95.一つ追加です
その後は騎士団員達から嫌味と暴力を再び受けつつも、実に二日間の旅を終えたレウスはやっとの事でバランカ遺跡へと辿り着いた。
街道の景色はそこまで変わらないが、砂漠と言えば地面に砂が多く混じっているのが特徴である。
そんな中で水も食料も渡されずに放り出されるのだから、バスティアンにとって人の命はかなり軽いらしい。
だが、ここまでやって来るその道中で自らの身体の異変に気が付いたレウスは、バランカ遺跡で降ろされる時にそれを騎士団員達に訪ねてみる。
「ほら、さっさと降りろ! ここからはお前一人で行け。俺達はここで見張っているから、逃げようとしてもすぐに分かるからな」
「分かったよ。分かったけど、その前に一つ聞かせてくれないか?」
「何だよ、うっせーな」
「俺の身体……何だか力が入らないんだけど何かしたか? 俺が寝てる間とか食事の時とかにさ」
レウスの質問に対し、騎士団員達はニヤニヤと嫌らしい顔をしながら驚愕の事実を述べる。
「ああ、したよ。お前が食ってた残飯の中に、魔力を抑制する薬を仕込んでやったのさ」
「はっ!? おい、それってまさか……」
「ああ、セレイザ団長から渡されたのさ。食事にこれを混ぜて三日位はお前の魔術を使えない様にして、武術だけで乗り切らせてみせろってさ。いやあ、やっぱセレイザ団長の考える事は違うよなあ?」
「……あの騎士団長、何の目的でそんな事を……」
ベルフォルテの港町でウォレス達から投与された妙な薬の効果がやっとの事で切れたと思ったのに、ここに来てまさかの追加投与。
しかも、それがセレイザの考えだというのだから皇帝バスティアン以上にタチが悪いかも知れない。
だが、更に追加情報が他の騎士団員達から出て来た事で、実態はやはりあの男が原因だった様だと分かった。
「おいおい、確かに命令を出したのはセレイザ団長だけどさ……薬で魔力が抑えられてるからもっと投与したら面白い事になるんじゃないかって指示をしたのはバスティアン様だろ?」
「あ、そっかー、そうだったな、はっはは!!」
「バスティアン様に感謝しろよ! 武術の特訓には丁度良いだろ? ひゃはははは!」
ここまでやるなんて、あいつは絶対に人間として生きていてはいけないレベルの外道だと分かったレウスだが、今は魔術を封じられてしまった事でこの先の探索に影響が出て来るのを懸念しなければならない。
自分とのやり取りに集中している騎士団員達は、後ろに止めてある馬車の後方に設置されているトランクルームからサイカがこっそりと抜け出している事にも気が付かないまま、ガハハハと下品な笑い声を上げてレウスを馬鹿にする。
彼女はこれから遺跡の裏口に向かう様だが、内部で出会ってもこうして自分が魔力を封じられている時間が長くなってしまったのが分かった以上、協力し合えるだろうかと不安になるのは当たり前だった。
それでもここまで来たからには行くしか無い、と覚悟を決めつつロングソード二本を腰にぶら下げて右手に槍を構えたレウスは、砂塵の舞うバランカ遺跡への道を歩き出した。
◇
レウスがバランカ遺跡への道を歩み出した頃、クレイアンの城に軟禁状態で過ごしているアレット、レウス、ソランジュの三人は朝食を摂りつつ彼の無事を祈っていた。
「レウス、今頃どうしているのかしら?」
「分からない。けど……英雄アークトゥルスの生まれ変わりならそうそう簡単にくたばる様な男では無いだろう」
「私もそう思う。あいつは学院主席の私に勝った男だからな!!」
この狭苦しい、元々倉庫として使われていた場所が急遽三人の軟禁場所へと改造され、まるで荷物の様に押し込まれた三人。
その中でソランジュは、アレットとエルザからリーフォセリアの三人に関しての話を色々と聞かされた。
彼が五百年前のドラゴン討伐の英雄、アークトゥルスの生まれ変わりだという事から始まり、自分達が何故ここに居るのかという事、マウデル騎士学院が爆破されたのだという事、セバクターという卒業生がこの爆破事件に加担しているのでは無いかとの事、赤毛の二人組の行方も追っている事を改めて全て話して貰い、一応納得していた。
「なら、謁見の間で戦ったあのピンク色の髪の毛の男がセバクターっていうのか」
「ええ。でも何故彼がこの事件に加担しているのかが分からないままなの」
「それを探る為にこうしてやって来たのに、貴様には情けない姿を見せてしまったな」
当然武器も取り上げられている状態でエルザは溜め息を吐くが、それに呼応するかの様に部屋のドアがノックされた。
そして返答も待たずにガチャリとドアが開けられ、ピンク色の髪を持った騎士団長セレイザが姿を現わした。
「気分はいかがかな、ご客人達よ?」
「最悪なもんだ。お主達は一体何を考えているんだ?」
「まあ、貴様等が何を企んでいようとレウスは負けないだろうからな」
「そうよ。私達を敵に回した事を何時か後悔する時が来るわ!」
その三人の返答を聞いたセレイザは、フッと鼻で笑ってドアの外を振り向いた。
「その前に、この男にもバランカ遺跡に向かって貰う事にした。果たしてどうなるかな……?」
「……っ!?」
「な、何故お主が!?」
「貴方は……!」
セレイザに促されて部屋の中に入って来た、武装した人間の姿を見て彼女達は息を呑むしか無かったのである。




