869.総仕上げ
一方のエンヴィルークはルルトゼルの村に向かい、そのエヴィル・ワンを改めてじっくりと間近で見る事に成功していた。
だがそれは、彼の予想を遥かに超えるものであった。
【おいおい、こりゃあ五百年前にこの世界を荒らし回ったエヴィル・ワンよりも更に大きいぜ。あの時は確かこれの半分位の大きさしか無かった筈なのに、こうして目の前で見てみると俺様の倍はあるんじゃねえのかぁ!?】
神のドラゴンである自分よりも更に大きな体躯を持っている、と言うだけでも何だか頭に来るのに、五百年前に一度この世界を滅ぼし掛けたこのドラゴンが復活してしまったのが更に頭に来る原因だった。
だが、自分よりも遥かに頭に来ているのは間違いなくあのアークトゥルスの生まれ変わりだろうと考えるエンヴィルーク。
自分が五百年前に滅ぼしたドラゴンがまた、こうして世界を滅ぼそうとしているのを必死で食い止めようとしている彼の努力を無駄にしない為にも、エンヴィルークはこの大きなドラゴンに軽く攻撃してみる。
『そりゃっ!』
『ガアアアッ!!』
『うおうっ!?』
手始めに炎のブレスを吐いてみたのだが、それを上回る大きさの炎のブレスをぶつけられて危うく押し返されてしまう所だったので、エンヴィルークは押し返されたそのブレスを回避して大体の実力を見極める。
【こりゃあ確かに五百年前にこの世界を滅ぼしかけたってのは伊達じゃねえな。けどよぉ、俺様の世界でこれ以上好き勝手やられちゃ困るんだぜ。俺様はこの世界の監視者なんだからよぉ!!】
ゴォッと音を立てながらエヴィル・ワンの周りをグルリと旋回し、攻撃出来そうな場所を見つけようとするエンヴィルーク。
しかし、攻撃されて黙っている様なエヴィル・ワンとディルクでは無い。
「あのドラゴン……噂に聞いていた神のドラゴンらしいけど、僕達の野望を邪魔する者は誰であろうと、何であろうと潰すしか無い。そして僕が新しい神になるんだからね!!」
【何言ってんだこいつ】
聞いている方が恥ずかしくなりそうなセリフを平然と言い放つディルクの声が聞こえたエンヴィルークは、何故だか背筋が寒くなりながら心の中でそう呟く。
こうなったら、神である自分に刃向かおうとするのは愚かであると教えるべくディルクの攻撃を全てブロックしたり回避する作戦に出た。
振り回される尻尾を回避し、吐き出される炎のブレスを体当たりで中断させ、エヴィル・ワンの下の方に回り込んで上に向かって突き上げる。
この世界の神は自分とアンフェレイアだけで十分だ、と思いながら戦いを繰り広げるエンヴィルークは、このドラゴンの腹を突き上げた時にふと思った事がある。
【俺様もドラゴンだから分かるが、幾ら五百年前の怪物だったとしても腹が弱点ってのは変わらねえらしいな!】
だったら倒す時には腹を狙う様にするべし! と連絡の為にテレパシーを使い始めたエンヴィルークによって、レウスを始めとする地下の部隊とワイバーンに乗っているパーティーメンバー達に伝えられる。
「え? 腹を狙うのか? それは無理だぜエンヴィルーク」
『どうしてだよ?』
「エヴィル・ワンは乗っているディルクの手によって強力な魔術防壁が掛かってしまっているんだ。あんたは神だから魔術防壁なんて関係無いと思うけどさ、俺達にとってはその魔術防壁を破らないとダメージすら与えられないんだよ!」
『んー、それもそうか……』
そうだ、神である自分と普通の人間や獣人達とは常識が違うのだ。
それを頭に入れ直して何か良さそうな攻撃方法が無いかを考えるエンヴィルークだが、それよりも先にレウスから返答があった。
「それよりも、こっちはその怪物を倒す為の手筈が整ったんだ。今からその手段を取るから、あんたはアレットやエルザ達を引き連れてエヴィル・ワンを誘導してくれ!」
『ゆ、誘導?』
「そうだ。そして誘導したらあんたは一気にそこから離脱するんだ。じゃないとあんたまで一緒にこの世の中に戻って来られなくなってしまうぞ!」
『え、あ、お、おう……』
やけに壮大な話をし出したもんだ、と思いながらもエンヴィルークはレウスに指示された場所へエヴィル・ワンを誘導するべく、目の前を飛んでいるデカブツに全力で体当たりをする。
『このおおおおっ!!』
「うわああっ!?」
『グガアアッ!? ガウウウアアアアアアッ!!』
計算通り、この体当たりによって怒り狂って追い掛けて来るエヴィル・ワン。
そして先程の連絡を聞いていたアレットやエルザも、それを見てその追い掛けっこを追尾し始めた。