870.こんな戦いはもうここで終わりにしてやるよ!
準備が出来たレウスは、傍らで同じく魔力を送り込んでいたアンフェレイア改めレメクと顔を見合わせて頷き合う。
地下通路の中にある、この正方形に形取られている大きな広場。そして以前ここに入った時にティーナが広場の壁に見つけた、壁と同色の取っ手。
ガコンと音をさせて動かせるその取っ手を上に動かせば、この床が左右に分かれて開く扉となり周囲の物を少しずつ吸い込み始めるのは既に経験済みだ。
そもそもこの扉はレメクが造ったのでその当事者が隣に居るとなれば、彼女もまた付き合う責任があるだろうとレウスは考える。
「良し、それじゃあ今からエンヴィルークがこの広場の真上にあのでかい奴をおびき寄せるから、そこでここを開けて一気にあいつを吸い込むぞ!」
『それは良いんだけど、私と貴方の魔力をありったけ注ぎ込んだから前よりもかなり吸引力が強いわよ!』
「分かった。だったら俺が取っ手を上げるから、あんたは吸引が本格的に始まる前に俺を引っ張り上げてくれ!!」
エヴィル・ワンをここまで誘い込み、そしてここで一気に吸い込んでこんな戦いを全て終わりにするべく、レメクからアンフェレイアの姿に戻った彼女を協力者としてテレパシーによる連絡も併用する。
「おいエンヴィルーク、今はどの辺りだ!?」
『後もうちょっとでそっちに着く! 準備しておいてくれ!!』
「分かった、頼むぞ!!」
そう連絡を受けたレウスがアンフェレイアに目配せをして、壁についている取っ手を全力で上に上げる。
エヴィル・ワンがこの中に吸い込まれたらまた下げて一気に封印をするのだと考えたレウスは、アンフェレイアの背中に乗せて貰って開き始めた天井から外に出てその吸引力をチェックする。
前回は人間も獣人もじわじわと吸い込まれて行く程だったのだが、今回は製作者のアンフェレイアが言っている通り、外に出ている途中だったのにも関わらず吸い込まれ始めていたのだ。
「う、うわっ……こりゃあ凄いな!!」
『入れられるだけの魔力を入れて吸入機能を全開にしているんだから、それは確かにこうなるわよ!! エンヴィルークには直前でエヴィル・ワンだけを何とかしてここに吸い込める様にして貰うしか無いわね』
もはや、この吸引場所の周囲に居るだけでもかなり危険な状況なのは間違いないので、アンフェレイアとレウスは即座にここから退散すると同時にテレパシーで危険地帯なのだと連絡を入れる。
『……わーったよ。それだったらこっちのワイバーンに乗っている女どもはちゃんと避難させっからよ!!』
「頼むわよ!!」
こうして最終段階に入ったエヴィル・ワンの封印計画だったのだが、相手が相手なだけに一筋縄で行けるとは到底思っていないレウス。
本当なら簡単に封印出来てしまえばそれで良いのだが、どうにも嫌な予感しかしないのは何故だろうか。
それは恐らく、エヴィル・ワンだけではなくその背中にディルクが乗っているからだろうと考えていた。
それでもここまで来たら引き返せないので、エンヴィルークがアンフェレイアと連絡を取ってエヴィル・ワンを連れて来るのをその視界に捉える。
既にそのエヴィル・ワンの周囲を飛び回っていたワイバーンの姿は一匹も無い事から、パーティーメンバー達は既に退却したのだろうととりあえず一安心のレウス。
しかし問題はここからである。
エヴィル・ワンを誘い込んだのは良いが、その背中に乗っているディルクが地面の異変に気が付いてしまったのだ。
「あれは……くっ、何かをするつもりだろうけどその手に乗るか!!」
「逃がさない!」
エヴィル・ワンをコントロールして方向転換し、吸引から逃げようとするディルクとエヴィル・ワンだが、せっかくエンヴィルークがパーティーメンバー達を避難させてくれた上でここまで誘導して来てくれたのに、ここで逃がしてしまう訳にはいかない。
だからこそ、アンフェレイアの背中に乗っているレウスは彼女が自分に掛けている魔術防壁の恩恵を受けつつ、逃げようとするエヴィル・ワンの前に立ちはだかった。
「僕の邪魔をするんじゃない! この五百年前の死に損ないが!!」
「それはちょっと違うぞディルク。俺は五百年の時を経てこうして転生したんだ。せっかくこの時代に生まれたんだし、今度は平穏に暮らそうと思っていたらこのザマだ。だから……こんな戦いはもうここで終わりにしてやるよ! エヴィル・ワンもろともお前をここで終わらせてなぁ!」
「へぇ……出来るものならやってみれば良いさ。こっちだって君に計画をメチャクチャにされたけど、僕が生きてさえいればまた仲間を集めてどうにかなるんだからね」
そのディルクの声に呼応したエヴィル・ワンが、口からまた炎のブレスを……ではなく今度はディルクと同じ様に特大のエネルギーボールを吐き出したのだ!
まっすぐに猛スピードで飛んで来るそれをアンフェレイアがギリギリで回避したのは良かったが、その緊急回避先を読んでいたディルクが持っている杖を振りかざす。
それは魔術を使う為ではなくて、一気にレウスに接近して彼を地面へと叩き落とす為だった。
だが、事前にアンフェレイアが張っていた魔術防壁のおかげでその攻撃はブロックされる。
「ちっ……!」
「今度はこっちの番だ!!」
「うおっ!?」
魔術防壁によって阻まれた攻撃に舌打ちしているディルクを見つつ、アンフェレイアとともに素早くエヴィル・ワンの下に回り込んだレウスはエンヴィルークと同じ様に、アンフェレイアにエヴィル・ワンを下から上に突き上げて貰う。
更にそれだけでは終わらず、突き上げによって体勢を崩したエヴィル・ワンの腹に思いっ切り噛み付いたアンフェレイアが全力で自分の身体をブン回し、空中から地面に向かって叩き付ける形で投げる。
しかし、身体の大きさから来る重量差もあってそこまで吹っ飛ばなかったので、ダメ押しの体当たりで穴の方に向かって突き飛ばした。
「うあ、わああっ!?」
『ガウウウウッ!?』
その体当たりが功を奏した様で、エヴィル・ワンとディルクが吸引範囲に入ったらしくドンドン穴の方へと吸い込まれ始めた。