表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/875

87.皇帝バスティアン

 まだ太陽も昇り切らない明け方に、このソルイール帝国の皇帝バスティアンが居住しているクレイアン城に連れて来られた四人は、そのまま騎士団員達に先導されて城の中にある大事な場所に辿り着いた。


「謁見の間……?」

「これってもしかして、待っている人間が居るって事?」

「そうだ。皇帝のバスティアン様がお待ちだ。くれぐれも無礼の無い様にするのだぞ」


 勝手にここまで自分達を連れて来ておいて何を言っているんだ、とレウス達のイライラは頂点に達しようとしていたが、中に通された一行が見たものは驚きの人物であった。


「……あ!?」

「えっ、ちょ……っと、何でここに居るのよ!?」

「おい、何故あんたがここに居るんだ? セバクター……」


 ピンク色の髪の毛を持っている、マウデル騎士学院の英雄的存在の若い男。

 そして、そのマウデル騎士学院の爆破事件の最重要容疑者として自分達が追い掛ける展開になった男……セバクター・ソディー・ジレイディールの姿が、何故か謁見の間にあったのだ!

 しかし、ここまで連れて来られた四人が目の前に現れても彼はさしてリアクションも何も無いのが不気味である。


「…………」

「おい、何とか言ったらどうなんだ?」

「そうだぞ。久々の再会じゃないか」

「おいお前達、その者達と話す前にまずは陛下にご挨拶をするのが、最低限の礼儀と言うものだろう?」


 聞き覚えの無い声が別の方向から飛んで来たので、今までセバクターに注視していたレウス、アレット、エルザの三人がそちらの方を向いてみる。

 そこにはセバクターと同じくピンク色の髪の毛を持っている、三十代前半から中盤と思わしき年齢の男の姿があった。

 同じピンク色の髪の毛を持っている男……と言うと、思い当たる事が一つだけ浮かんだアレットがこう尋ねてみた。


「えーっとすみません、セバクターさんのお父様ですか?」

「……何を言っているんだ。この男は傭兵の男として今ここに居るだけの存在だ。私はこのソルイール帝国の騎士団長セレイザ。……それよりも貴様等、目の前に陛下が座っていらっしゃるのに跪く事も出来ないのか、無礼者めが!!」


 セレイザと名乗った帝国騎士団長が手で指し示す方向を見ると、そこにはオレンジ色の豪華な椅子に座っている茶髪を短めに刈り込んだ若い男の姿があった。

 このまま跪かなければ斬られてしまう可能性もあるので、レウス達四人はしぶしぶと言った表情で彼の前に跪く。

 そして、その行動を待っていたかの様に茶髪の男……ソルイール帝国の皇帝が初めて口を開いた。


「てめえ等がリーフォセリアからやって来たっつー、マウデル騎士学院の生徒達とおまけか」

「お、おまけ……? 俺達のおまけですか?」

「ああ。騎士学院の制服姿でも無く、赤いコート姿でも無いそっちの女、てめえの事だよ。そっちの女が誰かは知ったこっちゃねえが、俺はてめえ等三人の噂を聞いて一度会ってみてえと思ってなぁ?」

「は、はあ」


 皇帝の威厳も何もかもが見当たらない、尊大と言うよりかは生意気なしゃべり方をするこの男こそ、ソルイール帝国の皇帝バスティアンその人だった。

 彼はなめ回す様な嫌らしい視線をレウス達一行に向けた後、自分で身分を明かす。


「まあ良いや、先に俺の身分を明かしてやるわ。俺から自己紹介してやるんだから感謝しろよな?」

「……」

「けっ、礼の一つも言えねえのかよ。あー……かったりーな。こんな事なら呼ぶんじゃなかったかなあ……?」

「か、感謝致します……陛下」

「はっ、最初から素直にそう言ってりゃ良いんだよ、バーカ。俺はこのソルイール帝国の皇帝、バスティアン・ニクラス・メルネスだ。じゃあ俺が名乗ったんだからてめえ等も名乗って貰うぜえ?」

(名乗りたくない……俺以外のみんなもそう思っているんだろうな)


 レウスの予想はまさに的中していた。

 他人をムカつかせるのが得意な口調をしているこの男なんかに名乗りたくは無いし、さっさとこの城……いや、このソルイール帝国から出て行きたいとばかり思ってしまうのは当然と言えば当然だろう。

 それでもここで名乗らなければ自分達がどうなるか分からない以上、レウス達に選択肢は無かった。


「……レウス・アーヴィンです」

「アレットです……」

「エルザです」

「ソランジュ……です」

「へっ、男以外はフルネームで名乗る事も出来ねえなんて、とことん噂通りの奴等とは思えねえな? イヤイヤやってるのが丸分かりで礼儀がなっちゃいねーし、最低限の常識も持っちゃいねえし、おい……こいつ等どうなってんだよ、セレイザよぉ?」

「……申し訳ございません、バスティアン陛下。後で私からはきつく言い聞かせておきますので」


 礼儀がなっていないのはお前の方だろうが、と喉元まで出掛かったレウス達はグッと堪えたのだが、我慢の限界も近い。

 何時かこっちがブチ切れるかも知れない展開に吐き気を覚え、虫唾が走る。

 だが、それも次のバスティアンの一言で一気に吹っ飛んでしまった。


「で? 五百年以上前にあのドラゴンを倒したって話は本当なのかよ? 俺にまでレウスなんて偽名を使いやがって……勇者アークトゥルスよぉ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気に召しましたら、ブックマークや評価等をぜひよろしくお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ