863.成長
「おおお……凄いぞエヴィル・ワン!! これだ……これこそが僕の求めていた力なんだあ!! うははははははははっ!!」
興奮が止まらない。これまで生きていた人生の中で、これ以上無い大興奮である。
それもその筈で、エヴィル・ワンが成長しているのをこうして間近で見ているのだから興奮しない訳が無かった。
身体の欠片を石碑の近くから掘り出したエヴィル・ワンが口の中にそれを含み、そして飲み込む。
するとその瞬間、ドラゴンの身体が紫色のオーラに包まれる。
そしてそのオーラの中で、今までよりもおよそ二倍の大きさに巨大化して行く上に顔つきも狂暴になり、そして鱗もディルクが乗る場所と腹の部分以外が刺々しくなったのだ。
近くに居るだけでも感じるこの圧倒的な威圧感と恐怖心。
それは、かなり離れた場所でエヴィル・ワンを探していたレウスにも感じる位に強いものである。
(こ、これは……この気配は間違い無い、五百年前にあいつと対峙した時と……五百年前のエヴィル・ワンの気配と全く同じだ!!)
すぐさまその気配がする方角へとワイバーンを飛ばすレウス。
すると、そこにはやはり五百年前に自分が仲間とともに討伐したエヴィル・ワンそのものの姿があった。
それを見て、レウスはギリッと歯軋りをする。
(くそっ、あの様子だとどうやら俺がカシュラーゼに突入する前にこのルルトゼルの村の住民達に頼んで保管して貰っていた身体の欠片が見つかって、それを体内に取り込まれてしまったらしいな!!)
だとしたら、これ以上の被害が出ない様に自分が何とかするしか無い。
既にルルトゼルの村はその一部が炎の中に飲み込まれてしまっているので、恐らくその炎もエヴィル・ワンが炎のブレスを吐き出した結果だろうと容易に想像出来た。
とにかくまずは、あの背中の上に乗っている凶悪な魔術師にエヴィル・ワンを操られてしまっている以上、彼を倒さなければエヴィル・ワンそのものを止める事は出来ないだろう。
そう考えたレウスは魔術防壁を掛けたワイバーンを上昇させてエヴィル・ワンの上空に回り込み、そこからアプローチを仕掛ける。
しかし、それをディルクは予想していたらしくそのまま一気に上昇し、下から突き上げる体当たりを仕掛けて来た。
「くっ!?」
『ガアアアッ!!』
雄叫びを上げながら下から浮き上がって来るドラゴンを回避して、レウスは体勢を立て直して再度アプローチを試みる。
どうにかして接近しなければダメージを与えられないのは分かっているものの、その図体に見合わない程に旋回速度も上昇スピードもかなり速いので、なかなか隙が見当たらない。
(う……これはまずいな。五百年前に戦った時よりも今回の方がかなり手強い気がするぞ……)
五百年前と違うのは、まず仲間が誰も居ない事。
前回は自分以外にもガラハッド、トリストラム、ライオネル、エレインと四人の仲間が居たのだが、今回は自分一人だけなので戦力としては圧倒的に不利である。
そもそも、五人の力を合わせて五百年前にエヴィル・ワンを倒せたのに今回は自分一人しか居ないので、真面目にこの化け物を倒せるかが分からない。
それから前回は地上をメインに戦ったのに、今回は空中戦である。
地上でならば人間も獣人も自由に動けるのだが、こうしてワイバーンに乗ったままで戦う空中戦ではその移動出来る範囲が恐ろしく狭くなる。
空中では翼のある鳥人やドラゴン、それからワイバーンの方が有利なのは当たり前なのだから。
そして何より自分が不利なのは、エヴィル・ワンを操っている人間が居ると言う事だ。
ただでさえディルクだけでも非常に厄介な相手なのに、エヴィル・ワンと一緒と言う事でレウスは圧倒的に不利な状況に追い込まれているのだ。
(あれの準備はまだ出来ていないみたいだな。何時でも使える様に準備をしておいてくれって言った筈なのに……くそっ、こうなったら準備が出来るまでなるべく俺の方にこいつの意識を向けさせておくしか無いな!!)
それしか無いと考えたレウスは、エヴィル・ワンの周囲を大きく迂回して頭の方へと回り込む。
完全に「どうぞ狙って下さい」と言っている様なものであるが、この凶暴なドラゴンを引き付けるにはこれしか無いのだ。
そのレウスのワイバーンを見たディルクは、少し考える素振りを見せる。
(あのアークトゥルスの生まれ変わりが、こうしてわざわざやられに出て来るとはあんまり考え難い。だとしたら何か考えがあって、こうして目の前に姿を現わしたとしか思えないな……)
この行動には絶対何か裏がある筈だ。
だがそうやって二人の思考が絡み合う一方で、物理的に絡み合っている人物達も居るのであった。