871.最後の悪あがき
「うわ……くっ!?」
「良し、離脱だ離脱!!」
徐々にあの地下の扉がある広場に繋がる穴へ吸い込まれて行くディルクとエヴィル・ワンだが、悪あがきは終わらない。
何とかエヴィル・ワンがきりもみ回転しながら抵抗するものの、それでもレウスとアンフェレイアの魔力を注ぎ込んでいる吸引力は凄まじく、ズルズルと少しずつ引き込まれて行く。
それを振り返って見ていたレウス達も、何とかギリギリ吸引範囲から逃れて後はその結末を見守るだけだと思った……のだが。
「だったら君達も道連れだよ!!」
「うっおおおっ!?」
『あいたたたったたった!?』
渾身の力を振り絞って、まだギリギリ届く範囲にあったアンフェレイアの尻尾にエヴィル・ワンが噛み付いたのだ!
神である自分に噛み付こうなんて、それこそ自分が神になってから言えと心の中で思いながらアンフェレイアは必死に尻尾を振り回す。
それでもエヴィル・ワンが離れないので、今度は身体を思いっ切り右に左に振り回して何とか振りほどく事に成功したのだが、それは背中に乗っているレウスの事を考えられない位の激しい動きでもあった。
「あっ、ああああああああっ!?」
「ふんっ、これで君も道連れさ!!」
自分の方に吸い寄せられて来るレウスの姿を視界に捉え、ディルクはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。
だが、このドラゴンと魔術師と一緒に吸い込まれるなんて絶対にごめんだと考えたレウスは、まずはどんどん大きくなって来るエヴィル・ワンがきりもみ回転をしながらも、必死に吸い込みから逃れようとしているその腹目掛けて空中で槍を構える。
そして魔力を注ぎ込んだ槍を全力で突き刺しつつ、大声で叫ぶ。
「爆ぜろ、ハイパーエクスプロージョンッッッ!!」
この旅に出る前に、森の主であるギローヴァス相手に繰り出した槍の必殺技がここで再び炸裂した。
魔力を槍の先端から解き放ちつつ腹部を中心に大爆発を起こし、それによって相手を一気に無力化する技。
流石にエヴィル・ワン相手に無力化は無理だったが、絶叫を上げながらそれによって一気に力が抜けてズルズルと吸い込まれて行く。
「ぐぐ……くそっ、くそおおおおっ!!」
だが、まだディルクが吸い込まれまいと最後の抵抗にエヴィル・ワンの背中から飛び上がった。
「僕はまだ死んでたまるかっ!! 死ぬもんかああああっ!!」
「っ……!!」
杖を上下逆に持ち、鋭く尖っている柄の先端を地面の土の部分に全力で垂直に突き刺したディルクはそこで吸い込みに耐えるべくぶら下がる形になった。
しかし、その後には彼と同じ様に段々地面の中に吸い込まれて行くレウスの姿があった。
ディルクが杖を刺して持ち堪えているのを見たレウスは、最後の力を振り絞って足を突き出す。
「往生際が悪いんだよぉぉぉっ!!」
「ぐっふぉあっ!?」
ディルクに対して、空中で繰り出された全力のきりもみ回し蹴りがディルクの顔面にヒット。
その顔面へのクリーンヒットにより、ディルクの手から力が抜けてエヴィル・ワンとともに一気に地下へと向かって吸い込まれて行く。
「うっ……うわあああああああっ!!」
「ぐぅ、うっ!!」
レウスも吸い込まれそうになるが、今しがた突き刺されたディルクの杖に掴まる為に手を伸ばす。
だが、それをレウスが掴む事は出来なかった。
この土壇場で、レウスは頼みの綱を掴む事が出来ずにエヴィル・ワンにとどめを刺した槍と一緒に吸い込まれて行く。
(はっ、はは……ここまでか……)
考えてみれば、自分は五百年前にエヴィル・ワンと一緒に死んだ人間。だからここで一緒に吸い込まれ、そして死を迎えるのが一番ふさわしいだろう。
そう考えていたレウスが上に伸ばしていた両腕を下ろしかけたその時、ガクンと強い衝撃が身体全体に走った。