860.空中の追撃
ラスラットがエレベーターの中に転落して行ったその頃、レウスはアンフェレイアの探査魔術によって得られた位置情報を元にして、ようやく先に追撃をして行ったグループに追い付いていた。
(見えた、あれだな!!)
そのグループの姿を視界に捉えたものの、その瞬間レウスは奇妙な悪寒を覚える。
その悪寒の正体はと言えば、見つけたそのグループの更に先から感じられるおぞましい姿だった。
(あ、あれは……!!)
自分の脳裏に蘇る光景。
かつて、五百年前に自分達が旅の終わりで対峙して退治した……普通のドラゴンとは一線を画しているその姿。
まず、普通のドラゴンは目が二つしか無い筈なのに「それ」は両側に二つずつ縦に並んでいて、合計で四つある。
その四つの目が真っ赤な瞳を持っているだけでも恐ろしいのに、普通のドラゴンに二本しか生えていない筈のツノが全部で四本あるのもおかし過ぎて恐怖を覚える。
流石に脚は四本だがかなり太い。しかも爪は頑丈で鋭い上に恐ろしく長い。引っ掻き攻撃だけでも生身の人間や獣人が喰らえば一撃で死んでしまうのが目に見えている。
更にウロコも普通のドラゴンとは強度が違うので、まるで強化された鋼鉄に武器を叩き付けている感触しか無かったのが今でも思い起こされる。
極め付けはその尻尾。通常は一本しか無い筈の尻尾が「それ」からは二本生えており、ケルベロスもビックリである。
こんな普通では考えられない身体のパーツ構成をしているドラゴンこそ、レウスが仲間達と一緒に五百年前の戦いで命を懸けて戦った……。
(エヴィル・ワン……復活したのかっ!!)
恐れていた事がついに起こってしまった。
エドガーとの戦いで聞いていた話からすれば、まだ復活して間も無いので倒すなら今がチャンスだとは思うのだが、それを邪魔する存在がまだその周囲に残っているらしい。
(追撃している二匹のワイバーンの先に燃えるあのエヴィル・ワンの周囲に、まだ二匹のワイバーンが居るな……だったらこのまま追撃して……って、ん?)
かすかに見える、そのエヴィル・ワンの周囲に居る二匹のワイバーンの内の一匹の背中に乗っている金色の長髪の人物。
それが間違い無いなら、レウスが守るに守れないどころか自分の目の前でさらわれてしまったレアナである。
そしてそれをアレットとソランジュとアニータが追い掛けているので、急いでその三人のワイバーンの横に並ぶ。
「おーい、お前等大丈夫か!?」
「れっ、レウス!?」
「お前等がこっちに飛んで行ったと聞いて急いで追い掛けて来たんだ。それよりもあの追い掛けているのは……」
「ようやく見つけた。あの赤毛の二人……レウスと因縁のあるヴェラルとヨハンナの二人だ」
しかし、そう言うアニータはこの状況では弓を持っても射るのは無理である。
こんなワイバーンの上で立つだけでも無理なのに、弓を構えて狙いを定めるのは流石にやった事が無いのにここは追撃に徹する。
今はどうやって何処を通っているのかが分からないまま、こうして無我夢中で追い掛けて来ただけなのだが、そのレウス達の前を飛んでいるヴェラルとヨハンナの二人は苦々しい表情になっていた。
「ちっ、やっぱり最後に立ちはだかるのはあの男か!!」
「どうします、ししょー!? あのワイバーン達を振り切るか倒すかしないと、何時まで経っても追い掛けて来ますよ!!」
「そうだな……だったら二手に分かれるんだ!! その女は任せるぞ!!」
「分かりました! 師匠も気を付けて下さいね!!」
せめて戦力を分散させる事で、何とかこの追撃して来るワイバーンを振り切るしか無いと考えたヴェラルはすぐさま行動に移る。
目配せをした二人はワイバーンをコントロールして、一気に左右へと分かれて明後日の方向へ飛んで行った。
「くそっ、二手に分かれた!!」
「だったら私はヨハンナを追い掛ける。ソランジュとアレットはヴェラルを追い掛けて、レウスはあのエヴィル・ワンを追い掛けて!!」
「おい、接近戦は大丈夫なのか?」
「大丈夫、何とかしてみせるから貴方もエヴィル・ワンを止めて!」
そう言い残してアニータはヨハンナを追い掛けて行ってしまった。
迷っている時間は無い、とアレットとソランジュはヴェラルの乗るワイバーンを追い掛け、レウスは復活してしまったエヴィル・ワンを引き続き追撃して行った。