2
数年ぶりに帰って来た王都はほとんど変わらない。
何度か戦があった様だが小競り合い程度、国に負担はそこまで無かった。
一度屋敷に帰り家族と久々の再会を喜んだ後、親父と共に教会へ行った。
祭壇の前で跪く様に言われ、神託を待つ。
『可愛い息子よ、長い間待たせたね』
「ああ、長かった。」
『君には私の手伝いをしてもらいたい』
「そうか。」
『長年、この世界の人間達は異世界から「勇者」を召喚してきた。絶望する異世界人を何度帰してきたか…国の利益のため利用し、使い潰す所業。関係ない異世界人を戦に狩りだし、無惨にも殺してきた。』
「確かに、聖書にも書かれているな。この国も何度か呼んだと。」
『それがここ数十年、異世界人の意識が変わってきているんだよ。戻った人間達が空想の物語として伝記を作り、それに憧れていた者達が来るようになった。
今までは召喚されても反発してきたのに、最近の異世界人は喜んで手を貸す。
終いには「自分は選ばれた勇者だ」と言って悪事を働く。
異世界転生者も前世の記憶を残したままで生まれるから影響が強いんだ。このままではこの世界が壊れてしまう。』
「ならば全ての異世界人を帰せば良いだろうが。前世の記憶も消してしまえ。」
『それがね、相手が望まないと帰すことが出来ないんだよ。記憶も、自覚して何か行動起こさない限り私はわからない。事が起きてから消すことになるんだ』
「以外と融通が利かないのだな」
『だから君には色々な力を能えた。君達の年代の子供をこの世界の権力者達に授け、一気に世代交代させて膿を出しきりたい。君にはそれぞれの次代の王同士に繋がりを持たせ、導き、この世界の調律を手伝って欲しい。』
「他国の権力者もか…」
『異世界人を召喚する事で綻びができ、異世界転生者が生まれる。召喚さえ行わなければ増えることもない。
意識改革せず召喚方法を消しても、新しい方法を見つけ同じ事をするだろう。だから君に手伝って欲しいんだ。頼めるかい?』
「いいだろう。俺は退屈していたからな。」
『ちなみに馬鹿な異世界人は殺しても構わない。権力に目がくらみいくら諭しても逆上してくる。君は私の大事な息子、君を殺そうとしてくるだろうから、躊躇なく殺ってしまえ。
君は権力に興味なく、腐った人間に騙されたりしないよう「価値観」を人とは違うくしてある。好きなように決断してくれ。私の計画のまま人生を歩ませてしまう、すまないね。』
「何が起こるか分からぬ冒険も楽しいが、先が分からぬ道を進むのも恐ろしいものだ。構わん、父よ、楽しんでその道歩ませてもらおう。」
『でもまずは子供らしく育って欲しいな。口調も…個性って事でいいのかな?学校に通ってみよっか』
「王立か?それなら子供達と繋がりが持てるぞ」
『そうだね、でも楽しんで学んでくれ。
それじゃもうお別れの時間だ。たまに教会に来てね、話がしたいから』
「ああ。ではな、父よ。」
神託も終わり、じい様と親父に内容を伝える。
苦い顔をする二人。理解したのだろう。
「神じゃから全て消してしまえばいいんじゃ…腐った人間に御慈悲など…そしたら引退できる。」
「結局隠居したいだけかよじじい!」
「それで?王立に行くのか?まだ入学まで二年あるぞい」
「二年後でいいだろ、同年代と一緒でなくては意味がない。だがその前に茶会に出よう。そろそろ子供達の社交場が始まる。」
「そうだな。息子よ、格好良い服を仕立てに行こう。第一印象は外見だ!」
「ワシも行きたいのぉ、仕事なんてやりとうない!」
一緒の馬車に乗って店に向かおうとしたが、「教皇!」と呼び止められ引きずられて行った。
店に着きサイズをはかり、家の紋章が入ったデザインの違う、コートとモーニングコート、シャツやズボンなどを三着ずつ頼んだ。
屋敷に帰り、これから行われる予定の茶会を調べる。
まずは二週間後、王家主宰で子供達の茶会を開く。そこから交流を深めるために、参加した子供達が茶会を開き、家に呼ぶのだ。
だか既に二つ、茶会が決まっている。両方公爵家で俺も招待されている。
これは面白い、行ってやろう。
礼儀作法を学び、マナーの講師からは会話以外問題ないと言われた。貴族は言葉遊びが好きだ。俺は好きじゃない、正直に言えば良いものを。
茶会の日、早朝から準備をする。
女装するわけじゃないのに全身綺麗に洗い、オイルを塗られ、香水までふられる。「坊っちゃん、本当素晴らしい姿ですわ、茶会に来るお嬢様方はメロメロ間違いなしです!」田舎の森での鍛練、そのおかげで子供らしからぬ体型をしている。
モーニングコートの着こなしも大人顔負けだ。
馬車で城へ向かう。
茶会があるのは城の中の庭で行われる。
着くと城の執事が会場へ案内してくれる。
華々しく集まる貴族の子供達。
テーブルと椅子があり、決められた席はないが、暗黙の了解で身分ごとに別れている。
庭は城の白き色に合わせるが如く色鮮やかな花を咲かせている。
執事が「伯爵家、ユージン・W・ハマー様」と名前を読み上げ、下がっていく。
顔見知りがいないから階級の区別がつきずらいが、大体の服の高級さで見る。
女性達の視線が刺さるが、なんだ、俺に喧嘩売ってるのか?
スタスタと歩き、目当てのテーブルへ行く。
「ここは空いているか?」菓子を持ったままこたらを凝視する男に聞くと「え?はい!」お前伯爵家じゃないのか?堂々としろ。
給仕が椅子を引き、座る。
「何を」「紅茶を」今日はお茶会だろう?なぜ聞く。
すぐ紅茶が出され、飲み始める。上手い。久々に飲んだ。
「やあ、ハマー殿。身体はもう大丈夫なのかい?」
態度は俺より偉そうだ。もしかしてこいつが王子か?
「これは殿下、気付かずに申し訳ない。ええ、田舎の澄んだ空気が体に合った様でして、長くかかりましたが無事医者要らずになりました。」
「おいおい、今日は身分なんて気にするな。それで、健康になって体を鍛えて…『運命』とやらは関係あるのかい?」
菓子食ってる奴をはさんで話しかけてくる。ん?なんでこいつ震えてるんだ?寒いのか?
「殿下、少々お待ちを。おい、体調が悪いのか?ここは日当たりも強い、熱射病かもしれん。休憩室へ運んでやろう。」
椅子から立ち上がり隣の男の肩を支えて案内された部屋に行く。
「すみません…助かりました。」震えた声で感謝される。
部屋に行き、冷やす物と冷たい水、少量の塩を頼む。
頭と首を冷やし、塩を少し入れた水を飲ませる。ゆっくり飲め。
「では俺は戻る。」
「あの!殿下には…お気をつけてください…あの方は玩具になる人間を見付けるのが好きなのです…」
「お前も玩具なのか?」
「いえ!先ほどそうなるのではないかと不安になり震えましたが、殿下は私には興味がないかと…」
「そうか…すまないな、体調が悪い訳でもないのに連れてきてしまった。戻ることも出来まい?今度茶会に呼ばせてもらおう。名は?」
「ナルクス・Y・カシユルです。」
後から聞いたが公爵の息子だった。俺より偉いではないか!