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ネフリティスの軌跡  作者: 鳥兎子
【第2章 星と海の猫】
11/33

9



いつのまにか後ろにいたらしいヴァリエがユマニの建物達を指差した。



「・・・色の無い所ね」



「ユマニ自体も期待しないほうがいい」



「ヴァリエ、来たことあるの?」



「まあね」



ふうん、と建物に視線を戻す。


どうやらユマニはあまりいい所ではないようだ。



「ここからけっこう遠いかな」



「そんなでもないさ。歩けばすぐだよ」



その言葉通り、街中へは5分そこそこでたどり着いた。


離れていたため、見えなかったがやはり都市だけあってかなりの人がいた。


街中、人、人、人。


終わりなく歩き続ける人々はまるで先日のお祭りのようだった。


だが、その一人一人が何かしらの制服しか着ておらず、個性が感じられない。

ただ人々は義務で歩くだけ。


こんなに大勢の人がいるのに、足音しかしないのはなぜだろう。


眩暈がしそうだ。



「な、事実だろ?」



「・・・そうね」



「さて、まずは宿探しか。まあ都会だし、一応目星はついてるよ。あとそれから依頼探し始めようか」



「依頼があるわけではないのね」



カレンはため息をついた。



「ある時もあるけど、依頼を探して回る時もある。他の魔法屋が来てなければ大抵は見つかるさ」



「まあ、そうよね。だけど先に・・・」



ギュルルルルル。



言葉よりも先に言いたいことを表してしまったお腹の音にカレンの体温が上昇した。


そんなカレンに苦笑しながらも頷いた。



「そうだね、宿を探そうか。食事つきのね」



そう言うと、ふいにカレンの手をとる。


・・・え?


なんだかそこだけが妙に熱くなっていく気がする。


冬なのに手に汗かきそうだ。


そんなことになったら何か勘違いされそうだ。


手袋、してないのに。



「人ごみ、慣れてないだろ?転んだら大変だ」



カレンの心境など露知らず、ヴァリエは言った。


だが、思う内容が変わったことでカレンは落ち着きを取り戻した。


少し意外だ。


こんな風に心配してくれるのが。


ただ、ほうっておけないから一緒に旅をしてくれてるんだと思ってたのに。


そっか、元々優しい人なのだ。


ヴァリエは。



「転んだりされたら、君に買ったコートが泥まみれになるよ。高かったんだからさ。おちょこちょいそうだから」



その一言でそれは粉々に砕け散った。


・・・私じゃなくてコートのしんぱい!?


図星だったこともあって、カレンは怒りに任せて言った。



「そんなにコートが心配なら、私に高いコートを買わなきゃいいんだわ!」



「・・・何怒ってるの?」



首を傾げるヴァリエからカレンは目をそむけた。


何だかさっきまでの自分がバカみたい。


鈍感なヴァリエにこっそりため息をついた。


しばらく歩いていると、ほら、ここだと言うヴァリエの声がした。


上を見上げると、あまりの凄さに絶句した。


天高く伸びる、光り輝くビル。


建物の名を記す看板は金のプレート。


そこに流れるような書体で『ロイヤル・グランチェ』と刻まれている。


まさにセレブの高級ホテルだ。


これは『宿』ってレベルじゃない。



「こんな所に泊まれるの?」



すると、ヴァリエは微笑み、どこから出したのかカレンに金貨を見せた。


「金貨はあるよ?」


「ほんとに凄いのね・・・」


ますます絶句するしかないカレンの手を引いて、ヴァリエはホテル内へと入った。


ホテルに入ると温かい空気がカレンを包んだ。


内装は透き通るシャンデリア、高級革のソファーなど数え切れない高価な品ばかり。



「ようこそ、ロイヤル・グランチェへ。お二人様ですか?」



「三階は空いてる?二泊三日泊まりたいんだ」



「三階でしたら302号室、303号室となりますが、よろしいですか?」



「いいよ」



ヴァリエが鍵を受け取ると、カレンに片方を渡しながら言った。



「食堂があるみたい。食べにいこっか」



食堂の席に着くと、さっそく話し合いを始める。



「依頼って、いつもどうやって探しているの? 聞き込み?」



「そんな時もあるし、大きな都市だと、魔法屋のギルドがあったりする。お互いの仕事を取り合わないようにね。ここにもあるはずだから、とりあえずそこに向かおうか」



「というか、魔法屋ってなんとなくしか分からないんだけど、具体的にはどんな仕事なの?」



「魔法の何でも屋だけど、具体的には一般階級だと、畑の土を良くしたり、家の修理とか生活に関係する依頼が多いかな。特権階級は、領地内で手が足りない時に雇われたり、浮気調査やライバルの家の偵察なんてのもあったなぁ」



「ほんとに何でも屋って感じなのね」



「一般階級はともかく、特権階級だと浮気調査だけでも、気配を隠したりしないと行けないから魔法の能力が高いのは必須だね。同じ魔法を使う相手を誤魔化すわけだから」



「…私に出来るかしら」



なんだか、自信が無くなってきた。まず自分の魔力がどのくらいなのかも分からないし、コントロールや使い方もこれからなのに。

肩を落としたカレンにヴァリエは言う。



「初めから特権階級の依頼をさせたりしないよ。まずは一般階級の依頼を一緒にこなしたりしてからがいいんじゃないかな」



「それなら良かった」



食堂を出ると、早速ギルドへと向かう。


この雪の街はビルが多いからか、ギルドのビルとビルの間の向こうにあった。


少しジメジメした道を抜けると、『魔法屋ギルド』の扉があった。


ヴァリエは扉を躊躇なく開ける。


ギルドの中はなんというか予想外だった。


てっきり、狩猟ギルドのような、厳つい雰囲気なのかと思いきや、眼鏡をかけた女性が書類の整理をしていた。


ギルドというより、事務所のようだ。



「こんにちは。御依頼ですか? 依頼引き受けですか?」



「依頼引き受けで」



「了解しました。では、ナンバーをどうぞ」



ヴァリエが、鉄のプレートを見せる。



「B2ですね…申し訳ございません。最近あらかた依頼は引き受けが終わっているのです」



「B2でも? まいったな、新しい依頼を待つしかないか」



ヴァリエが落胆する。



「ねぇ、B2てどういうこと?」



「魔法屋のランクさ。依頼をこなす信頼度とか、魔力によって決まるんだ。A1が1番高くて、アルファベットと数字が後になるほど、ランクも下がる。アルファベットが魔力、数字が信頼度かな」



「じゃあB2って結構いい方よね」



「そのはずなんだけど、他の魔法屋が案外多かったみたいだね。今日はとりあえずカレンの登録からかな。ナンバーを貰わなきゃ」



「ナンバー…」



本格的に魔法屋になるんだと思うとドキドキする。

ヴァリエが受付に話を通すと、カレンは部屋に案内される。



「魔法屋見習いと言うことなので、仮ナンバーになります。始めに魔力測定を行います」



魔力の測定は、水晶玉で行う。魔力を込めると、中にカミナリのようなものがはしり、その色で魔力の強さが分かるらしい。

あくまでカレン個人の測定なので、魔力を循環させる腕輪は外す。



「あの、魔力を込めるやり方が分からないんですけど…」



「水晶玉に熱を込めるようなイメージで、手を触れてください」



カレンは頷くと、深呼吸してから、水晶玉に手を触れる。

しばらくは何も起こらなかった。

だが、だんだんと黄緑色の雷が現れていき…水晶玉の中は、黄緑色で満ち溢れた。

できた、とほっとした時。


ピキッ


そんな音がしたと思ったら、水晶玉に亀裂が走り、ふたつに割れていた。



「……」



カレンは血の気が引いた。

まずい、壊してしまった。



「ど、どうしよう…ヴァリエ…壊れちゃった」



「あはは…大丈夫大丈夫、こんな時もあるよ」



ヴァリエが言葉とは逆に表情が固まっている。



「ご、ごめんなさい…」



ギルドの女性はしばらく呆気に取られた後、気を取り直して記入を始める。



「ええと…黄緑色はAに近い色でしたが、水晶玉が壊れてしまったということは、コントロールが無いので魔力は数値化はできません」



え、とカレンは固まる。



「こんなことってあるの…?」



ヴァリエを見上げる。



「…僕の知っている限りじゃ、無いね。」



「前例はありませんね」



ギルドの女性も頷く。



「じゃあ、私ナンバー貰えないってこと?」



「一応色はAに近いものがありましたので、素質はあります。ナンバーは…一応お出ししますね」



しばらくすると、女性か持ってきた銀のプレートには、『00』の文字。


えと、アルファベットが魔力で信頼が数字だったけど…。



「魔法屋見習いは皆様、信頼は0からなので、1つ0が付くのは普通ですが、魔力は測れなかったので、それも0にさせて頂きました」



「ナンバー『00』ね…」



「全く適正のない方は、ナンバー自体が貰えないので…異例ですね」



「これは噂になるな…」



「なんだかショックだわ…」



「まあ、いい意味に取れば未知数でなわけだから、そう気落ちせずに」



ヴァリエにポンポン、と肩をはたかれたが、カレンはしばらく動けずにいた。


ヴァリエはもう少し用事があるとかで、ギルドに残ることになった。


カレンは先にホテルに戻ろうと、ギルドを出た。


疲労ばかりを引き連れて歩き始めた時、視界の端に何か黒いものが映った気がした。

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