル自体が神殿のように思わせる、繊細で美しい彫刻の街があった。


一つ一つの家々はもちろん、誰も気づかなそうな小さな路地裏まで、レースのように美しい彫刻でできていた。


しかし、やはり都市は都市で最前線であろう、魔力で動く機械が街を走り抜けていた。


村とはまるで正反対の場所だ。



「すご・・・あっ、見てヴァリエ、あのスクリュー機械化してるわ」



ラディカルの小型の乗り物、スクリューは、カレンの故郷、リシェールで走るスクリューよりも遥かに優れていた。



「鎖国してる都市なのに・・・凄いわ」



「ラディカルには独自の技術があるらしいからな。他の都市よりも優れた魔道具を作れるのだろう」



「本当に凄いね!ラディカルってこんな風だったんだ」



ヘレンが目をキラキラさせる。



「田舎っ子だな、そこまで遠くないのに、ほんとに来たこと無かったんだな」



ルオルが鼻をふん、と鳴らす。



「無いよ。想像していたよりも、ずっと綺麗な場所だね。アンナが見たら驚くだろうなぁ」



少しバカにした様子のルオルに気づくことなく、ヘレンはきょろきょろと辺りを見回す。



「はぁ、観光に来たんじゃないんだぞ」



ヴァリエはため息をついた。


その時、カレンはピンク色の屋根の小さな可愛いお店ががあるのが見えた。



「ねえ、ヴァリエ。ちょっとあのお店ってなんだろうね? 」



「まったく、カレンまで…。多分スイーツショップか何かじゃないかな。気になるの?」



「うん…ちょっと行ってみたらだめ、かな? みんなの分も買ってくるし、小腹が空いたら丁度いいよ」



「まあ、少しくらいならいいよ。僕らは近くで待ってるから」



可愛いらしい雰囲気のお店に入るのは気が引けるのか、ヴァリエは着いてこようとはしなかった。



「ありがとう、ヴァリエ。すぐ戻って来るからね」



「おいらも行きたいー!」



「確かに、気になる…」



「お前らはダメだ。ロクなことしそうにないから」



ヘレンはため息をつき、ルオルはヴァリエを見上げる。



「え…ケチ。 ヴァリエって、カレンにだけなんか甘くないか? 」



ルオルの一言にドキリ、とする。



「そうかな…? そんなこと無いけど」



ヴァリエは顎を触わりながら、首を傾げた。



「無自覚か…やっかいなヤツ」



ルオルが目を細する

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