862.復活したての力
そのエヴィル・ワンが向かう先を否定せず、ただこのドラゴンの本能に任せようとするディルクは行き先をこのドラゴンに任せる。
ドラゴンが鼻を動かしているとなれば、本能によって何かを発見したらしいからだ。
一体何を見つけたのかと思いながら、広大な陸地が広がる景色を見下ろしてみればルルトゼルの村が見えて来ていた。
「ほうほう、そうか……あれがあそこにあるってのはやはり間違い無かったらしいな。ルルトゼルだったら確かに僕達カシュラーゼでもなかなか入れないからね。だけど……」
この復活したエヴィル・ワンがあれば、そんな獣人だけのルルトゼルの村なんて大したものでは無い。
アークトゥルスの生まれ変わりと仲が良くなったらしいが、それもこのエヴィル・ワンの前には何も通用しない。
それを今から存分に見せてやろうと考えるディルクは、このドラゴンの本能が正しい事を願って急降下を始める。
そしてルルトゼルの村の村長ボルドを始めとする住民達は、上空から異様なシルエットの生物が降下して来るのを発見した。
「そ、村長っ!! 緊急事態発生! 敵襲です!!」
「な……何だと!?」
「まさか……あのアークトゥルスの生まれ変わりから連絡があった、エヴィル・ワンじゃないですか!?」
村の若者であるガレディがそう指摘すると、ボルドは頷いて周囲の村人達に手早く指示を出す。
「良し、おまえ等はあれの守護だ! それからガレディ達はあれの起動をするんだ!!」
「はい!」
獣人達が一致団結して、このルルトゼルの村を守るべく行動を開始する。
何時でもすぐにあれを起動出来る様にしていたのだが、空中から降下して来る生物の方が一枚も二枚も上手だった。
まず、その口から吐き出される炎のブレスは今までこのルルトゼルの村に襲撃して来たどんなファイヤードラゴンよりも射程距離が長く、温度も高くて範囲も広くて村の大半を焼き尽くそうとしていた。
「くっそ、消火だ消火!!」
魔術が使える者は水の魔術を駆使して消火に当たるが、今度は翼をバサバサと動かして強風を起こして費を拡散させる。
延焼を起こしてどんどん広がる火の手が村を包み込んで行くが、それはあくまで村人達の意識をそちらに引き付ける為に必要な事でしか無かった。
(ふふふ、流石はエヴィル・ワン。復活して間も無いこの状況でさえこの威力となれば、ますます楽しみだ……このルルトゼルの村に置いてあるかも知れない、身体の欠片を体内に取り込んで成長するのがな!!)
本能で、自分と同じ波動か何かを感じたのだろうか。
復活したエヴィル・ワンはその五百年前の身体の欠片を求め、再びバサリと翼を動かして燃え盛る村には目もくれず、一気にあのライオネルの石碑がある中央区画へと飛び始めた。
それを目撃したボルドは、ギリッと歯軋りをして全力で止める様に指示を出す。
「まずいぞ……あの方向には既に身体の欠片を守護している部隊が居る筈だが、今しがた向かわせた増援達が揃っても抑え切れるかどうか分からん! 早急にあれの起動を! そしてあいつをここで何としても倒すんだ!!」
その指示に従って、エヴィル・ワンの身体の欠片を護っている村の住民達。
しかし、ディルクが復活させたエヴィル・ワンのやり方は予想を遥かに超えるものであった。
「つ……突っ込んで来るぞ!!」
「怯むな、攻撃だ攻撃!!」
弓を使って矢を射っても、強力な魔術を使っても、大勢で武器による接近攻撃を仕掛けてもまるで歯が立たない。
しかも相手はエヴィル・ワンだけではなく、復活させた張本人であるディルクも居るのだ。
「んー、せっかくエヴィル・ワンが自分の意志でここまで来たって言うのにそれを邪魔するの? それは良くないよね……!!」
空中から地面に向かって杖を振りかざし、一瞬で地面に巨大な魔法陣を生み出したディルク。
その魔法陣からは大小問わず様々な魔物が現われる。
それはあのアークトゥルスの生まれ変わりとディルクが初対面の時に生み出された魔法陣の、さらに強力なものだったのだ。
ディルクがその魔物召喚魔術で住民達を更に混乱に陥らせている中で、エヴィル・ワンがお目当ての物をライオネルの石碑のそばに発見した。
『グルルルルゥ……!!』
「ああ、そうか……それだね。だったら自分の身体を食べて成長するんだよ。ほら……五百年前に倒されてしまった恨みがたっぷり籠もっているんだよ?」
『グウウウ、ガウウウウッ!!』
まるで子供をあやすかの様な口調でそう指示するディルクの声を聞き、エヴィル・ワンが自分の身体の欠片を食べ始めた。