表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

875/875

872(エピローグ).繋がる世界と今の仲間達

「……えっ!?」

「ぐ……ぬぬぬっ、槍から手を離しちゃだめよレウス!!」

「そうだぞ、踏ん張れレウス!!」


 槍の刃の付け根部分を二人掛かりで掴んでいたのは、地面から地下に向かって身を乗り出していたアレットとエルザだった。

 更にその二人の後ろには、彼女達の足を掴んでいるソランジュ、サイカ、ティーナ、ドリス、そしてアンフェレイアの姿もあったのだ。

 この内ソランジュから後ろの姿はレウスには見えていなかったが、たった三人だけでこんなに強い吸引力に対抗出来る訳が無い。

 となればこのソランジュから後ろにもきっと誰かが居るのだろうと思いつつ、少しずつ上に引き上げられるレウス。

 だが、それと同時にもう一つ気付いた事があった。


(あれ……下からの吸引力が弱くなって行く?)


 下から引っ張られるその力が徐々に弱くなって行くのを感じるレウスは、何故かと思いつつ下に目を向けてみる。

 するとそこには、既にゴゴゴ……と音を立てながらゆっくりと閉まって行く扉の姿があった。

 もしかしてこの扉は一定の時間が経つか、魔力が無くなったら自動で閉まる仕組みになっているのか? と考えたものの現実はどうやら違う様だった。

 それが認識出来た理由は、未だに少し続いている吸引に耐えながら取っ手を下に押し下げて扉を閉めているアニータの姿があったからだった。


「あ、アニータ!?」

「ふう……何とか間に合ったわね」


 レウスまで一緒に吸い込まれてしまう前に、何とか扉を閉める事に成功したアニータ。

 彼女がここに居たのはエンヴィルークからの指示であり、誰か一人がレウスのアシストとして地下に向かって取っ手を下げるのを手伝ってくれと言われたパーティーメンバー達の中から、小柄で素早い動きが得意なアニータがその役を買って出たのであった。

 結局、復活したエヴィル・ワンとその復活させた張本人であるディルクの一匹と一人は纏めて仲良く、扉の向こうにあると言う異空間に吸い込まれて行ったのであった。


「これで……全てが終わったんだな」

「そうね。だけどこれから先が長いわよ」

「ああ。今回の一連の流れで被害を受けた所は沢山ある。それからまだ世界各地にディルクを始めとするカシュラーゼの息が掛かっている連中や、それこそカシュラーゼの残党も居るからな。俺達はそいつ等も全て含めて、これから先の事を考えて行かなきゃな」


 そう、まだまだこれからなのだ。

 自分達の戦いはまだ始まったばかりなのだと。そしてこの訪れた平和を維持する為に必要な努力を絶やす事無く、長く続けて行かなければならないのだと認識したレウス達は、改めてこの世界を良くする為の行動に乗り出すのであった。



 ◇



 それから、半年の月日が流れた。

 ティーナとドリスのヒルトン姉妹は地元であるアイクアル王国の中で、ワイバーンの牧場を経営する傍らでドラゴンも一緒に飼育する事業を始めた。

 今回の件で、カシュラーゼがドラゴンの死骸を兵器として利用している事にいたたまれなくなったので、騎士団長であるフェイハンと女王のオルエッタのバックアップも受けた上でドラゴンも人間や獣人と共存出来る道を模索し始める第一歩となった。


 ソランジュとサイカは、自分達がレウスと出会ったソルイール帝国を治め始めていた。

 はたから見れば突拍子も無い話だが、あんな暴君とその臣下達が仕切っていた帝国は放っておけばいずれまた世界中に迷惑を掛ける事態を引き起こしかねない、と判断した結果だった。

 ただし彼女達だけでは当然国を治めるノウハウも何も無いので、しばらくはエンヴィルークとアンフェレイア、それからイーディクトのシャロット皇帝の力も借りて手探りの運営となるのだが、きっと上手くやってみせると意気込んだ。

 現在はソランジュが皇帝の座に就き、騎士団長としてサイカが新生帝国騎士団を纏め始めている。


 カシュラーゼでは女王であるレアナが大改革を実施。

 南の隣国で武力面で世界一の実力と規模を持っているエスヴァリークに協力を仰ぎ、今までのディルク達の息が掛かっていた者を全て国外に永久追放し、地下世界の実態も調査。

 世界に先駆けて先進的な魔術を研究するスタンスこそ変わらないものの、その魔術を世界中の人々の役に立たせるべく日々魔術の研究に没頭していた。

 そんなレアナの姿勢に共感した魔術師達が、現在では世界中からカシュラーゼに集まって研究に明け暮れている。


 エスヴァリークの隣国ヴァーンイレスではサィードとイレインの手によって着々と復興が進んでいた。

 カシュラーゼによる砲撃被害を受けたシルヴェン王国とルルトゼルの村とはその境遇から奇妙な連帯感が生まれ、お互いに復興に必要な物資や情報を交換し合いながら親交を深めていた。

 そしてこの三つの国と地域は、貿易面でも強固な関係を築き上げて行く。

 更に西のエレデラムとルリスウェンと言う二つの公国とも手を組んで、それぞれのトップが連絡を取り合いゼフィードを始めとする工学関係の研究も進めている。

 魔術はレアナが率いるカシュラーゼに任せる事にして、工学技術での発展をお互いに約束したこの地域の人物達はその後、生活に役立つ画期的な工業製品の数々を生み出す事になった。


 アレットとエルザは再びマウデル騎士学院に戻り、エルザは無事に学院を卒業。アレットは三年生に進級した。

 その後エルザはリーフォセリア王国騎士団に入団し、現在では騎士団員として団長のギルベルトとともに国王のドゥドゥカスを守る立場になっている。

 アレットは卒業に向けて勉強に励み、将来はカシュラーゼに留学して更なる魔術の研究をしたいと考えてつつ、学院長の部屋へと向かっていた。


「さて……この書類を届ける様にって学院長から言われているから急がなくちゃ」


 前の学院長であったエドガーが学院を裏切り、国を裏切り、そして最後はカシュラーゼに倒れた。

 だとしたらマウデル騎士学院には新しい学院長が必要になる。

 その新しい学院長が待つ執務室のドアを、コンコンとノックして返答を待つアレット。


「三年のアレットです。学院長、いらっしゃいますか?」

「開いているよ。入れ」

「失礼します、レウス学院長」


 この新しい学院長の、一般人として暮らしたい願望はとりあえず叶えられたと言えるのだろう。

 何故なら、彼はもう戦う事は無い。

 これからはこのマウデル騎士学院の新たな学院長として、これから先の時代の平和を担って行く騎士団員の若鷲達を育成する立場になったのだから。



 仲間に殺されてパーティーから追放されたのを知らないまま転生した五百年前の最強の勇者は、現世では一般人として暮らしたいのですが、周りがそうさせてくれないんです。 完

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気に召しましたら、ブックマークや評価等をぜひよろしくお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 終わっちゃった〜〜〜! 完結、お疲れさまでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ