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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第2章 星と海の猫】
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12


ドアの開く音でカレンは目を覚ました。



「あっ・・・起こしちゃったか」



入ってきたのは、なんとなく見覚えがある男性だ。


ここがどこなのかも分からない様子のカレンに彼は話し始めた。



「覚えてるかね?黒猫の体力を回復するために、君の魔力をたくさん使っちゃって君は倒れたんだよ。ヴァリエくんが言っていた」



ああ、そっか。


ではこの人はあの時のお医者さんだ。



「あの、あなたの名前は」



「ああ、私かね?私はロウンドだ。ロウンド・ハブフリッツ。君の名前は聞いてるよ。カレンさん」



「そうですか・・・あの、ここは」



カレンのいる部屋から、ここはあのホテルでは無いことが分かる。


部屋は木が中心に使われていて、まるで・・・小屋のような。



「ここは私の医療小屋だよ。君はあのまま、一日眠ったきりだったんだ」



「そんなに経ったんですね…すみません、お世話になってしまって」



「気にしなくていいよ。ま、それほど魔法は体力を使うってことさ。ほら、お食べ」



ロウンドが持ってきた食事を、カレンに差し出す。


湯気がのぼる、卵粥を口に含む。


お腹が減っていたことに気がつき、夢中で食べた。


食べ終わると、窓の外の銀世界が目に入る。



「あの、何かずっと寝てて体が固まってる気がするので、歩いてきてもいいですか?」



困ったようにロウンドは言った。



「・・・一日寝てた人を一人で行かせられないね。ついでにいい場所へ連れてってあげようか。この時間、とってもキレイなんだ」



「ええ、行きます」



ロウンドに案内され、小屋を抜ける。


外は朝日が木々を照らしてきらめいていた。


その木と木の間を歩いて数分の内にその場所へついた。



「きれい・・・」



木々の開けたその場所は、銀の柱が3つそびえていた。


まるで水晶のような形をしている。


朝日できらめくそれは、地面には雪が積もっているというのになぜかそれだけは雪が積もっていなかった。


そのせいか、その三本の柱は神秘的な美しさを持っていた。



「こんな場所があるんですね」



「そうだよ。ここが都市になる前から、人が住む前からずっと」



「え・・・」



人が誰もいないころからずっと・・・?

そんなことがあるのだろうか。



「昔話さ。・・・聞くかい?」



好奇心が疼き、思わず頷く。



「話すとするか。雪の神の話を」


その神が生まれた時、ユマニに初めて雪が降った。


いや、その場所にはユマニという名前すらもまだ無かった。


ただの森だった。


彼女にはまだ何もなかった。色も、名前も。


そこにある一人の神が彼女の生誕を祝うために舞い降りた。


三本の銀の柱を引き連れて。


白い雪が覆いつくす『無』を象徴する景色の中に銀の光が降りてくる光景は美しかった。


彼女は色の無かった瞳に涙を流した。

するとどうだろう。


銀の柱を見つめる彼女の瞳が柱と同じ銀色に染まり始めたではないか。



「・・・私は名前がまだ名前がございません。私に名を与えてはくださりませんか」



「では『聖なる』という意味の『セレナ』はどうだろうか」



彼女が生まれ、時が経った。


彼女は人の住む町を作った。


それが雪の都市ユマニのきっかけとなる。


だが・・・彼女には町を存続させることができなかった。


彼女の『無』という特性のために。


雪を降らす、『無』の神、セレナ。


彼女はユマニを滅ぼさないために、自ら永い眠りの道を選んだ。


そして・・・現在。


ユマニは彼女の眠りによって守られている。


静かに、雪はユマニを守り続けて・・・。



話し終えると、ロウンドは銀の柱に手を触れた。



「若い人達は迷信だと思うだろうが、私は信じているんだ。彼女の永い眠りという犠牲の上にユマニがあるんだと思うと、日々のありがたさがよく分かるよ」



切なそうにロウンドは微笑む。



「私、信じます」



彼は少し驚いてこちらを向いた。



「・・・気を使ってくれなくてもいいんだよ?」



カレンは静かに首を横に振る。



「だって、こんなに神秘的で美しいものを人が作れると思えなくて」


「・・・そうかもしれないね」



ロウンドは優しく包み込むような笑みで微笑んだ。


それに『家族』を感じて、カレンは言った。



「なんか、ロウンドさんって『理想のおじいちゃん』って感じです」



「こちらこそ、そんな風に言ってもらえて嬉しいよ。・・・さて、そろそろ戻ろうか」



「あの、もうちょっといてもいいですか?もう少し眺めてたくて」



「それは構わないけど・・・すぐ戻ってくるんだよ?」



ロウンドはカレンに背を向けると、元来た道を戻って行った。


その姿が見えなくなると、カレンは銀の柱を見上げた。



「本当にキレイね・・・。まるで初めて会った時のヴァリエみたいな雰囲気がある。ルヴィー神だと勘違いしたときの。・・・あれ?なんだろ、何か刻まれてる?」



近づいてみると、見知らぬ文字で何かが刻まれていた。



「古代文字か何かかな?腕輪の文字と同じだわ・・・この腕輪も同じような感じがするし」



そう、まるで神光石(ゴッド・ライト・ストーン)のような威圧感と美しさを持ち合わせているのだ。


神光石。


銀の柱。


銀の腕輪。


そして・・・あの時のヴァリエ。



「何か、関係あるのかしら」

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