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鼻毛大王・リベンジ

作者: 首謀S・R!

伝説は繰り返す

「言ったであろう、私は思い出にはならないと」


どこぞ銀髪ロン毛剣士が言いそうな台詞を吐きながら

俺の鼻の中で高笑いを繰り返す声がする

鼻腔壁から養分を吸い取りながら、奴は帰ってきたのだ


しかも複数になってだ


「鼻毛大王!」

「そうだ。しかも今回は5本に増えての復活だ!恐れ入ったか!」

鼻の中から以前聞いた高笑いが5.1チャンネルのサラウンドでこだまする。

「竹みたいだな」

「誰がパンダの餌だ!」


パンダの餌は笹だ


「怒らせたなら謝るよ」

「前回の戦いより貴様は敵だ!今更許すと思うか?」


「その心意気やよし!そこまで言うなら許しなど求めぬ。ただ倒すのみ!」


そう言うと俺は「清剣:鼻毛スレイヤー」を充電台から抜いた

数多くの木っ端鼻毛との戦いで勝利を収め続けた曰く付きの逸品だ

魔力の代わりに電力を流すことによって、鼻毛スレイヤーは再起動

奴らを切断する戦いへの賛美歌を歌い始める


「そうはいくか!散れ!」


聖剣のパワーを知っているからなのか

鼻毛大王×5は一斉に鼻の中に逃げ込んだ


「当たらなければ聖剣も意味がない!」

「このまま魔力切れまで逃げ切ってやる」


「その前にお前ら全員切ってやる」


戦いの始まりだ

俺は鼻毛スレイヤーを右の鼻腔に突っ込んだ


「貴様!敗れたり!」

「なんだと!」

「貴様の武器が我らに届くことは決してない!」

「負け惜しみを言うな!覚悟!」


鼻毛スレイヤーの回転音が鼻腔世界を浸食する

だが、奴の欠片すら落ちてこない

鼻毛大王は決して短くはない

他の鼻毛より太く黒く頑丈だが実体はある

切断出来ないわけがないのだ


「なぜっ!なぜだ!なぜ、奴に攻撃が届かない!?」


狼狽する俺に向かって鼻毛大王はフハハハハハッと不敵に笑って言う


「我らは鼻毛大王!貴様の身体からいただいた養分で新たな力を手に入れていたのだ!」

「あらたな力、だと?なんだそれは!応えろ!」


「カールだ」


鼻毛大王はゆっくりと深い声で俺に言った


「カール、だと?」

「そうだ。我らは我が城である鼻腔壁を味方に付けたのだ。不用意な攻撃はそのまま貴様に跳ね返る。あきらめるがいい。根を残し今日まで耐え抜いた我々の勝利だ。」


奴は俺の鼻腔内にある壁に沿う形で攻撃を躱していたのだ。

迂闊に攻撃すればその刃は俺に鼻血を噴出させる危険性があった

奴は、奴らは進化しただけじゃない

地形効果まで取得していたのだ


俺は清剣を止めゆっくりと鼻腔から抜くと、充電台に戻した


「そうだ。おとなしくあきらめ、今後は我らが王国の繁栄を見守るがいい」


鼻毛大王の勝利宣言を皮切りに、分裂し対抗していた鼻毛たちが勝利を祝い始めた

彼らは勝利に酔いしれていることだろう


だが


「っふざけるなよ、鼻毛どもが!」


俺はそう言うと、鼻の中に指を2本突っ込んだ

手近な鼻毛大王の手下をつまんで引きずり出すと、手動型の「旧型スレイヤー」こと鼻毛用ハサミ(110円)で切断した

つままれた奴は断末魔の悲鳴を上げる暇もなく指の間で絶命し、ゴミ箱送りにされた。


勝利の歓喜で包まれていた鼻腔内が一転して悲鳴に包まれる


「やめろ貴様!鼻の穴が広がれば不細工に拍車がかかるぞ!」

「うるせぇ!貴様らのせいで、鼻がかゆいんだよ!そのせいで歩いている間じゅう変顔なんだよ!」

「何を言っている貴様。もともと変な顔ではないか!」


「…てめぇ…切る」


バーサーカーモードに入った俺は躊躇なく鼻に指を突っ込むと、奴らの仲間を引きずり出して次々と処刑した。

奥に逃げ込んだ奴は耳かきと綿棒で強制的に表に引きずり出して切断していく

覚悟と知恵を持てば捕らえられない相手ではない!


殺戮の宴を繰り返した果てに、俺は鼻毛大王を捕まえた


「なるほど、だがこの俺を倒しても必ずや次の鼻毛大王が生まれるだろう。我が生命力は…」

「その話はもう聞き飽きた」


俺は、鼻毛大王の最後の言葉を遮ると、奴を掴んでいた指に力を入れる


「貴様っ!まさか!?」

「悲劇は繰り返させない!全てここで終わらせるんだ!」


そのまま一気に鼻毛大王を引き抜いた

鼻毛大王が毛根ごと宙を舞う


「ぐがああああああああっ!」

「ぎゃあああああああああっ!」


直後、断末魔と悲鳴が部屋の中に響き渡った

俺は激痛で倒れそうになりながらもギリギリ踏みとどまる


負けるわけにはいかない!


戦いは激しいものとなり、その過程でついに血が流されることとなってしまった

だが、この戦いで傷ついた鼻腔壁の尊い犠牲は忘れない


「自らの痛みを越えて勝利を掴んだその覚悟、見事」


俺は床に落ちた鼻毛大王を指でつまんで拾い上げる


「もう二度と、生えてくるんじゃねぇぞ」

「さぁ、どうかな?」


鼻毛大王は不敵にそう言うと、そのまま動かなくなった

俺は鼻毛大王を、奴の仲間たちが先に眠る場所にそっと置いた


「俺の、勝ちでいいんだよな?」


奴からの回答はない


充電台の清剣鼻毛スレイヤーだけが、静かに勝利のモーター音を響かせていた



花粉症の季節がやってくる

鼻炎持ちの俺にとっては嫌な時期だ

鼻の中にかゆみが起こるたびに、奴との戦いを思い出すからだ


俺はかゆさから鼻をほじった


指先に知った感覚が触れた


「この野郎」


俺は家路を急いだ


「痛ぇのは嫌だからな、今度は切るだけで済ませてやるよ」


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