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93.えっ、居たの?

 何時の間にか眠ってしまったレウスが目を覚ますと、自分だけが馬車の中に置き去りで外からは談笑する騎士団員達の声が聞こえて来ている。

 どうやらバランカ砂漠までは何日も掛かる様であり、自分の分の食事すらロクに出されない様であるとレウスは悟った。


(そこ等の野良犬の方が、これよりもまだマシな物を食べていそうな気がする……)


 どう見ても残飯です、としか言えないまずい食事を顔をしかめながら口の中に放り込むレウス。

 何とかして逃げられないか考えてみるが、馬車のドアには鍵が掛けられており、しかも自分の動きは逐一報告されているらしいので逃げてもすぐにバレてしまうだろう……とすぐに逃走を諦める。


(せめてこの国から出る前に、あの皇帝を一発でもぶん殴ってやらないと気が済まないな)


 しかし、レウスが心の中でそう決意した時、不意に馬車の後ろの方からニュッと「足」が出て来たのだ!


「え、あ、うおうおうおっ!?」

「ぷはぁ……あー、キツかった……ここって人間がギリギリ入れる広さじゃないのよ」

「あ、あれあれっ……君はもしかして!?」

「無事で良かったわ、レウス君」

「さ、サイカ!?」


 その足の持ち主は、馬車の中から荷物を取り込める様にしてあるトランクルームに身体を折り曲げて入り込んでいた、ソランジュの顔見知りで宿屋のスタッフをしているサイカ・エステル・エリクソンだった。

 彼女が借家として住んでいる家に騎士団が押し掛けて来て、彼女以外の自分達を拘束して引き離されてしまってからずっと音沙汰が無かったのだが、そんな彼女が何故ここに居るのだろうか?


「な、何でこんな場所に入っているんだよ?」

「そんなの決まっているじゃない。追い掛けて来たのよ」

「俺を追い掛けて来ただって?」

「そうそう。貴方やソランジュが騎士団員達に囲まれて連れて行かれちゃって、私は何とかその後を追い掛けて城の中に入ろうと思ったわ。だけど夜は特に警備が厳しくて全然ダメだったのよ」


 だからここの中に忍び込んだの、と当たり前の様な口調で言い放つサイカだが、レウスにとっては気が気で無い。


「危険だ……俺はこれからあの有名なバランカ遺跡に向かうんだぞ!」

「バランカ遺跡……って、もしかしてリーフォセリアとの国境にもなっている、あのサンドワームがウジャウジャ居るあそこ?」

「そのもしかしてだよ。俺はあそこの構造を大体知っているつもりだから平気だけど、君はここであいつ等に見つからない様に逃げて家に帰れ!!」

「何だあ、起きたのかあ?」


 今の押し問答が外に聞こえていたのだろう。

 外から騎士団員の一人の声と彼が歩いて来る音が聞こえて来る。


「やっべ、隠れろ隠れろ!」

「わ、ちょっ、ちょっと!!」


 サイカを強引にトランクルームに押し込み、レウスは仰向けの状態で頭をさする仕草をする。

 それとほぼ同時に馬車のドアの鍵が開けられた。


「った……落ちちまった……」

「何だよ、寝相が悪いだけじゃねえか。そのまま頭打って死んじまえば良かったのによお?」

「はっ……あ、あれ、ここは何処だ?」

「まだ街道の途中だ。てめえのせいで徹夜の任務だよ。ったく、メシはそこに置いてあるからさっさと食っちまえ。城の食堂から出た残飯だけどなっ!!」


 バァンッ、と力任せにドアが閉められたその衝撃で少し馬車が揺れる。

 しっかりとまた鍵を掛けられてしまい、再び閉じ込められたレウスはトランクルームに押し込んだサイカをちょっとだけ引っ張り出して、首から先だけこちらに出た状態で会話をして貰う。


「もう、乱暴にしないでよね!」

「悪い悪い。だが緊急事態だったから我慢してくれ。で……だ、さっきの話の続きだが……」

「私は帰らないわよ」

「ダメだ、危険だ!」

「危険なのは承知の上よ。遊びに行く訳じゃないのも分かるわ。どうせあの子供みたいにキレまくる皇帝に何かされたんでしょ? でも、もしかしたら皇帝達を出し抜けるかも知れない……」

「どういう事だ?」


 言っている意味が良く分からない。

 自分ならあのタチの悪い、皇帝に向いているとはとても思えないバスティアンを出し抜ける?

 そこまでの力がサイカにあるのかどうかを確かめようと思ったのだが、その前に彼女がとんでもない事を聞いてしまっていたらしい。


「貴方がイビキをかいて寝ちゃった後、魔晶石で通話魔術を受けた騎士団員達の会話があったのよ。この任務が終わって無事に皇帝の元に戻っても、勇者アークトゥルスの生まれ変わりである貴方は一生この国の役に立って貰うから解放しないって、騎士団長のセレイザと話していたわ」

「えっ?」

「しかもそれだけじゃなくて、ソランジュと貴方の付き添いの女の子二人は騎士団で性奴隷にして楽しんだ後、若い娘を欲しがっているこの国の貴族連中に高値で売り付けるって話もしていたわ。私、それをしっかりと聞いたから間違い無いわよ!」

「……それもこれも、全てはバスティアンの奴だろうな。あいつならそう言いかねないだろうし」


 あの皇帝なら極悪非道な命令の一つや二つ、何とも思っていないのだろう。

 そうなると自分はともかく、城で別れてしまった三人の身に危機が迫っている事となる。

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