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その青年は屋敷の影に潜んでいた。
「まずったな…」
影から窓を除くと、先程まで、上客かと思っていた男が指示を飛ばすのが聞こえた。
自分を探すよう怒声を出したのは間違いない。
普段は一般階級の依頼ばかりだが、ときどき運がよく貴族の依頼を貰える時がある。
元々依頼料は高額な仕事だが、貴族の羽振りは言うまでもなく一般階級とは比べ物にならないほどよい。
だから、今回も運がよい依頼だと思ったのに。
あの男は失敗だ。
まさか、大事なこの剣を奪われるなんて。
取り戻した剣を確認するように触った。
銀の鱗のような鞘に包まれたその剣は、父親から引き継いだ大切な物だ。
特別な剣だが、魔力を増大する能力がある。
それにどこで知ったのやら、魔法に貪欲なあの男は目をつけたらしい。
逃げなくては。
窓に背を向け、星を見上げた。